乙女ゲームのヒロインに転生したけど恋の相手は悪役でした!?

高遠すばる

文字の大きさ
13 / 40
学園編序章

出会いイベントは想定外です!

しおりを挟む
「彼女が……」
「ティーゼ侯爵家の……?」

 談笑に隠しきれぬ無遠慮な視線がリーゼロッテに突き刺さる。
 これまで家の外に顔を出さなかった、名門ティーゼ侯爵家の養子とはどんなまのかと値踏みするようなそれに、リーゼロッテはため息をついた。
 侯爵令嬢とはいえ、リーゼロッテはあくまで養子だ。青い血は半分流れている、とはいえ、血統意識の高いこの国では、雑種に過ぎないということだろうか。
 そんなの、庶民の間では通用しないわよ、とリーゼロッテは心の中で悪態をつく。
 ゲームにおいて、たしかヒロインは男爵とか子爵の令嬢として引き取られていたから、多分この状況はゲームよりずっといいのだろう。
 この学園に来て1週間だが、今も受けるのは視線やひそひそ声だけで、リーゼロッテに直接の嫌がらせをするような相手はいなかった。
 恥ずかしい話だが、ここに来てリーゼロッテは、引き取られた家の力というものを知った。
 アインヴォルフ国における王家以外で、いや、場合によっては王家すらしのぐと言われる最大の権力を持つヒュントヘン公爵家と並ぶ名門、ティーゼ侯爵家。
 攻略対象のうちひとりが王太子アルブレヒトで、もう1人がヒュントヘン公爵令息のヴィルヘルム。
 残念ながらその2人以外思い出せないのだが、まあリーゼロッテの今の立場が、ゲームの顔であった二大巨塔とはれるということは確かだ。

 だからといって、遠巻きにされても嬉しくもなんともないが。
 ただ今リーゼロッテは、広々とした学園の庭、次の講義のある教室への道を探してうろうろとさまよっていた。

「ああもう!右見ても左見ても薔薇しかない!この国はどれだけ薔薇が好きなの?せめてもっと低く植えてよ!」

 思わず声を大きくしたが、気付くものは居ない。もうそろそろ授業の時間だから、園舎の中にいるのだろう。
 この広大な薔薇園の生垣に阻まれて建物の中にすら入ることのできないリーゼロッテは、そろそろ限界だった。

「このままじゃ、ヴィーに会う前に退学だわ」

 貴族が集う、イコール、教育にかけられるお金が多い、すなわち、求められる学力が高いという方式がもれなくついてくるこの学園で、流石に教室に遅れ過ぎて単位が修得できないというのはまずい。
 からんからん、と授業開始の合図の鐘が鳴り、リーゼロッテは顔を青くした。

「ええ……どうしよう……」

 焦りが足元に落ちる。
 上を見上げて、いっそ窓から入ろうかと思って背伸びをする。だから、リーゼロッテはうっかり、足元の小さな段差につまづいてしまったのだった。

「あえ?」

 ぐらりと体が傾ぐ。そして眼前には薔薇の生垣。
 おや?やばいのでは?
などと思う余裕があったのは、リーゼロッテが現実を理解できていなかったからだ。棘がついた薔薇の木が、リーゼロッテの顔面に迫りーーしかし、リーゼロッテの白い肌に傷をつけることはなく遠ざかった。

「いくらなんでも、のろま過ぎないか」

 呆れたような声が降ってくる。は、とリーゼロッテが首だけで振り返ったそこには、黒い髪に青い目の美少年。
 待って!?と。リーゼロッテは心の中で悲鳴をあげた。
 クロヴィスの死の元凶ーーリーゼロッテの敵が、なぜ!ここに!

「あ、アルブレヒト、王太子、殿下」

 攻略対象、アルブレヒト。通称公式バグ王子。
リーゼロッテの腰を支えて、その少年が、呆れたような顔をしていた。

「声と顔が一致していない。なるほどあいつの言った通りだ」
「な、ナニガデショウカ」

 カタコトの言葉、目はそらす。リーゼロッテはできることなら気絶したくなった。
 心の準備ができていない。だってコイツは敵だ。
 攻略対象とヒロインなどと知ったことではない。
 その証拠に、アルブレヒト攻略ルートはすでに発生フラグごと折れて久しく、目の前の目からは恋に落ちる音など前奏からして聞こえてこない。
 ひややかにリーゼロッテを見下ろす目には、ただ家畜か何かの検分の目的らしい色だけがある。

「お前は一年遅れだったな……ならば一年か。そこの生垣を右、黄色い薔薇が見えたら左に曲がって直進だ。あの教授は足が遅いからまだ講義は始まっていないはずだ。急げば間に合う」
「は、はい?」
「急げば。間に合う」

 急げ、のところを強調して言ったアルブレヒトに、リーゼロッテは立ち去れと命じる意志を感じた。
 言われた通り、右に早足で進みつつ思う。

 なんだあれ、なんだあれ。
 フラグはたしかに折れたはず。
 ときめきなんぞかけらもない。あの王太子もそうだろう。けれど、あのセリフはたしか、運ゲーを超えて愛犬シャロが生き残ったルートの出会いイベントのものだ。
 ゾッとして、リーゼロッテは今更震えた。
 なにが起こっているのかわからない。
 その先にある、クロヴィスへ降りかかる危険を思って、リーゼロッテはぐぅと喉を鳴らした。

 誰かが、運命を変えている?
 もしそうだとして、リーゼロッテはなにをすればいいのか。考え過ぎて頭が痛くなるだろう。今日は眠れないに違いない。
 足早に、もはや駆けているリーゼロッテの背後で、薄い金髪の少年が、黒髪の少年の元へ歩み寄った。
 小さな声で、2人は会話を交わしていた。けれどそれを、考え込んでいたリーゼロッテが聞くことはなかった。

「彼女は、本当に表情がないんだな」
「確かめるためにリズに触れたと?」
「そう殺しそうな目をするな。とっさに手が出せたのは僕だけだろうが。……ただ、そうだな。あれは、根が深い問題だと、思っただけさ」
「それでも……それでも、リズに触れていい異性は僕だけですよ」

 黒髪の少年ーーアルブレヒトは、呆れたような顔をして言った。

「僕はお前のことを言えないがーー……。本当に嫉妬深いんだな。クロヴィス・ヴィー・ティーゼ」 

 その言葉に、薄い金髪を肩でゆるく結った少年ーークロヴィスは、皮肉げにわらう。

「そんなの、お互い様でしょう」

 その緑の目に、遠ざかる蜂蜜色をうつしたまま。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

処理中です...