フロイント

ねこうさぎしゃ

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妖精女王

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 フロイントとアデライデは言葉もなく女王の話に聞き入っていた。女王の話を聞いた今、二人の心の内には様々な思いが湧き上がり、入り乱れ、あふれそうになっていた。
 女王が伏せていた睫毛を上げると、その顔には再び穏やかな光の微笑がたたえられていた。女王はフロイントとアデライデを見つめ、
「魂はこの世を統べる大いなる力の存在の写し鏡。眠っていたとはいえ、身の内に魂を宿していたフロイントあなたは、本来ならば人間か、或いはわたくし達光の眷族として生まれるべきでした。ですが霊妙なる大いなる力の意図により、あなたは魔物として、魔王が治める影の世界に生まれた──。あなたにとっては過酷な試練ともいえる永い日々だったでしょうが、しかしわたくしはこれを、より良い世界を築くための一つの転機、この世界の歴史における重大な転換点であると思うのです。あなた達を見守る中、この考えは確信となりました。
 アデライデ、わたくしは先ほど、特にあなたからは目を離したことはないと言いましたね。わたくしはもちろん、あなたがさらわれたことを知っていました。知っていながら、あなたをそのままにしておきました。そしてフロイント、わたくしはあの満月の晩、バルトロークによって傷つき倒れたあなたにも言いました──あなたがアデライデをこの館に連れて来たその日から、ずっとあなたのことを見てきたと──」
 フロイントとアデライデは思わず互いの指を強く絡め合わせた。俄かに鼓動が速まっていた。
「わたくしは初め、光の妖精の国でアデライデを魔物がさらったという報せを受けたとき、影が再び戦を仕掛けてきたものと警戒し、すぐにラングリンドに戻りました。しかしラングリンドには、森の精霊たち──アデライデの小さな家があるあの森の精霊たちです。そう、先の大戦で共に戦い、生き延び、ラングリンドの建国を助けてくれた光の仲間たちです──によって既に追い払われていたバルトロークの気配が残るだけで、それも森の精霊たちの光の作用によって浄化されつつありました。もしもアデライデを狙った魔物というのがバルトロークであるならば、森の精霊たちがそれを許すとは思えませんでしたので、報告をしてくれた森の精霊たちからもっと詳しい話を聞き出しました。すると彼らがアデライデを連れ去った者が、魔物でありながら魔物でなかったと言うのを聞き、わたしくはすぐに真実を確かめるべく『光の鏡』で確認しました。『光の鏡』というのは、フロイントがアデライデを見守るために沼を鏡にしていたものと同じようなものです。ただしわたくしの鏡は沼ではなく城の外れの森の中にある光の泉であり、そして見たいと思ったところは、それが光の世界であろうと人間の世界であろうと影の世界であろうとも見ることができるものですが──その鏡でわたくしはあなた達のことを見たのです。そしてアデライデをさらった魔物というのを一目見るなり、精霊たちの言った言葉の意味を理解しました。その魔物が魂を持っているということに、すぐに気がついたからです。
 正直なところ、わたくしは驚きました。魔王の他に、魂を持つ者が魔界に存在するなど、俄かには信じられませんでした。しかしわたくしはあなた達が大いなる力によって導かれ、出逢ったのだと言うことにも気がついていました。ですから、わたくしはすぐにアデライデを助け出そうとはせず、成り行きを見守ることにしたのです」
 今や美しい緑の園となった館には朝の光が燦然と輝き、どこから現れたのか、美しい蝶たちがバルコニーのまわりに集まって、女王の話に聞き入るフロイントとアデライデのそばを飛び交っていた。



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