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第3章 鍛練
第54話 シチローの能力
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太刀は上段。
間合いは一刀一足。
視線は望洋。
姿はすっと立ち。
下半身は柔らかく。
右足やや踏み出し。
足裏は三点付け。
呼吸は浅く、長く。
シュッと呼気を洩らし、掌を締めつつ腕が落ちる。
龍の口が開き太刀先は自在。
膝の撓みが腰を押し立て、体幹はぶれるコトなく、足裏がキュッと鳴く。
太刀筋は直ぐにて重く、滑らかに流れてピタリと止まる。
姿勢維持。
再び始めの姿勢に戻り、呼気一つ。
肺の空気が出ていけば、自然に空気が入ってくる。
「うん。いいな」
一連の動作を見ながら、クレイは大きく頷いた。
「これがシチローの能力だろう」
クレイから声を掛けられ、身体から力を抜いて突っ立つ僕。
「僕の・・・?」
いまいち要領を得ない僕の返事に、クレイは笑った。
「分析と記憶。あとは模倣か?」
分析とは術理の理解だろうか。
記憶は一度見た形を完全に覚えているコトらしい。
模倣はその形をなぞり、表に現す能力。
兵法特化の能力だと、クレイは嬉しそうに説明する。
最初に技を見せてから、二週間後のコトである。
今では一刀両段はコピーしたように同じ動作を繰り返せる。
模倣の能力は、おそらく途中に覚醒したのだろうと、クレイは考えていた。
身体の動きが形の記憶に置いていかれ、しばらくはチグハグな動作になっていたようだ。
記憶が完全な分、自身の身体能力の低さに苛立ち、シチローは自主的にランニングを始めた。
元々身体を動かすのが好きだったのだろうが、病気が原因で安静を余儀なくされ、運動は嫌いだと拗ねてしまったのが、前世のシチローだった。
身体が健康な状態になり、それでも思った通りに動けないコトを自覚し、シチローは選んだのだ。
出来るだろうコトを出来るようにする努力を。
そして、その努力はシチローにとって楽しいコトだった。
出来なかったコトが出来る喜びを知ったのである。
当然、シチローはハマってしまった。
言葉遣いが生意気なのは相変わらずだが、表情に絞まりが出たと、クレイは嬉しそうに笑った。
スリッパはナターシアに返そうとも思った。
ここしばらく使うコトがなかった、懐のスリッパを、クレイは残念そうに触って名残を惜しんだ。
「ある程度動けるようになったな、シチロー。次の段階に入るか」
「二本目?」
「いや、勢法は古式にしよう。知っておいて損はない」
それより、とクレイは続ける。
間合いは一刀一足。
視線は望洋。
姿はすっと立ち。
下半身は柔らかく。
右足やや踏み出し。
足裏は三点付け。
呼吸は浅く、長く。
シュッと呼気を洩らし、掌を締めつつ腕が落ちる。
龍の口が開き太刀先は自在。
膝の撓みが腰を押し立て、体幹はぶれるコトなく、足裏がキュッと鳴く。
太刀筋は直ぐにて重く、滑らかに流れてピタリと止まる。
姿勢維持。
再び始めの姿勢に戻り、呼気一つ。
肺の空気が出ていけば、自然に空気が入ってくる。
「うん。いいな」
一連の動作を見ながら、クレイは大きく頷いた。
「これがシチローの能力だろう」
クレイから声を掛けられ、身体から力を抜いて突っ立つ僕。
「僕の・・・?」
いまいち要領を得ない僕の返事に、クレイは笑った。
「分析と記憶。あとは模倣か?」
分析とは術理の理解だろうか。
記憶は一度見た形を完全に覚えているコトらしい。
模倣はその形をなぞり、表に現す能力。
兵法特化の能力だと、クレイは嬉しそうに説明する。
最初に技を見せてから、二週間後のコトである。
今では一刀両段はコピーしたように同じ動作を繰り返せる。
模倣の能力は、おそらく途中に覚醒したのだろうと、クレイは考えていた。
身体の動きが形の記憶に置いていかれ、しばらくはチグハグな動作になっていたようだ。
記憶が完全な分、自身の身体能力の低さに苛立ち、シチローは自主的にランニングを始めた。
元々身体を動かすのが好きだったのだろうが、病気が原因で安静を余儀なくされ、運動は嫌いだと拗ねてしまったのが、前世のシチローだった。
身体が健康な状態になり、それでも思った通りに動けないコトを自覚し、シチローは選んだのだ。
出来るだろうコトを出来るようにする努力を。
そして、その努力はシチローにとって楽しいコトだった。
出来なかったコトが出来る喜びを知ったのである。
当然、シチローはハマってしまった。
言葉遣いが生意気なのは相変わらずだが、表情に絞まりが出たと、クレイは嬉しそうに笑った。
スリッパはナターシアに返そうとも思った。
ここしばらく使うコトがなかった、懐のスリッパを、クレイは残念そうに触って名残を惜しんだ。
「ある程度動けるようになったな、シチロー。次の段階に入るか」
「二本目?」
「いや、勢法は古式にしよう。知っておいて損はない」
それより、とクレイは続ける。
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