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「その気持ちは今も変わらないのですか?」
「当然だろ、俺はおまえが嫌いだ」
「……でも、それではなぜ、あなたはこうしてしょっちゅうわたしの家を訪ねて来るんです?」
「……えっ?」
「そんなにわたしが嫌いなら、近寄らなければいいんじゃありませんか?」
ソロンはパイを喉に詰まらせて目を白黒させ、慌てて紅茶のカップを引きつかみました。
ごくごくとカップをあおってパイをお腹の中に流し込むと、ごほごほと咳き込みながらも、涙のにじんだ目でルタニを睨みつけ、
「……おまえ、それを嫌味でもなんでもなく、本気で聞いてるのか」
「もちろんですよ」
「あぁっ、これだから俺はおまえが嫌いなんだよっ。おまえはうさぎの気持ちってものがまるでわかってない。いや、おまえにはうさぎらしい感情ってものがねぇんだ。おまえは運命の相手を捜す気がないんじゃない。捜せないんだ。なぜなら誰に対しても同じ気持ちしか抱けないからだ。良くも悪くも、誰かに対して特別な感情を持つってことができねぇんだ」
ルタニは手にしたカップを静かにテーブルに置くと、
「わたしは幼い頃から両親や祖父に、自分の感情をコントロールすることこそが、魔術師として最も大切だと教えられて生きて来ました。だから感情がない訳ではありません。ただ感情から自分を切り離しているだけです」
「……わかったぜ、ルタニ。おまえは確かに偉大な魔法使いかもしれない。由緒正しい家柄の出で、もともとの高い素質に加え更なる天賦の才に恵まれていながら、自分に厳しく努力を怠らず、誰に対しても常に礼儀正しく寛大で博愛主義を貫く。学院生の頃から、おまえはいつだって別格だった。そんなおまえ以外にうさぎ世界の統治者たる大魔術師の座に就けるうさぎなんていねぇさ。だけどよ、ルタニ。そんなしんどい生き方をしなきゃいけねぇってんなら、どんなに名誉であろうが、どんなにうさぎ達から尊敬されようが、俺は大魔術師なんてお断りだ」
「しんどい? そうでしょうか……。感情に振り回される方が辛いはずです。感情はときに、自分をも裏切るような行動へと自分を駆り立てるでしょう? その方がしんどいはずです。あなただって、わたしを嫌いだという感情が禁断魔法という暴挙へと自分を突き動かしたのではありませんか? これをまったく後悔しなかったと、あなたは言いきれますか?」
「……つくづく気持ちを逆なでするやつだな。自分を裏切ると言うなら、感情に蓋をする方がよっぽどひどい自分への裏切りだぜ」
「ですから、わたしは別に感情に蓋をしているとか、無視しているというわけでは……」
「同じことだろ。感情のコントロールなんて、そんなことを習い性にしちまったら、いつか自分ってものを完全になくしちまうぜ。なぁルタニ、生きるってことはもっと無様なもののはずだろ? 泣いたり喚いたり、醜態をさらしながら、それでも生きていくのが、まっとうなうさぎの在り方ってものじゃねぇのか? そんなこともできなくて、何が大魔術師だよ。そんなんで俺たちうさぎの心がわかんのか? そんなんで、大魔術師の務めなんて果たせるのかよ」
時計の針がコチコチと時を刻む音が、奇妙に大きく居間の空気を揺さぶるようでした。ルタニは虹色の瞳を大きく開き、じっとソロンの言葉に耳を傾けていました。
「当然だろ、俺はおまえが嫌いだ」
「……でも、それではなぜ、あなたはこうしてしょっちゅうわたしの家を訪ねて来るんです?」
「……えっ?」
「そんなにわたしが嫌いなら、近寄らなければいいんじゃありませんか?」
ソロンはパイを喉に詰まらせて目を白黒させ、慌てて紅茶のカップを引きつかみました。
ごくごくとカップをあおってパイをお腹の中に流し込むと、ごほごほと咳き込みながらも、涙のにじんだ目でルタニを睨みつけ、
「……おまえ、それを嫌味でもなんでもなく、本気で聞いてるのか」
「もちろんですよ」
「あぁっ、これだから俺はおまえが嫌いなんだよっ。おまえはうさぎの気持ちってものがまるでわかってない。いや、おまえにはうさぎらしい感情ってものがねぇんだ。おまえは運命の相手を捜す気がないんじゃない。捜せないんだ。なぜなら誰に対しても同じ気持ちしか抱けないからだ。良くも悪くも、誰かに対して特別な感情を持つってことができねぇんだ」
ルタニは手にしたカップを静かにテーブルに置くと、
「わたしは幼い頃から両親や祖父に、自分の感情をコントロールすることこそが、魔術師として最も大切だと教えられて生きて来ました。だから感情がない訳ではありません。ただ感情から自分を切り離しているだけです」
「……わかったぜ、ルタニ。おまえは確かに偉大な魔法使いかもしれない。由緒正しい家柄の出で、もともとの高い素質に加え更なる天賦の才に恵まれていながら、自分に厳しく努力を怠らず、誰に対しても常に礼儀正しく寛大で博愛主義を貫く。学院生の頃から、おまえはいつだって別格だった。そんなおまえ以外にうさぎ世界の統治者たる大魔術師の座に就けるうさぎなんていねぇさ。だけどよ、ルタニ。そんなしんどい生き方をしなきゃいけねぇってんなら、どんなに名誉であろうが、どんなにうさぎ達から尊敬されようが、俺は大魔術師なんてお断りだ」
「しんどい? そうでしょうか……。感情に振り回される方が辛いはずです。感情はときに、自分をも裏切るような行動へと自分を駆り立てるでしょう? その方がしんどいはずです。あなただって、わたしを嫌いだという感情が禁断魔法という暴挙へと自分を突き動かしたのではありませんか? これをまったく後悔しなかったと、あなたは言いきれますか?」
「……つくづく気持ちを逆なでするやつだな。自分を裏切ると言うなら、感情に蓋をする方がよっぽどひどい自分への裏切りだぜ」
「ですから、わたしは別に感情に蓋をしているとか、無視しているというわけでは……」
「同じことだろ。感情のコントロールなんて、そんなことを習い性にしちまったら、いつか自分ってものを完全になくしちまうぜ。なぁルタニ、生きるってことはもっと無様なもののはずだろ? 泣いたり喚いたり、醜態をさらしながら、それでも生きていくのが、まっとうなうさぎの在り方ってものじゃねぇのか? そんなこともできなくて、何が大魔術師だよ。そんなんで俺たちうさぎの心がわかんのか? そんなんで、大魔術師の務めなんて果たせるのかよ」
時計の針がコチコチと時を刻む音が、奇妙に大きく居間の空気を揺さぶるようでした。ルタニは虹色の瞳を大きく開き、じっとソロンの言葉に耳を傾けていました。
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