離婚予定の冷徹公爵閣下が、なぜか私の「心の声」を聴きすぎて離してくれません

腐ったバナナ

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4話

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 パンケーキの甘い余韻も、旦那様の謎の「離婚しない」宣言によるパニックも、すべては一通の来客カードによって吹き飛ばされました。

『お姉様、お久しぶりですわ! 元気になさっているか心配でお伺いしました』

(……どの口が。実家で私のパンの耳まで奪い取ってたあの腹黒妹が、心配なんてするわけないじゃないの)

 応接室で私を待っていたのは、フリルをこれでもかと盛ったドレスに身を包んだ、実家の妹エレーヌでした。

「お姉様! まぁ、なんて顔色の悪いこと。やはり、冷徹と名高い公爵閣下との生活は、お姉様には荷が重すぎたのではありませんか?」

 エレーヌは扇子で口元を隠しながら、勝ち誇ったような笑みを浮かべました。

(出たわよ、マウント星人! 悪いけど顔色は生まれつきなの。それに冷蔵庫……じゃなくて旦那様は、最近ちょっと挙動不審なだけで、顔面偏差値は神の領域なんだからね! あんたが狙ってるのはどうせ公爵家の財産でしょ。透けて見えるわよ、その浅ましさが!)

「ふふ、お姉様。公爵閣下が無理をなさっているのなら、わたくしが『交代』して差し上げてもよろしくてよ?」

 その時。 応接室の重厚な扉が、音もなく開きました。

「……誰と誰を『交代』すると?」

 冷気を含んだ声とともに現れたのは、ギルバート様でした。

「こ、公爵閣下……! お初にお目にかかります、エレーヌ・フォン・ベルシュタインですわ」

 エレーヌは一瞬で態度を豹変させ、頬を染めてしな垂れかかりました。 彼女の脳内は今、さぞかし「この男を落として贅沢三昧よ!」という欲望で溢れ返っていることでしょう。

 ですが、ギルバート様は彼女を一瞥だにせず、私の隣にどっかと腰を下ろしました。そして、あろうことか私の肩を抱き寄せたのです。

(ちょ、旦那様!? 距離が近い! 密着してる! エレーヌの前で見せつけなんて、何のプレイよ! 嬉しいけど、心臓がバックバクで脳内が『あわわわわ』ってバグってるから、あんまり変な声拾わないでちょうだいね!?)

 ギルバート様は、私の肩を抱く手にぐっと力を込めました。

「エレーヌ嬢。……君は今、アリアのことを『何の取り柄もない飾り物』だと思っていただろう」

 エレーヌの顔が、一瞬で凍りつきました。

  「な、何を……わたくしがそんなことを思うはずが……」

「さらに、俺のことを『顔がいいだけの財布』だと。……君の欲望は、実に耳障りだ」

(えっ、待って。旦那様、エレーヌの声まで聞こえてるの!? いや、違うわ。私との接触を通じて、私の脳内にある『エレーヌの悪評』を読み取ってるのか、それとも……!?)

 ギルバート様は、冷酷な微笑をエレーヌに向けました。

「アリアは、俺の唯一無二の妻だ。君のような、中身が空っぽの騒がしい女が足元に及ぶ存在ではない。二度と、俺たちの『箱庭』を汚しに来るな」

「ひっ、……あ、失礼いたしますわ!」

 エレーヌは真っ青になり、脱兎のごとく逃げ出して行きました。

 静かになった応接室。 ギルバート様は、ようやく私の肩から手を離しました。

(……かっこいい。え、何これ、ヒーロー? 冷蔵庫がスーパーヒーローに変身したの? 助けてくれた……んだよね? ちょっと惚れそう。いや、もう半分惚れてるけど! 顔がいい上に守ってくれるとか、非の打ち所がないじゃない!)

「…………フン」

 ギルバート様はふいっと顔を背けましたが、その耳の端が、隠しきれないほど真っ赤に染まっているのを、私は見逃しませんでした。

「アリア。……俺を『マシーン』だの『ヒーロー』だの、勝手に肩書きを増やすな」

「え、あ、はい……申し訳ございません、旦那様」

(バレてる! 全部バレてるけど……。でも、悪くないわね。心の声が聞こえる生活も)

 二人の間に流れる空気は、以前のような冷たい氷ではなく、どこか甘い熱を帯び始めていました。
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