婚約破棄された令嬢、商才と魅力で運命を変える

腐ったバナナ

文字の大きさ
7 / 25

7話

しおりを挟む
 朝の光が書斎の窓から差し込む。エリスは机に広げた帳簿と見比べながら、昨日の配送の記録を一つずつ確認していた。

「昨日の取引は、完璧にこなせたわね」

 カイは書類を持ちながら微笑む。

「君の計算通りだったね。取引先も喜んでいた」

 エリスは微かに笑みを返したが、胸の奥にはまだ不安が残っていた。

「でも、これはまだ小さな成功に過ぎないわ。次はもっと大きな注文をミスなくこなさなくちゃ」

 午前中、エリスは市場へ向かった。通りには朝の活気が満ち、商人たちが声を張り上げて品物を売っている。エリスは落ち着いた足取りで、約束していた材料を受け取り、注文の確認を行う。

「エリス様、先日の取引、商人仲間の間でも評判でしたよ」

「そう……ありがとうございます。今日も品質は妥協しません」

 商人は頷き、手早く準備に取りかかる。エリスはその様子を注意深く観察しながら、必要な調整をメモに書き込む。

 昼前、次の契約先へ直接足を運ぶ。市場を抜け、少し離れた工房に向かう道すがら、エリスは心の中で戦略を練る。
「ここで手を抜いたら信頼を失う……でも、無理のない範囲で効率を上げられるはず」

 工房の扉を開けると、待っていた顧客たちが立ち上がり笑顔で迎える。

「エリス様、前回の品は評判が良かった。次は少し多めにお願いできませんか?」

「ええ、可能な限り対応します。品質は変えません」

 交渉は慎重かつ詳細に行われる。数量、納期、材料の仕入れ方法まで、エリスは全て計算に入れて話を進めた。顧客の目が真剣になるたび、彼女の胸には確かな手応えが生まれる。

 午後には市場に戻り、新たな材料の仕入れと小規模な販売を行う。町の人々は、顔馴染みのエリスに自然と声をかけ、商品の質や配送の迅速さを褒める。

「エリス様、最近の品はいつも素晴らしいですね」

「ありがとうございます。もっと喜んでいただけるよう努力します」

 夕方、書斎に戻ると、カイが今日の成果をまとめた帳簿を手に待っていた。

「エリス、今日も取引は順調だ。君の計算通りに利益が出ている」

「ええ……でも、油断はできないわ。これを機に、次のプロジェクトの計画も進めましょう」

 カイは深く頷いた。

「君の努力が確実に形になっている。社交界での噂も少しは出ているけれど、重要なのは君自身の力で築いた信頼だ」

 夜になり、キャンドルの揺れる光の下、エリスは日報を書き終え、今日の一日を振り返る。小さな成功の積み重ねが、確実に自分を前に進めていることを実感する。

「少しずつ……でも確実に。私の道は、私が切り開く」

 窓の外、星が瞬く夜空を見上げるエリスの胸には、わずかでも希望の光が灯っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

辺境の侯爵令嬢、婚約破棄された夜に最強薬師スキルでざまぁします。

コテット
恋愛
侯爵令嬢リーナは、王子からの婚約破棄と義妹の策略により、社交界での地位も誇りも奪われた。 だが、彼女には誰も知らない“前世の記憶”がある。現代薬剤師として培った知識と、辺境で拾った“魔草”の力。 それらを駆使して、貴族社会の裏を暴き、裏切った者たちに“真実の薬”を処方する。 ざまぁの宴の先に待つのは、異国の王子との出会い、平穏な薬草庵の日々、そして新たな愛。 これは、捨てられた令嬢が世界を変える、痛快で甘くてスカッとする逆転恋愛譚。

婚約破棄された令嬢、気づけば宰相副官の最愛でした

藤原遊
恋愛
新興貴族の令嬢セラフィーナは、国外の王子との政略婚を陰謀によって破談にされ、宮廷で居場所を失う。 結婚に頼らず生きることを選んだ彼女は、文官として働き始め、やがて語学と教養を買われて外交補佐官に抜擢された。 そこで出会ったのは、宰相直属の副官クリストファー。 誰にでも優しい笑顔を向ける彼は、宮廷で「仮面の副官」と呼ばれていた。 その裏には冷徹な判断力と、過去の喪失に由来する孤独が隠されている。 国内の派閥抗争、国外の駆け引き。 婚約を切った王子との再会、婚姻に縛られるライバル令嬢。 陰謀と策略が錯綜する宮廷の只中で、セラフィーナは「結婚ではなく自分の力で立つ道」を選び取る。 そして彼女にだけ仮面を外した副官から、「最愛」と呼ばれる存在となっていく。 婚約破棄から始まる、宮廷陰謀と溺愛ラブロマンス。

今日から悪役令嬢になります!~私が溺愛されてどうすんだ!

ユウ
恋愛
姉の婚約破棄により、公爵家だった我が家は衰退の一途をたどり。 嫉妬に狂った姉は壊れて行った。 世間では悪役令嬢として噂を流されてしまう。 どうしてこうなってしまったのだろうか。 姉はただ愛を望んだだけだったのに、そんなことを想いながらマリーは目を覚ますと体が小さくなっていた。 二度目の人生を終えて新たな転生を果たしたと思ったら何故か再び転生して、悪役令嬢の妹として転生するのだが…何故か姉のポジションになり私は誓った。 こうなったら私が悪役令嬢になって私が姉と家族を守ろうと誓ったが… 悪役令嬢ってどうしたらいいんだけっけ? 間違った方向に努力を続けたら、冷たい婚約者は何故か優しく微笑んで来たり、ライバル令嬢も何故か優しくしてくれる。 「あれ?おかしくね?」 自称悪役令嬢の奮闘劇が始まる!

婚約破棄から始まる、ジャガイモ令嬢の優雅な畑生活

松本雀
恋愛
王太子から一方的な婚約破棄の書状を受け取ったその日、エリザベートは呟いた。 「婚約解消ですって?ありがたや~~!」 ◆◆◆ 殿下、覚えていらっしゃいますか? あなたが選んだ隣国の姫のことではなく、 ――私、侯爵令嬢エリザベートのことを。 あなたに婚約を破棄されて以来、私の人生は見違えるほど実り多くなりましたの。 優雅な所作で鍬を振り、ジャガイモを育て、恋をして。 私のことはご心配なく。土と恋の温もりは、宮廷の冷たい風よりずっと上等ですわ!

『お前とは結婚できない』と婚約破棄されたので、隣国の王に嫁ぎます

ほーみ
恋愛
 春の宮廷は、いつもより少しだけざわめいていた。  けれどその理由が、わたし——エリシア・リンドールの婚約破棄であることを、わたし自身が一番よく理解していた。  「エリシア、君とは結婚できない」  王太子ユリウス殿下のその一言は、まるで氷の刃のように冷たかった。  ——ああ、この人は本当に言ってしまったのね。

噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される

柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。 だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。 聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。 胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。 「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」 けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。 「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」 噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情―― 一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。

【完結】冷たい王に捨てられた私は、海峡の街で薫り高く生きる

チャビューヘ
恋愛
冷たい王レオナルドとの30年間の結婚生活で、私は一度も愛されなかった。45歳で死んだその日、感じたのは悲しみではなく、解放感だった。 目を覚ますと、私は海峡都市国家アルカナの香料商フィオーレ商会の娘・リリアーナとして17歳に転生していた。前世の記憶と30年分の痛みを抱えたまま。だが今度こそ、誰かの影で生きるのはごめんだ。婚約者候補として推された貴族バルトロメオを自ら断り、私は新しい道を選ぶ——「香り」で生きる道を。 東方と西方の文化が交差するこの街で、私は庶民向けの「海峡の香りシリーズ」を開発する。ラベンダーと白檀、ローズとウードを融合させた香りは、対立する東西の住民たちの心を和解へと導いた。そして、その香りに魅せられた一人の男性——変装した青年ダミアーノが、実は若き領主だと知る。 「あなたの香りは、この街の未来そのものだ」 彼の優しい言葉に、凍りついていた私の心が少しずつ溶けていく。だが前世の記憶が、触れられることへの恐怖が、私を縛り続ける。30年間、夫の冷たい視線に耐えてきた私に、本当の愛を受け取る資格があるのだろうか? ダミアーノは、10年前に東方出身の母を亡くし、文化の橋渡しを夢見る領主。彼もまた、傷を抱えていた。私たちは互いの痛みを理解し、香りを通して少しずつ心を開いていく。 だが幸せが近づくほど、前世の影は濃くなる。暗殺者の刃が私に向けられたとき、ダミアーノは迷わず身を挺して庇った。「君を失うくらいなら、僕の命などいらない」——その瞬間、私の凍てついた心が完全に溶けた。 前世で一度も触れられなかった唇に、優しいキスが降りる。30年間求め続けて得られなかった温もりが、今、ここにある。 中央政府からの試練、3人の審査官それぞれの「心の傷」を癒す香りの創作、そして公式婚約——。私はもう、誰かの影ではない。海峡の街で、愛する人の隣で、香り高く生きる自分自身だ。 やり直しの人生で掴んだ真実の愛。それは、もう誰にも奪わせない。

婚約破棄されたら、なぜか前世の記憶が戻りました

ほーみ
恋愛
 ──公爵令嬢リリアーナ・エヴァンズは、婚約者である第二王子、エドワード・ルーク・フォン・グランディスに呼び出され、王宮の広間に立たされていた。 「リリアーナ・エヴァンズ! 貴様の嫉妬深く卑しい行いは、もはや見過ごせん!」  エドワード王子の怒声が響く。彼の傍らには、美しい金髪の少女が涙目で寄り添っていた。名はセシリア・ローズベルト。平民出身ながら、王子の寵愛を一身に受けている少女だ。 「私は、セシリアを愛している! 故に、お前との婚約を破棄する!」

処理中です...