生徒会長は不登校!?

中村健一

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掃除

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 その夜、電気を暗くした俺は布団に入る。
 パーカー姿でもぞもぞと布団に入ってくる飾莉に、「おやすみ」と頭をぽんぽんたたいて言った。

 それにしても、今日はなんだか凄い一日だった。
 始業式の挨拶でぶっ倒れ、アパートの廊下でうずくまり、UFOキャッチャーで苦戦して、果には川に飛び込んでしまうような女の子。
 この日本にいれば誰もが知っている大財閥、久園寺の一族。
 そんな人が、この隣の部屋に住んでいるという。

 なんだか現実感がわかないよなあ、と薄闇の天井を眺めながら思った。

 枕の隣で、飾莉が寝息を立てていた。


***


 次の日の朝、窓から差し込む朝日で目が覚めた。
 時刻は早朝6時。
 水道の蛇口をひねり、コップ入れた水を飲み干し、完全に目が覚めたところで俺は料理を開始。
 冷蔵庫から卵を二つ取り出し、油を引いたフライパンに落とす。そろそろ焼き上がった食パンを皿に移し、目玉焼きを乗せ、簡単にちぎったレタスを添えて朝食の出来上がり。

 布団で呑気に眠っている飾莉を起こそうとするが、「うーん……」と言ってなかなか起きようとしない。
 飾莉はいつも寝起きが悪く、毎朝の口癖は「あと5分」。
 その5分が次第に10分に延びて行き、時計の針が7時を回ったところでそろそろ飾莉を起こすことにした。

「ほら、遅刻するぞ」

 飾莉の両わきをがっしりと掴んで布団からずるずると引き離す。
 この寝起きの悪さは、いったい誰に似たんだろうか。
 やっと目が覚めた飾莉は、うとうととした目で朝食のパンをかじりつきながらテレビを見ていた。
 今日の天気予報によると、全国的に晴れのようで、気温も昨日より少しだけ上がるらしい。

 朝食を食べ終えた飾莉は、歯磨きを済ませるとランドセルに教科書やら筆箱を入れていた。

「それ、つけていくのか」
「うん」

 昨日、久園寺さんが川に飛び込んでまで取ってきた、クマのぬいぐるみのキーホルダー。
 飾莉はそれを気に入ったらしく、ランドセルのわきに嬉しそうにつけていた。


 二人で家を出たところで、ふと思い出す。
 そういえば、久園寺さんってこの時間起きているのかな。
 昨日のこともあったし、お礼もかねて俺は部屋を尋ねることにした。

 玄関のチャイムを鳴らす。
 ドアが開く気配はなく、しばらく経ってからもう一度押して見る。
 まだ寝ているのかな……?

 すると、ドアの向こうで微かに音が聞こえるのに気づいた。

「がたがたがたがたがた……」

 ぶつぶつと言っている声は、たしかに久園寺さんのものだ。

「あの、久園寺さん、よかったら一緒に学校に……」
「がたがたがたがたがた……」

 そういえば、太陽の光に弱いって言ってたな。
 あれ、やっぱり本気だったんだ。

「先、行ってるから……」

 ドア越しにそう言って、飾莉とアパートの階段を降りていった。


***


「悟、学食いこうぜ」

 昼休み、翔吾に誘われたが、俺はカバンから弁当を取り出した。

「なんだ弁当かよ。……もしかして、彼女に作ってもらったりとかしてる?」

 俺は首を振って否定をし、毎朝自分で弁当を作っていること説明すると、「……おまえ変わってんな」と翔吾はつぶやきその場を離れた。

 一人になってしまった。
 三年生からの転校となると、やはり周りは既にグループが構築されていて、どのグループにも属せない自分は、はっきりといってぼっちだった。

 隣の席がぽっかりと空いている。
 結局、昼休みになっても久園寺さんは来なかった。
 不登校という噂は、どうやら本当らしい。
 生徒会長としての仕事とか、いったいどうしてるんだろうと疑問に思いながら、弁当に手をつけようとしたその時だった。

「おい、悟。おまえにお客さんが来てるけど……」

 戻ってきた翔吾が、なにやら動揺した様子で言った。
 俺は、周りの視線がこちらへ集まっているのを感じた。

 なんだ……?
 教室の出入り口に目をやると、見知らぬ一人の女子生徒がこちらをじっと見ている。
 俺は席を立つと、彼女の元まで向かった。

「あんた、転校生の国井くんよね?」
「そうだけど……」
「私は生徒会副会長の小島結菜、よろしく」

 そう言って握手を求めてきた。
 生徒会副会長が、俺になんの用だろう。

「あんた、久園寺さんの隣の家に住んでるんだって?」
「そうだけど、どうしてそれを」
「先生が聞いたの。それで、急ぎで悪いんだけど……」

 副会長は、わきに抱えていた書類の一枚を差し出してきた。

「これ、明日までに署名が必要なの。……その、生徒会長の、久園寺さんの判子が必要なのよ」
「はあ」
「お願いっ、今日あの子に届けてもらえないかな」

 彼女は両手を合わせた。

「別にいいけど……」
「本当? ありがとう。私がいくといつも家に居ないのよね」

 きっと、居留守使っているんだろうな。

「あの、一つ教えてほしいんだけど」
「何?」
「久園寺さんって、どうして学校にこないの?」

 できるだけ周りに聞こえないように、小声で話した。

「……あの子、対人恐怖症というか、少し人見知りなところあるから」

 たしか、二年の後半から学校に来ていないと言っていた。
 俺や飾莉と話しているときは、そんな素振りはみせないんだけどな。

「──とりあえず、書類お願いね!」

 副会長はそう言って、手を振った。


***


 放課後、校門で待っている飾莉と合流し、手をつなぎながら帰った。
 アパートに到着すると、俺は6号室のチャイムを鳴らした。

「久園寺さん、俺だけど──」

 ……出てくるのかな。
 すると、ドアが開いて、久園寺さんが顔をみせた。

「あっ、お二人ともこんばんは! どうかしたんですかっ?」

 にっこりと、元気よく出てきた。
 今朝のあれはなんだったんだろう。

「これ、生徒会から署名してほしいって頼まれたんだけど」

 一枚の書類の手渡す。

「あー、これですね、えっと判子、どこにあったかなあ……」

 そういってどたばたと部屋の中に戻っていく。

 そのとき、開いたままのドアから部屋の様子が見えてしまった。
 そして、すぐに後悔した。
 見るんじゃなかった、と。

 久園寺さんの部屋は、整理整頓という思想の存在しない魔境と化していた。

 あちこちに散らばった洋服をはじめとして、様々なものが散乱しているのだ。
 敷きっぱなしの布団、いつ洗濯したのかわからないパジャマ。様々なリモコン、ゲーム機のコントローラー、洗面器、DVD、マンガ、そして大量のジュースの空き缶等々……。
 特に、天井に届くほど山積みにされたカップ麺のから容器は壮観で、なにか芸術的な意味でもあるのかと錯覚してしまいそうなほど見事に部屋の一部と化していた。

「──あった、あった、ありましたよ! ここに押せばいいんですよね?」

 とびっきりの笑顔で判子を持って戻ってくる久園寺さん。

「久園寺さん」
「はい?」
「ここ、掃除させてもらってもいいかな」
「へ?」

 綺麗好きの自分としては、この状況は非常に耐え難いものがあった。
 俺は時計をみて僅かに逡巡したが、すぐに決断。

「ぎゃぴーーーー!!」

 飾莉と二人で腕と足を持って、とりあえず隣の部屋に避難させる。
 そして、戦いを始めることにした。
 敵はもちろん、6号室。
 まずは窓を開け、濁った空気を入れ替える。
 空き缶やカップ麺などの捨てられるものを廊下に出し、床に散乱した雑誌類は、整理してから押入れに。
 畳が見え始めたところで念入りに掃除機をかけ、雑巾で細かい汚れを除去。
 洋服やパジャマはまとめて洗濯。
 湿った布団を廊下の柵にかけ、その後で洗濯物を干し、大量のゴミを外のゴミ捨て場に運んだ。

 気がつくと、時刻は夜の7時。
 夕飯は、簡単なもので済ませるか……とため息をつきながら自宅のある部屋に戻った。
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