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第5章 新興勢力

第107話 秒読み

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「良い結果となるよう尽力いたしましょう」

 人を惹き付ける笑顔を見せて、司祭が頷く。

 通常の洗礼の儀であれば、聖マリアン教会の入信の許可に加え、魔力の有無や属性の確認も行う。

 司祭の能力次第で魔力感知に差異が出るための言葉だが、エランは言葉そのままに受け取らなかった。

「立ち話も何ですので、一度拙宅でおくつろぎ下さい」

「いやいや、時は有償と申します。早速洗礼を・・・」

 度重なる懇願に折れた形を見せ、司祭は村長の言葉を受け入れ、案内に従うように村長宅へと向かう。

 その表情に微かな苛立ちを見て取り、エランは第一段階の成功に安堵する。

 これで今晩の襲撃の可能性は低くなった。

 あとは司祭行動を監視して、外との接触を断てば良い。

 監視は他の者を使う訳にもいかず、エラン自身と父親が交代でするしかないが、直接的な接触以外の伝達方法など限られている。

 司祭護衛の名目である、自警団の立哨に声を掛けて回り、エランは時間との勝負を強く意識する。




 夕刻近くなり、洗礼の儀が滞りなく終了し、村人に説教を施した後は村人を交えて宴会となる。

 司祭はしばらく宴会に参加し、頃合いをみて席を立つと、そのまま村長宅へと促されるまま入っていった。

 その間不審な行動は確認出来なかった。

 完全に外との接触は諦めたのだろうと、一人胸を撫で下ろすエランだった。

 宴会場の篝火に火が入り、影の濃淡が顕著になる。

 エランは宴会に参加した自警団員に警備の交代を命じ、自身も村の外周を警戒しようと振り返った。

「ーーーっ!?」

 咄嗟に剣に手を掛ける。

「よう」

 エランが抜く前に、後ろに立つ人影はその柄頭を押さえ、イタズラが成功したと破顔していた。

「クレーーー!?」

 思わず声を上げようとしたエランの口を押さえ、クレイはクツクツと笑ったあと、顎で場所変えを促す。

 先には父親が右手で額を押さえて嘆息していた。



「家の者は?」

「一応、弟の家へやってます」

 暗い室内でテーブルに着き、クレイたちは声を潜めて話し始めた。

 家族には暗くなったら弟の家へ行くように指示していたのは、もしもの時に守り易くするためであった。

 ハンターたちが襲撃を強硬した場合を考えての措置だった。

 全滅のリスクはあるが、分かれて人質に取られるリスクは無くなる。

「ーーーそうか。では・・・ヤメだヤメ!暑苦しくて敵わん!」

 声を殺すため、テーブルに前のめりで話していたクレイが、突然上半身を反らして声を上げる。

「クレイ様!?」

 クレイの挙動に、エランは困惑していた。
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