『冷徹公爵との【愛なし契約結婚】は、溺愛の家族愛に変わりました~「地味で何の価値もない」と捨てた実家は、もう遅い

腐ったバナナ

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7話

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 エミリアがアルフレッドに「心の栄養料理」を届け始めて数週間。その効果は、目に見えて現れ始めた。アルフレッドは食事を残さなくなり、顔色も良くなった。そして何より、邸宅内を歩くエミリアの姿を見かけると、以前のように怯えて隠れるのではなく、遠くからじっと見つめるようになった。

 ある日の午後、エミリアは庭園でハーブを摘んでいた。彼女の近くで、アルフレッドが一人、小さな木馬で遊んでいた。ロバート執事と侍女が傍で見守っているが、公爵との契約があるため、エミリアはアルフレッドに声をかけられない。

 エミリアは、アルフレッドに聞こえるか聞こえないかの小さな声で、彼の心の声に応えるように独り言を呟いた。

「このハーブは、体と心が疲れた時に飲むと、ふんわりと心が軽くなるのよ。特に、寂しい気持ちを優しく包んでくれるの」

 アルフレッドの心の声:(寂しい気持ちが、軽くなる?本当に?)

 すると、アルフレッドは木馬から降り、ゆっくりとエミリアの方へ歩み寄ってきた。彼は、エミリアが摘んでいるハーブを、警戒しながらもじっと見つめている。

 エミリアは、彼に触れることはせず、ハーブを一本、小さな花瓶に活けた。

「これは、飾るだけでも香りが心を落ち着かせてくれるわ」

 アルフレッドは、その花瓶をそっと手に取った。そして、初めて、エミリアに言葉を発した。

「あの……、お、お母……様?」

 エミリアは驚き、顔を上げた。公爵との契約、そして彼が「お母様」と呼ぶことの意味の重さ。しかし、彼女の心は、その小さな声に突き動かされた。

「アルフレッド様」

 エミリアは、優しく微笑み、跪いて彼の目線に合わせた。

「エミリアと呼んでくださって構いませんよ」

 アルフレッドは、少し戸惑った後、エミリアのそばに寄り添い、彼女の地味なドレスの裾を、きゅっと握りしめた。

 アルフレッドの心の声:(この人は、怖くない。温かい。ずっと、ここにいてほしい)

 その瞬間、遠くからその様子を見ていたクライヴ公爵と、ロバート執事の心の声が、エミリアに強く届いた。

 ロバートの心の声:(なんと!アルフレッド様が、奥様に懐かれた!公爵様の前妻にも、公爵様にも心を開かれなかったのに!)

 そして、公爵の心の声:(な、なぜだ。なぜ、この娘には心を開く?……アルフレッドが、嬉しそうだ。だが、契約違反ではないのか。このまま、彼女に心を奪われてしまってもいいのか……)

 公爵の感情は、「驚愕」「喜び」「戸惑い」「深い独占欲」で複雑に揺れ動いていた。彼は、エミリアへの警戒心よりも、アルフレッドが初めて見せた笑顔に、心を強く動かされていた。

 公爵は、契約違反を咎めることもできず、ただその場に立ち尽くしていた。エミリアがアルフレッドと築いた「温かい絆」が、公爵の「冷たい契約」を、初めて上書きした瞬間だった。

 その後、公爵は何も言わずに去っていったが、その夜。

 エミリアの部屋の前には、いつものミルクと焼き菓子に加え、一輪の美しい辺境の薔薇が、ロバート執事によってそっと置かれていた。

 それは、公爵の不器用で、愛を諦めきれない心の、小さな感謝と情熱の表れだった。エミリアは、その薔薇をそっと手に取り、公爵の拗らせた心を、さらに深く理解したのだった。
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