ある羊と流れ星の物語

ねこうさぎしゃ

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第一章

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 ある晩、ヒツジはいつものように、小屋の中でスヤスヤと眠る仲間たちに囲まれて、屋根のすき間から星空を眺めていました。すると小屋の入り口の方から、物音が聞こえてきました。見ると、なにか動くものが、入り口の木戸をくぐりぬけ、小屋の中に入ってこようとしていました。
 夜の暗闇で、おまけにヒツジは目があまりよくなかったので、入り口で動く生き物の正体を容易には見定められませんでした。生き物のふたつの目はあやしく光り、毛皮はまるで夜空を吸いとったかのように黒々と見えました。その生き物は、しかし悠然とした様子で小屋の中を進んでくると、月明かりのさしこむあたりで立ち止まりました。
 そのとき、ヒツジの目に、ようやくその生き物の姿がはっきりと見て取れました。それはあの美しいネコでした。
「あの、こ、こんばんは……」
 ヒツジは思わずネコに声をかけましたが、ほかのヒツジたちを起こさないように、声を小さくすることは忘れませんでした。
 けれど、とてもびっくりして少しばかり興奮もしていたせいで、ヒツジの声は心なしか上ずってしまいました。
 普段のネコの様子から、返事がかえってくることを完全に期待していたわけではなかったので、すぐ目の前までやってきたネコが、優雅なしぐさでしっぽを振りながら、「こんばんは」とあいさつを返してくると、ヒツジはますます仰天して、心臓が飛び出るのではないかと思ったほどでした。
 はじめて聞くネコの声は、遠くのふもとの街から、ときおり風に乗って聞こえてくる鐘の音みたいにきらめくようで、ヒツジの胸を打ちました。静かな感動が眠れぬ体の隅々にまで広がるのを感じながら、ヒツジはネコに言いました。
「はじめてお話しますね」
 ネコは小さな舌で、自分の前足の甲を舐めながらうなずきました。
「ええ、そうね」
 間近で見るネコの姿は、遠くから見ていたときよりずっと美しく、そのしぐさのひとつひとつに、ヒツジの心は強くひきつけられました。
 ヒツジは地面につけた四本の足が、小さく震えていることに気がつきました。犬に追われて恐ろしい思いをしているわけでもないのに、どうして自分の足が震えるのかがわからずにとまどいましたが、なんとかしてネコに話しかけなければと、ともすればかすれそうになる声を、ふりしぼるようにして話をつづけました。
「こんな夜更けに出歩いていては、ご主人に叱られませんか?」
「ご主人? ご主人って、誰のこと?」
 ネコが毛づくろいをやめて、じっとヒツジを見返しました。その星のように輝く瞳に、ヒツジの心臓はますますはげしく音を立てましたが、ネコに自分の動揺をさとられまいと、小さな声で会話をつづけました。

「あなたが一緒に暮らしている人間の一家の男の人ですよ」
 それを聞くと、ネコはくすくすと笑いだしました。
「あら、あの人がわたしのご主人ですって? とんでもないわ」
「ちがうのですか?」
「もちろんよ」
「それでは、誰があなたのご主人なんです?」
「そんなものいないわ。でもそうね、しいて言うなら、むしろわたしの方が主人なのよ」
「主人って、あの人間たちの?」
「ええ、そうよ」
 ネコは前足をうんと遠くに伸ばして、気持ちよさそうに背中をそらしました。
「それじゃあなたは、あの犬のご主人でもあるのですか?」
 ヒツジは目をまるくしながら、ネコに聞きました。
「そうねぇ、あの犬ってね、実は新入りなのよ。犬はまぁ、わたしのことを気にしてないふりをよそおっているけれど、内心ではどうかしらね。それにあの犬、人間たちには頭が上がらないの。だけど、人間たちはわたしに夢中で、なんでもわたしの言う通りなわけだから、やっぱり間接的にではあるけれど、わたしは犬の主人ってことになるでしょうね」
 素敵な音楽のように聞こえるアクセントで話すネコのことばを、ヒツジはうっとり聞きながら、感心したように言いました。
「ぼくはちっとも知りませんでした。あなたがそんなに立派だとは」

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