離婚予定の冷徹公爵閣下が、なぜか私の「心の声」を聴きすぎて離してくれません

腐ったバナナ

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(……え? いま、何て?)

 私の思考は、完全にフリーズしていました。 今、この氷の彫像……もとい、旦那様は、確かに私の心の声を口にしたはずです。しかも「冷蔵庫」という、この世界の人間なら一生縁のないはずの単語を。

「……旦那様? 何をおっしゃっているのか、私には……」

 私は精一杯の「困惑する可憐な妻」を演じ、首を傾げました。 ですが、心の中はもう、パニック映画のクライマックス状態です。

(待って待って待って!! 聞こえてるの!? なんで!? もしかして今のシャンデリアの衝撃で、私の脳みそが電波でも発信し始めた!? いや、それとも彼がエスパーに目覚めた!? 冗談じゃないわよ、私の優雅なニート計画が「冷蔵庫」一点突破で崩壊するなんて死んでも死なれなーーい!!)

 ギルバート様の眉間に、かつてないほど深い皺が寄りました。 彼は頭を押さえ、苦悶に満ちた表情で私を見下ろしています。

「……黙れ。脳内で叫ぶな……。頭に直接、太鼓を打ち込まれているようだ……」

(え、マジで聞こえてる。これ、ガチなやつだ。終わった。私の人生、オワタ。……いや、待てよ? もしかして、こっちが何も考えてなければバレないんじゃ……。無。無になるのよ、アリア。私は空、私は風。私は一輪の可憐な花……)

「……さっきから、花だの風だの、忙しい女だ」

「ひっ!!」

 ギルバート様は私の腰を抱いたまま立ち上がり、そのまま私を床に降ろしました。 けれど、その手はまだ私の腕を強く掴んだままです。

「アリア、お前。……普段、そんなことを考えて俺の隣にいたのか?」

 その瞳には、怒りというよりは、純粋な「衝撃」と「困惑」が混じっていました。 私は冷や汗を流しながら、必死に猫を被り直します。

「な、何のことでしょうか……。私はただ、旦那様をお救いできて、安堵のあまり胸がいっぱいで……」

(嘘よ! 実際は『あー、慰謝料チャンスが逃げなくてよかったー!』って思ってるわよ! むしろ、このまま彼が記憶喪失にでもなって『君を愛している、全財産を譲るよ』とか言い出さないかなって一瞬期待したわよ!)

 ギルバート様は、目を見開いたまま絶句しました。 掴まれていた腕に、さらに力がこもります。

「……『全財産』だと? お前……俺を救った直後にそんな強欲なことを考えていたのか?」

(あ、また拾われた。便利ね、その耳。……って、感心してる場合じゃないわよ! 離して! 離してくれないと、また変なこと考えちゃうじゃない! ほら、今の角度のあなたの顎のラインが、彫刻みたいにエロ……じゃなくて、美しいとか! その血管の浮き出た手が、意外と男らしくてドキドキするとか!)

「…………っ!!」

 ギルバート様が、弾かれたように私の手を放しました。 彼は見る間に耳の先まで赤く染め、一歩、二歩と後ずさります。

「……不潔な。何を、何を口走って……いや、考えている!」

「だ、旦那様? 顔が赤いようですが、もしやどこかお怪我を……」

 私は心配そうに近寄ろうとしましたが、彼はそれを手で制しました。

「来るな! 寄るな! ……少し、頭を冷やしてくる」

 彼はそう言い捨てると、まるで猛獣から逃げるような勢いで、自分の執務室へと消えていきました。 残されたのは、静まり返ったホールと、割れたシャンデリアの残骸。

 私は一人、ポツンと立ち尽くしました。

(……逃げた。あの『氷の公爵』が、私の脳内毒舌に耐えきれずに逃げ出したわ。……ってことは、これ、最強の武器を手に入れたんじゃない? これから嫌なことがあったら、脳内で罵詈雑言の嵐を浴びせてやればいいのよ。ひゃっほー! 自由への扉が開いたわーー!)

 一方その頃。 執務室に逃げ込んだギルバートは、デスクに突っ伏して肩で息をしていました。

(……なんなんだ、あの女は。しおらしい仮面の裏で、俺を冷蔵庫呼ばわりし、全財産を狙い……そのくせ、俺の指先を見て『エロい』だと……!?)

 今まで、人の心の「邪念」に触れては絶望してきたギルバート。 けれど、アリアの心の声は、あまりにも奔放で、毒があるのにどこか陽気で――。

 彼の心臓は、恐怖とは別の理由で、これまでにないほど激しく脈打っていました。

(……離婚? させるものか。あんなに騒がしいものを外に放り出せるわけがないだろう……!)

 冷徹公爵の独占欲に、初めて火がついた瞬間でした。
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