恋愛短編集(溺愛、執着愛、殺し愛…etc)

鳥花風星

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狙われた暗殺令嬢は暗殺令息に愛される

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 今、私は目の前の男の首筋に刃物を当てている。

「殺さないのか?」

 男は不思議そうな顔で私を見ると、ニヤリ、と笑う。そう、本当は手を下さなければいけない。でも……。

「ははーん、わかった。俺の顔が好みなんだろ」

 フッと不敵に笑うその顔も、まさにドストライクだ。悔しいけれど男の言う通り。でもそれを言うのも癪だから睨みつけていると、男は急に私の手を掴もうとした。咄嗟に避けると男は隙を見て私から距離を取る。

「まさか俺が暗殺対象者に返り討ちにされて刃物を突きつけられる時が来るとは思わなかったよ。あんた、面白いな」

 窓から漏れる月明かりに照らされ、口の端に弧を描くその男の姿はやっぱり見惚れるほど好みだった。艶やかな黒髪に燃えるようなルビー色の瞳、手足は長く体はスラリとして引き締まっている。短剣を扱う手先も綺麗で見惚れるほどだ。ああ、目を奪われてる場合じゃ無いのに!

「また会おうぜ、お嬢さま」

 そう言って、男は窓から飛び降りた。







「クロエ、今まで教わっていたマナー講師が体調を崩された。今日から新しいマナー講師にかわる」

 そう言うお父様の横にいる男を見て、私は驚愕した。でも、驚いていることをその男にもお父様にも気づかれるわけにはいかない。

「……初めまして。クロエ・レインガルドです」
「初めまして。今日から君のマナー講師を務めるルーク・オルダーだ」

 にっこりとその男は微笑み、私も同じように微笑んだ。





「どういうつもり」

 お父様の話が終わり、自分の部屋に戻ると、私は男に向かってそう言った。新しいマナー講師は、先日私が殺せなかった暗殺者だったからだ。

「また会おうぜって言ったじゃん」
「今度は違う形で私をまた殺しに来たの?あなたに私は殺せないわ。この間わかったでしょう」
「まあ、確かにクロエは俺と互角だったし、あの日はクロエの方が上手だった。でも、クロエも俺を殺せなかっただろ」

 目の前まで来て少し屈み、私の顔を覗き込む。ああもう、全く、やっぱり顔がいい!

「あなたをお父様に突き出してもいいのよ」
「それはしないだろ。あんたは自分が俺を殺せなかったことを父親には言えない。一族の恥になるからな」

 レインガルド家は公爵家だがそれは表の顔で、実際は王家専属の暗殺一族だ。代々暗殺技術を受け継ぎ、私も物心ついた時から暗殺の術を習ってきた。正式に継承者となるまでは自分の手は汚さないことになっているので、まだ実際に暗殺はしていない。

 暗殺一家の人間は他の暗殺者からももちろん狙われる。私は今まで何度も狙われ続けてきたが、全て相手を捕獲し、お父様へ差し出してきた。この男ただ一人を除いては。悔しいけれど、この男の言う通りだ。

「それに、思ってるんだろ。俺を殺すのは自分だって。他の誰にも渡したく無いって思ってくれてるんだろ?」

 ルークは顔を近づけて私の耳元でそっと囁く。少し低く、透き通るようなその声に何故か体の奥が疼いた。ルークの言う通り、ルークを殺すのは自分じゃなきゃ嫌だ。今ここでお父様に差し出したら、この美しい男は私の知らないところで殺されてしまう。そんなの許せるわけない。この男の命を握るのは私でなければ。

「俺も、そう思ってる。クロエを殺すのはこの俺だ。だから、ここに来る前にクロエを狙ってる連中は片付けておいた」

 ルークの言葉に目を見張る。

「余計なことしないで。我が家の獲物は我が家で始末するわ」
「まあまあ、そう怒るなよ。せっかくの美しい顔が台無しだ」

 するり、とルークの手が頬をなぞっていく。指先の感触にゾクリとしてルークを見ると、ルークは笑みをこぼしている。

「クロエは俺を殺したい、俺はクロエを殺したい。だからクロエが継承者になるまで待っててやるよ。そしてクロエを俺が他の暗殺者から守ってやる」
「守られなくても私は誰にも殺されないわ」
「俺が嫌なんだよ、あんたに触れていいのも、殺意を向けていいのも俺だけだ」

 そうだろ?とルークは怪しげに微笑んで私の髪の毛をそっと手に取りキスをした。

「それに、俺はクロエ自身にも興味がある。クロエのことが知りたいし、触れたい。独り占めしたい」
「な、何を言って……!」
「俺は隣国の公爵令息だが、裏の顔は王家専属の暗殺一族だ。お互い、お似合いだと思わないか?それに」

 そう言ってまたルークは顔を近づけて私の顔をまじまじと見つめる。その瞳は何か熱を持ったように熱く、その視線に溶けてしまいそうだ。

「クロエも俺のこと好きだろう?俺が好みだから、あの日殺せなかったんだろ?」

 ルークはくつくつと楽しげに笑いながらさらに顔を近づけ、いつの間にか私の唇にキスを……キスされてる!?

「なっ!」

 突然のことに驚いてルークを睨みつけると、ルークはまた楽しそうに笑う。

「そんな真っ赤な顔して睨まれても、全然怖くない。……むしろそそるな」

 そう言ってルークは私の腰に手をかけるとまたキスをしようとしてくる。

「なっ、やめてよ!』
「いいじゃん、本当は嫌じゃないくせに」

 殺し合う前に、私は負けてしまいそう。いや、既に負けているのかもしれない。


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