教室の窓から

いえろ~

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第1章 春

4.やりたいこと

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 翌日の放課後、2人だけの教室。

「昨日教えたところ、ちゃんと復習してきたか?」

「自分なりにはやったよ」

「それ、ちゃんとやってない奴が言うことだからな。第一、お前今日の授業寝てただろ? 家でさえ勉強しねえ奴は、授業で覚えねえと勉強できねえからな」

「わかってはいるんだけどさ~……」

 苦笑する岡をよそに、嵯峨本さがもとは一枚のプリントを机に出した。

「ということで、昨日教えた範囲のミニテストを作ってみた。制限時間は15分。テストっつっても、中身は比較的簡単な計算問題と、1題の文章題だから、あまり気張らなくてもいいぞ」

 それじゃあ、スタート。岡はスラスラ解き始める。意外としっかり勉強しているのかもしれないな。

「ちょっと悪い、便所行ってくるわ」

 トイレに行き、用を足す。

「お前、意外と便所長いな」

「えっ、誰⁉」

 不意を衝かれてかなり驚いた。後ろを見ると、見覚えのある坊主頭が立っていた。生徒会長の長田公康おさだきみやすだ。2年の時に同じクラスになり、それからの縁だ。

長田おさだか。キモッ、いや、これはキモ過ぎるぞ。お前、マジで友達消えるぞ」

「大丈夫、大丈夫! お前にしかこんなことしないから!」

 その言葉を聞いて、更に嫌悪感が増す。便器から立ち去るとき、嵯峨本は文字通り表情を歪め長田を睨みつける。長田は素知らぬ顔をし、話題を変えた。

「そういや、お前、最近放課後、岡といるでしょ。勉強でも教えてんの?」

「あぁ、バーガー3日分を報酬にな」嵯峨本は手を洗いながら返した。

「流石、ちゃっかりしてるなぁ」

 長田は目の前の窓から遠くを見つめて言う。

「全然関係ないけどさ、アイツ、絵を描くのが好きなんよ。小6の時に同じクラスになったんだけど、休み時間に絵ェばっか描いてて。しかも、アニメキャラとかじゃなくて、ガッツリ風景画。窓から見える景色をずっと描いてたよ」

「それが、どうかした?」

 全く関心が無い嵯峨本に長田は軽く笑った。嵯峨本は長田の話に滅多に興味を示さないため、大体いつもこんな感じで笑うのだ。

「相変わらず愛嬌のない奴だなぁ。ただ思い出しただけ。じゃあ、俺生徒会あるから。またな」

「おう。また」

 手を洗わず出ていく長田を見て、本当に縁を切ろうかと思った。

   * * *

 教室に帰ってくると、岡がスケッチブックを机に広げていた。

「テスト、解き終わったん?」

「あぁ、ごめんね。うん。解き終わったよ」

「そっか。じゃあ、採点するか」

 採点しながら、長田の話とさっきのスケッチブックが頭に浮かんだ。

「岡ってさ、家では何やってんの? どうせ、勉強してないだろうけど」

「……いや、特に何も」岡は少し間を空けて言った。

「じゃあさ、高校でやりたいことはないの?」嵯峨本は食い下がる。

「特にないなぁ。勉強はしたくないけど」しかし岡は変わらない。

「嘘だな。何もやりたくない人間なんて本当はいないんだよ」

 嵯峨本は静かに言い放つ。岡は短く呻きのような声をあげる。

「生徒会長から聞いたんだけど、お前、絵を描くの好きらしいじゃん。そのスケッチブックもそうだろ?」

「あっ……、うん。好きだよ。まあ、あまり上手いとは思わないんだけど」

「そうなのか。じゃあ、本当は極めたいんじゃないのか?」

「本当はね」岡は恥ずかしそうに小声で言った。

 思い通りの答えが来て、嵯峨本は満足したように話を締めくくる。

「そうか。でも、程々に勉強しろよ? 筆記で落とされたら元も子もないからな」

「うん」岡は真顔で――いや、少し寂しそうに頷いた。

 肝心のミニテストの点数は75点だった。まずまずといったところか。
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