フロイント

ねこうさぎしゃ

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二つめの願い

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 日々はゆったりとやさしく流れて行った。魔物とアデライデは確かに心が通い合うのを感じていた。魔物はアデライデの隣で自分の心がいつも喜びに舞い上がるのを感じると共に、日に日に落ち着いた穏やかな気分になっていくことを意識した。
 アデライデも魔物に対して日ごとに親近感が増していくのと同時に、何か特別な感情が生まれているのを感じていた。それはアデライデには秘密の洞窟の奥底で人知れず湧く神秘の泉のように思えた。その泉はアデライデの──否、世界の命の源であるかのようだった。アデライデは魔物の傍らにいて、自分が変化していくのを驚嘆の眼差しで眺めずにはいられなかった。まるで百年に一度しか咲かない奇跡の花が、今まさに咲き開こうとしているかのようだった。魔物が人間ではないことはわかっていたが、そのやさしく繊細な心に触れるうちに、アデライデは魔物をどんな人間よりも人間らしく感じるようになっていた。魔物の機微を知るにつれ、アデライデの心は安息を得ると共に、もっと深く触れてみたいとも思うのだった。しかし同時に、アデライデはそう思う自分に戸惑ってもいた。日に日に変わっていく自分のその速度に、アデライデ自身は追いつけずにいる気持ちでもいたのだ。

 そうやって過ごすうちに、また満月の夜がやって来た。いつものようにふたりでの晩餐を済ませた魔物とアデライデが、連れ立って窓のそばに行く頃には、強い風が厚い雲を押し払い、館の中には月の明るい光が降り注いだ。ふたりはその光の帯の中に向かい合って立った。
 魔物は光をまとった仙女の如き美しさのアデライデに改めて胸を打たれる思いで、しばらくの間、一言も発せずに見つめていた。近頃、アデライデはますますその美しさを高めているように見えた。アデライデの月の光に潤んだ青い瞳に吸い込まれそうになりながら、魔物はようやく口を開いた。
「アデライデよ、おまえの三つ目の願いを叶えよう。俺に教えてくれ。おまえの願いはなんだ」
 アデライデはこくりと小さく頷くと、ずっと考えていた願いを口にした。


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