ある羊と流れ星の物語

ねこうさぎしゃ

文字の大きさ
15 / 17
第三章

6

しおりを挟む
「そ、それで、その牙で、どうするんです?」
「なぁに、簡単なことさ、この牙でおまえのそのうっとうしい毛を、すっかり切り落としてやるだけさ」
「ほんとうにそれで毛は刈れるんですか?」
「もちろんさ。そのあとはその毛を持って、街の裁縫屋にでも行けばいいんだ。ことは急ぐんだろ? それじゃ、さっそく仕事にかからないとな。おれがおまえの毛を刈ってやるから、もっとこっちに来い。おれが檻のすき間からおまえの毛を刈りやすいように、檻に体をおしつけろ」
 ヒツジは逆らいがたい恐怖に、今すぐにでも逃げ出したい気持ちでしたが、物憂げにため息をついて死にたがっているネコのことを考えて、思いきってオオカミの檻に体を押しつけました。そのとたん、オオカミは嵐のようなすばやさで、ヒツジの横腹にガブリと噛みつきました。
 一瞬、噛みつかれた横腹に、カッと燃え上がるような熱さを感じ、次いでその熱さは鋭い痛みとなって全身に広がりました。ヒツジは悲鳴をあげ、めちゃくちゃに暴れました。しかし、オオカミは放すまいとして、ヒツジにますます強く牙を立てました。
 ヒツジが死に物狂いで暴れたので、鼻先を何度も強く檻に打ちつけられたオオカミの牙は、一瞬ゆるみました。そこでヒツジはありったけの力をふりしぼって大暴れし、なんとかオオカミから逃れることができました。
 ヒツジはほうほうのていで動物園を抜け出しました。背後からは、悔しげなオオカミの遠吠えが、いつまでもヒツジを追ってくるようで、ヒツジは足を止めることができませんでした。
 やみくもに走り続け、どこをどう走ったのか、ヒツジはいつの間にか街を抜け、農場へと続く山に逃げ込んでいました。山に逃げてからも、ヒツジの足が止まることはありませんでした。
 オオカミに噛みつかれた痛みと長旅の疲れで、ヒツジの頭はもうろうとしていましたが、ただひたすら農場に向かって、けわしい山道をのぼり続けました。
 ヒツジの歩みは、今はもうのろのろとしたものに変わっていました。ヒツジは自分が歩いているのか、立ち止まっているのかさえ、ときどきわからなくなりそうでした。
 ふと空を見上げると、高い木々のてっぺんの、それよりももっと高いところに、たくさんの星がきらめいているのが見えました。その中に、あのポラリスもありました。ヒツジはほとんど無意識のうちに、ただ黙って、そのポラリスをめざして歩みつづけました。
 そのとき、空の片隅に、きらりと光りながら落ちていく流れ星を見つけました。

 ヒツジは、その流れ星を見たとき、おじいさんと一緒に、はじめて流れ星を見たときのことを思い出しました。ヒツジはそのとき、あの星はいったいどこへいくのだろうかと心配になりました。突然夜空を走ったかと思うと、あとかたもなく消えてしまって、どんなにさがしても、同じ星をもう一度見つけることはできないのです。
 おじいさんがいなくなってしばらく経ったある夜、小屋のすき間から、ふたたび流れ星が見えたことがありました。その瞬間、ヒツジは唐突に、流れ星のことがわかりました。姿を消して二度と見ることのできない流れ星も、おじいさんのように死んだのだとわかったのです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

まぼろしのミッドナイトスクール

木野もくば
児童書・童話
深夜0時ちょうどに突然あらわれる不思議な学校。そこには、不思議な先生と生徒たちがいました。飼い猫との最後に後悔がある青年……。深い森の中で道に迷う少女……。人間に恋をした水の神さま……。それぞれの道に迷い、そして誰かと誰かの想いがつながったとき、暗闇の空に光る星くずの方から学校のチャイムが鳴り響いてくるのでした。

野良犬ぽちの冒険

KAORUwithAI
児童書・童話
――ぼくの名前、まだおぼえてる? ぽちは、むかし だれかに かわいがられていた犬。 だけど、ひっこしの日に うっかり わすれられてしまって、 気がついたら、ひとりぼっちの「のらいぬ」に なっていた。 やさしい人もいれば、こわい人もいる。 あめの日も、さむい夜も、ぽちは がんばって生きていく。 それでも、ぽちは 思っている。 ──また だれかが「ぽち」ってよんでくれる日が、くるんじゃないかって。 すこし さみしくて、すこし あたたかい、 のらいぬ・ぽちの ぼうけんが はじまります。

パンティージャムジャムおじさん

KOU/Vami
児童書・童話
夜の街に、歌いながら歩く奇妙なおじさんが現れる。 口癖は「パラダイス~☆♪♡」――名乗る名は「パンティージャムジャムおじさん」。 子供たちは笑いながら彼の後についていき、歌を真似し、踊り、列は少しずつ長くなる。 そして翌朝、街は初めて気づく。昨夜の歌が、ただの遊びではなかったことに。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です* 最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

ぼくのだいじなヒーラー

もちっぱち
絵本
台所でお母さんと喧嘩した。 遊んでほしくて駄々をこねただけなのに 怖い顔で怒っていたお母さん。 そんな時、不思議な空間に包まれてふわりと気持ちが軽くなった。 癒される謎の生き物に会えたゆうくんは楽しくなった。 お子様向けの作品です ひらがな表記です。 ぜひ読んでみてください。 イラスト:ChatGPT(OpenAI)生成

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

瑠璃の姫君と鉄黒の騎士

石河 翠
児童書・童話
可愛いフェリシアはひとりぼっち。部屋の中に閉じ込められ、放置されています。彼女の楽しみは、窓の隙間から空を眺めながら歌うことだけ。 そんなある日フェリシアは、貧しい身なりの男の子にさらわれてしまいました。彼は本来自分が受け取るべきだった幸せを、フェリシアが台無しにしたのだと責め立てます。 突然のことに困惑しつつも、男の子のためにできることはないかと悩んだあげく、彼女は一本の羽を渡すことに決めました。 大好きな友達に似た男の子に笑ってほしい、ただその一心で。けれどそれは、彼女の命を削る行為で……。 記憶を失くしたヒロインと、幸せになりたいヒーローの物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:249286)をお借りしています。

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

処理中です...