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3話
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昨夜のシャンデリア落下事件から一夜明けました。 通常、ギルバート様は朝食を一人で済ませ、私とは顔を合わせないのがこの一年の「鉄則」でした。
なのに。
「……おはよう、アリア。気分はどうだ」
(ゲェッ! なんで朝から冷蔵庫がダイニングに鎮座してるのよ! しかも何その爽やかな挨拶、昨日シャンデリアの下敷きになって頭のネジでも飛んだの!?)
私は内心の動揺を一切見せず、優雅にカーテシーを捧げました。
「おはようございます、旦那様。……昨夜は大変な災難でしたが、こうしてお元気な姿を拝見できて、これ以上の喜びはございませんわ」
(はい、100点満点の淑女スマイル。……ってか、目が合ってるわね。ガン見されてるわね。これ、もしかして昨日の『心の声』がまだ聞こえてるかチェックされてる? 落ち着け、私は無機物。私は壁。私はただの、置物よ……)
ギルバート様は私の返事を聞き流し、目の前の席に座るよう促しました。 そして、彼が合図を出すと、侍女のメアリさんが焼きたてのパンケーキを運んできました。
(キ、キターーー!! 王都で話題の『奇跡のふわしゅわパンケーキ』じゃないの! メアリさん神! 大好き! 抱きしめたい! このバターの香りとハチミツの黄金比、もう見ただけで私の脳内報酬系がフィーバーしてるわ!!)
「……アリア、顔が緩んでいるぞ」
「はっ! ……申し訳ございません。あまりに香りが良かったもので、つい」
私は慌てて表情を引き締め、銀のナイフを手に取りました。
(落ち着け私。旦那様の前では、鳥の餌をついばむような小食な淑女でいなきゃ。……でも待って、このパンケーキ、中からとろけるクリームが出てきたわよ。何これ暴力的な美味しさなんだけど。この美味しさを前にして無言でいろなんて、拷問以外の何物でもないわ!)
ギルバート様は、自分の食事に一切手を付けず、じっと私を見つめています。 彼の耳には、今まさにアリアの「パンケーキ賛歌」が、オーケストラのような大音量で響いていました。
(あああぁぁ……幸せ……。この甘さが全身の細胞に染み渡る……。さっきまで冷蔵庫野郎だの家電だの言ってごめんね。このパンケーキを用意してくれたなら、あなたはもう冷蔵庫じゃなくて、全自動おもてなしマシーンよ!)
「…………マシーン?」
ギルバート様が、こめかみを押さえて呻きました。 彼は昨日確信したのです。アリアに「触れている時」だけでなく、彼女が「強く感情を動かしている時」も、その声が漏れ聞こえてくるのだと。
「……アリア。その、なんだ。……美味しいか?」
「はい。大変美味しゅうございます、旦那様」
(美味しいに決まってるでしょ! 聞くまでもないわよ! むしろ、あんたもその仏頂面してないで食べなさいよ。こんな美味しいものを前にして不機嫌そうな顔するなんて、パンケーキの神様に失礼だわ。ほら、口を開けなさい、この不器用な美形め!)
「…………っ」
突然、ギルバート様が立ち上がり、私の席まで歩み寄ってきました。 彼は迷うような仕草を見せた後、私の唇の端についたクリームを、指先で掬い取ったのです。
(!?!?!? な、なに!? 急にセクシーアピール!? 指先でクリーム!? それ、恋愛小説でしか見たことないやつ! 反則! 500点減点! ……いや、顔が良すぎて2000点加点だわ! くそっ、心臓がうるさい! 鳴り止まないドラムビート! 助けてメアリさーん!!)
「……うるさい。脳内で騒ぐなと言っただろう」
「え……あ……」
ギルバート様は、クリームのついた指先を見つめたまま、低く、熱を帯びた声で囁きました。
「離婚など、絶対にさせない。……お前は、一生俺の隣で、その騒がしい声を聴かせていればいい」
(は? ……ええええええええ!? 離婚させない!? 契約違反じゃないの!? 私のニート生活計画が!! スローライフの夢が!! 誰か、この暴走する公爵を止めてーーー!!)
混乱する私の目の前で、ギルバート様は初めて、ほんの少しだけ口角を上げました。 それは、氷が溶ける瞬間のような、残酷なほどに甘い微笑みでした。
なのに。
「……おはよう、アリア。気分はどうだ」
(ゲェッ! なんで朝から冷蔵庫がダイニングに鎮座してるのよ! しかも何その爽やかな挨拶、昨日シャンデリアの下敷きになって頭のネジでも飛んだの!?)
私は内心の動揺を一切見せず、優雅にカーテシーを捧げました。
「おはようございます、旦那様。……昨夜は大変な災難でしたが、こうしてお元気な姿を拝見できて、これ以上の喜びはございませんわ」
(はい、100点満点の淑女スマイル。……ってか、目が合ってるわね。ガン見されてるわね。これ、もしかして昨日の『心の声』がまだ聞こえてるかチェックされてる? 落ち着け、私は無機物。私は壁。私はただの、置物よ……)
ギルバート様は私の返事を聞き流し、目の前の席に座るよう促しました。 そして、彼が合図を出すと、侍女のメアリさんが焼きたてのパンケーキを運んできました。
(キ、キターーー!! 王都で話題の『奇跡のふわしゅわパンケーキ』じゃないの! メアリさん神! 大好き! 抱きしめたい! このバターの香りとハチミツの黄金比、もう見ただけで私の脳内報酬系がフィーバーしてるわ!!)
「……アリア、顔が緩んでいるぞ」
「はっ! ……申し訳ございません。あまりに香りが良かったもので、つい」
私は慌てて表情を引き締め、銀のナイフを手に取りました。
(落ち着け私。旦那様の前では、鳥の餌をついばむような小食な淑女でいなきゃ。……でも待って、このパンケーキ、中からとろけるクリームが出てきたわよ。何これ暴力的な美味しさなんだけど。この美味しさを前にして無言でいろなんて、拷問以外の何物でもないわ!)
ギルバート様は、自分の食事に一切手を付けず、じっと私を見つめています。 彼の耳には、今まさにアリアの「パンケーキ賛歌」が、オーケストラのような大音量で響いていました。
(あああぁぁ……幸せ……。この甘さが全身の細胞に染み渡る……。さっきまで冷蔵庫野郎だの家電だの言ってごめんね。このパンケーキを用意してくれたなら、あなたはもう冷蔵庫じゃなくて、全自動おもてなしマシーンよ!)
「…………マシーン?」
ギルバート様が、こめかみを押さえて呻きました。 彼は昨日確信したのです。アリアに「触れている時」だけでなく、彼女が「強く感情を動かしている時」も、その声が漏れ聞こえてくるのだと。
「……アリア。その、なんだ。……美味しいか?」
「はい。大変美味しゅうございます、旦那様」
(美味しいに決まってるでしょ! 聞くまでもないわよ! むしろ、あんたもその仏頂面してないで食べなさいよ。こんな美味しいものを前にして不機嫌そうな顔するなんて、パンケーキの神様に失礼だわ。ほら、口を開けなさい、この不器用な美形め!)
「…………っ」
突然、ギルバート様が立ち上がり、私の席まで歩み寄ってきました。 彼は迷うような仕草を見せた後、私の唇の端についたクリームを、指先で掬い取ったのです。
(!?!?!? な、なに!? 急にセクシーアピール!? 指先でクリーム!? それ、恋愛小説でしか見たことないやつ! 反則! 500点減点! ……いや、顔が良すぎて2000点加点だわ! くそっ、心臓がうるさい! 鳴り止まないドラムビート! 助けてメアリさーん!!)
「……うるさい。脳内で騒ぐなと言っただろう」
「え……あ……」
ギルバート様は、クリームのついた指先を見つめたまま、低く、熱を帯びた声で囁きました。
「離婚など、絶対にさせない。……お前は、一生俺の隣で、その騒がしい声を聴かせていればいい」
(は? ……ええええええええ!? 離婚させない!? 契約違反じゃないの!? 私のニート生活計画が!! スローライフの夢が!! 誰か、この暴走する公爵を止めてーーー!!)
混乱する私の目の前で、ギルバート様は初めて、ほんの少しだけ口角を上げました。 それは、氷が溶ける瞬間のような、残酷なほどに甘い微笑みでした。
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