ネバーランド・アパートメント

ぴよ太郎

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一年目 ~移民の歌~

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 いつもより爽やかな気分で目が覚めた。
 何の当てもなく迷子のタマちゃんを捜し歩き、結局戸田のベランダで眠りこけているところを発見しただけだけれど、それでも僕は昨日なにか大切なものを見つけたような気がした。
 竹田医院での奇妙な老人たちとヤシの実強盗の話はどうでもいい内容だったが、平和に営まれるこの街のコミュニティーに少しでも参加できてよかったし、小山さんや戸田といったアパートの面々と一緒に何かをやれたということも、なんだか嬉しかった。結果としては何も出来なかったのだけれど、それでも何かに向けて行動できたのは、二年間浪人生活を送ってきた僕にとっては大切な「青春の一ページ・大学編」として胸に刻まれた。
 吉川さんの人情やマキさんの優しさに触れ、松井さんの愛情に感動し、マキさんの笑顔に心打たれた。
 大学に向かう為に部屋を出ると、松井さんとゆきちゃんが手を繋いで歩いているのが見えた。いつも通りの風景だけれど、とても幸せな風景だ。僕は前を歩くふたりの後姿を眺めながら大学へ向かった。
 クラスメートに話すと、タマちゃんよりも賀真田さんが言うヤシの実強盗に興味があるらしく、他にどんな強盗が出るのか聞いておいてくれと言われた。どうやら行方不明だった犬にはあまり興味は分からないようだけれど、他人が興味を覚えないような小さな出来事を幸せだと感じられる環境の中にいることが素直に嬉しい。
 夕方、僕がアパートに戻ってくると、ゆきちゃんとばったり会った。どうやら今から散歩に行くらしく、横でタマちゃんが嬉しそうに尻尾を振っている。
 ゆきちゃんが僕を見つけると、こちらに駆け寄ってきた。

 「タマを見つけてくれてありがとう!」

 ゆきちゃんがとびきりの笑顔を見せてくれた。

 「こんにちは。今から散歩?」
 「うん!」

 元気に返事をすると、手に持っていた大きな袋を僕に差し出した。

 「これ、昨日のお礼。パパが清くんに渡しなさいって」

 本当のところ、僕たちは何の手がかりも得られず、戸田の部屋のベランダで寝ていたタマを松井さんに渡しただけだったが、せっかくこう言ってくれているので、少し戸惑ったけれど、僕はありがたくそれを受け取ることにした。
 中から出てきたのは犬のぬいぐるみだ。

 「ゆきはパピヨンが可愛いって言ったんだけど、清くんにはこっちの方が似合うってパパが」
 「あ、ありがとう」

 妙にリアルな犬のぬいぐるみはきっと松井さんのイタズラ心だ。少し困るけれど、アパートの人たちとひとつ仲良くなれたような気がした。
 僕は袋を抱きかかえ、ゆきちゃんとふたりで歩き出した。


 二年目につづく
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