婚約破棄されたら、実はわたし聖女でした~捨てられ令嬢は神殿に迎えられ、元婚約者は断罪される~

腐ったバナナ

文字の大きさ
9 / 25

9話

 神殿の朝は静かに始まる。透き通るような光が大理石の床を照らし、鳥のさえずりが庭に響く。エリスは窓辺に立ち、朝の光を浴びながら深く息を吸い込んだ。長い夜を越え、少しずつ心に安らぎが戻りつつある。

「……これで、やっと少し落ち着けるのかもしれない」

 独り言をつぶやきながらも、頭の片隅にはアランとリディアの影がちらつく。社交界での屈辱は、まだ完全には消えていなかった。

 その時、廊下の方から守衛の足音が急ぎ足で迫ってきた。

「エリス様! 社交界からお客様がいらしています!」

 エリスは眉をひそめる。

「社交界……?」

「はい。リディア様です。おそらくご挨拶の名目ですが、少々強引なご様子です」

 少し不安が胸をよぎったが、エリスは覚悟を決める。

「わかりました。通してください」

 扉が開き、リディアが優雅に歩み入る。華やかな衣装に身を包み、背筋を伸ばす姿はまるで完璧な令嬢そのもの。しかし、目には怒りと嫉妬が隠せず、わずかに震えていた。

「エリス、あなた……神殿で何をしているの?」

 声は冷たく、苛立ちを含んでいた。

 エリスは静かに顔を上げる。

「社交界から離れた場所で、必要なことを学んでいます。ご用件は何でしょうか?」

 リディアは目を細め、挑戦的に口を開いた。

「あなたが聖女だって……そんな話、本当に信じている人がいるの? 私の知る限り、皆は嘘だと言っているわ」

 胸に一瞬痛みが走る。しかし、エリスは深呼吸して落ち着きを取り戻す。

「噂や嫉妬に惑わされるつもりはありません。神殿の方々は、私の心と力を見て判断してくださいました」

 リディアはさらに声を荒げる。

「そんな……ありえない! 私の婚約者を捨てておいて、どうしてあなたが称賛されるのよ!」

 その言葉を聞いても、エリスは微動だにせず、静かに答える。

「リディア様、私は過去に囚われず、前に進むことを選びました。どうか、あなたもご自身の道を大切にしてください」

 リディアの顔が紅潮し、手が少し震えた。

「……あなた、本当に強いのね」

 その瞬間、神殿の扉が静かに開き、大神官セラフィムが現れる。

「リディア嬢、あなたの言葉は無意味です。事実は既に定まっています」

 その声に、リディアは一瞬言葉を失う。神官の威厳に圧され、肩の力が抜ける。

「でも……私は……!」

 声は震え、反論の意欲も消えかけていた。

 エリスは微笑み、優しい声で付け加える。

「リディア様、私はあなたを責めるつもりはありません。私たちはそれぞれの道で、正しいことを積み重ねていけば良いのです」

 リディアは無言で一礼し、扉を後にする。
 その背中を見送るエリスは、胸に手を当てて深呼吸した。

「もう、誰も私の価値を決めることはできない」

 朝日の温かさが肩を包み、エリスは少しずつ確かな自信を胸に抱いた。

 庭の花々が穏やかな風に揺れる。遠くの街の喧騒は届かない。ここでは、自分の力と心を信じることができる。

「さあ、今日も学び、力を磨くのだ」

 エリスは小さな微笑みを浮かべ、神殿の階段を上がっていった。未来はまだ長い――しかし、もう恐れるものは何もない。

あなたにおすすめの小説

役立たずと追放された聖女は、第二の人生で薬師として静かに輝く

腐ったバナナ
ファンタジー
「お前は役立たずだ」 ――そう言われ、聖女カリナは宮廷から追放された。 癒やしの力は弱く、誰からも冷遇され続けた日々。 居場所を失った彼女は、静かな田舎の村へ向かう。 しかしそこで出会ったのは、病に苦しむ人々、薬草を必要とする生活、そして彼女をまっすぐ信じてくれる村人たちだった。 小さな治療を重ねるうちに、カリナは“ただの役立たず”ではなく「薬師」としての価値を見いだしていく。

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

偽りの呪いで追放された聖女です。辺境で薬屋を開いたら、国一番の不運な王子様に拾われ「幸運の女神」と溺愛されています

黒崎隼人
ファンタジー
「君に触れると、不幸が起きるんだ」――偽りの呪いをかけられ、聖女の座を追われた少女、ルナ。 彼女は正体を隠し、辺境のミモザ村で薬師として静かな暮らしを始める。 ようやく手に入れた穏やかな日々。 しかし、そんな彼女の前に現れたのは、「王国一の不運王子」リオネスだった。 彼が歩けば嵐が起き、彼が触れば物が壊れる。 そんな王子が、なぜか彼女の薬草店の前で派手に転倒し、大怪我を負ってしまう。 「私の呪いのせいです!」と青ざめるルナに、王子は笑った。 「いつものことだから、君のせいじゃないよ」 これは、自分を不幸だと思い込む元聖女と、天性の不運をものともしない王子の、勘違いから始まる癒やしと幸運の物語。 二人が出会う時、本当の奇跡が目を覚ます。 心温まるスローライフ・ラブファンタジー、ここに開幕。

婚約破棄された「無能」聖女、拾った子犬が伝説の神獣だったので、辺境で極上もふもふライフを満喫します。~捨てた国が滅びそう?知りません~

ソラ
ファンタジー
「エリアナ、貴様との婚約を破棄し、この国から追放する!」 聖女としての魔力を使い果たし、無能と蔑まれた公爵令嬢エリアナ。 妹に婚約者を奪われ、身一つで北の最果て、凍てつく「死の森」へと捨てられる。 寒さに震え死を覚悟した彼女が出会ったのは、雪に埋もれていた一匹の小さなしっぽ。 「……ひとりぼっちなの? 大丈夫、私が温めてあげるわ」 最後の手向けに、残されたわずかな浄化の力を注いだエリアナ。 だが、その子犬の正体は――数千年の眠りから目覚めた、世界を滅ぼす伝説の神獣『フェンリル』だった! ヒロインの淹れるお茶に癒やされ、ヒロインのブラッシングにうっとり。 最強の神獣は、彼女を守るためだけに辺境を「極上の聖域」へと作り替えていく。 一方、本物の聖女(結界維持役)を失った王国では、災厄が次々と降り注ぎ、崩壊の危機を迎えていた。 今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくる王子たち。 けれど、エリアナの膝の上には、甘えん坊の神獣様(執着心MAX)が陣取っていて――。 「聖女の仕事? いえ、今は神獣様とのお昼寝の方が忙しいので」 無自覚チートな聖女と、彼女にだけはデレデレな神獣様による、逆転溺愛スローライフが幕を開ける!

本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。 バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。 追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。 シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。

まず、後宮に入れませんっ! ~悪役令嬢として他の国に嫁がされましたが、何故か荷物から勇者の剣が出てきたので、魔王を倒しに行くことになりました

菱沼あゆ
ファンタジー
 妹の婚約者を狙う悪女だと罵られ、国を追い出された王女フェリシア。  残忍で好色だと評判のトレラント王のもとに嫁ぐことになるが。  何故か、輿入れの荷物の中には、勇者の剣が入っていた。  後宮にも入れず、魔王を倒しに行くことになったフェリシアは――。 (小説家になろうでも掲載しています)

追放された令嬢、辺境の小国で自由に生きる

腐ったバナナ
ファンタジー
宮廷で「役立たず」と烙印を押され、突如として追放された令嬢リディア。 辺境の小国の荒れた城跡で、誰の干渉もない自由な生活を始める。 孤独で不安な日々から始まったが、村人や兵士たちとの触れ合いを通して信頼を築き、少しずつ自分の居場所を見つけていく。 やがて宮廷ではリディア不在の混乱が広がり、かつての元婚約者や取り巻き令嬢たちが焦る中、リディアは静かに、しかし確実に自身の価値と幸せを取り戻していく――。

平民令嬢、異世界で追放されたけど、妖精契約で元貴族を見返します

タマ マコト
ファンタジー
平民令嬢セリア・アルノートは、聖女召喚の儀式に巻き込まれ異世界へと呼ばれる。 しかし魔力ゼロと判定された彼女は、元婚約者にも見捨てられ、理由も告げられぬまま夜の森へ追放された。 行き場を失った境界の森で、セリアは妖精ルゥシェと出会い、「生きたいか」という問いに答えた瞬間、対等な妖精契約を結ぶ。 人間に捨てられた少女は、妖精に選ばれたことで、世界の均衡を揺るがす存在となっていく。