4 / 15
4話
しおりを挟む
城の中庭での作業を終え、リディアはほっと息をついた。石の塔に登って風景を眺めると、村は小さくも穏やかに広がっていた。森の緑と草原の黄、遠くの山の青が、夕日に染まる光景はまるで絵画のようだ。
「リディア様!」
低く慌ただしい声が聞こえた。振り返ると、先ほど手伝ってくれた老女が駆け寄ってくる。手には小さな籠、顔は汗と涙で濡れていた。
「どうしたの?」
リディアはすぐに駆け寄った。
「お嬢様、うちの子が……熱で寝込んでしまって……助けてください」
リディアの胸に温かいものが広がった。宮廷では人の痛みに触れる余裕さえなかったが、ここでは手を差し伸べることで誰かを守れる。
「大丈夫、すぐに診ましょう」
リディアは籠を受け取り、城の中の簡易な部屋に案内した。部屋の木の床は冷たいが、窓から入る夕日の光が暖かく、子どもを優しく包み込むようだった。
「名前は?」
リディアは微笑みかけながら尋ねる。
「マリウスです……昨日から高熱が続いて……」
老女がかすれた声で答える。
リディアはゆっくりと子どもの額に手を置き、熱を測った。
「……少し高いわね。でも、水分をとらせて、しっかり休めば大丈夫」
老女は涙を浮かべ、「でも薬がなくて……」と訴えた。
リディアは城の倉庫に走り、薬草や乾燥したハーブを取り出す。手に取る度、これまでの知識が自然に体に染み込むのを感じた。宮廷で「役立たず」と言われた日々も、この瞬間のための学びだったのかもしれない。
「これを煎じて飲ませましょう。少し苦いけれど、効きます」
老女は小さく頷き、リディアの指示通りに動く。子どもは熱にうなされながらも、手を握り返してきた。その小さな温もりに、リディアの胸はぎゅっと締め付けられる。
「……大丈夫、マリウス。すぐに良くなるわ」
声をかけながら、リディアは心の中で誓った。ここでは誰も私を役立たずなどと言わない。自分の力で人を助けられる、それだけで十分だ、と。
翌朝、マリウスの熱は下がり、笑顔を見せた。老女も嬉しそうに涙をぬぐう。
「お嬢様、本当にありがとうございます……」
「いいえ、私も嬉しいわ」
リディアは優しく微笑む。初めて、誰かの笑顔が自分の喜びになる感覚を味わった。
その日、村人たちが城の前に集まった。噂を聞きつけたらしい。
「リディア様、本当にありがとう! 私たちの生活が少しずつ良くなりそうです!」
「城でお手伝いさせてください!」
と、若者たちも声を上げる。
リディアは心の中で微笑む。宮廷での孤独や無力感、追放の痛みはまだ完全には消えていない。しかし、ここでは自分の行動が確かに人の役に立つのだ。誰かのために動くことで、自分の価値を実感できる。
夕暮れ、城の塔から眺める村の景色は、昨日とは少し違って見えた。家々の窓から漏れる暖かな光、煙突から上る細い煙、遠くで子どもたちが遊ぶ声。すべてが、リディアにとって生きている実感を与えてくれた。
「……これで、私も少しは役に立てるんだ」
心の中で呟き、リディアは深く息を吸った。追放され、誰も期待していない場所で、彼女は初めて自分の価値を感じたのだった。宮廷での屈辱は遠く、ここには温かい信頼と優しさがある。
その夜、リディアは星空を見上げながら、明日も村人たちの役に立とうと決めた。自由と孤独、そして小さな責任感が混ざり合い、初めて心が安らぐ感覚を味わった。辺境の小国での生活はまだ始まったばかりだが、彼女の胸には確かな希望が芽生えていた。
「リディア様!」
低く慌ただしい声が聞こえた。振り返ると、先ほど手伝ってくれた老女が駆け寄ってくる。手には小さな籠、顔は汗と涙で濡れていた。
「どうしたの?」
リディアはすぐに駆け寄った。
「お嬢様、うちの子が……熱で寝込んでしまって……助けてください」
リディアの胸に温かいものが広がった。宮廷では人の痛みに触れる余裕さえなかったが、ここでは手を差し伸べることで誰かを守れる。
「大丈夫、すぐに診ましょう」
リディアは籠を受け取り、城の中の簡易な部屋に案内した。部屋の木の床は冷たいが、窓から入る夕日の光が暖かく、子どもを優しく包み込むようだった。
「名前は?」
リディアは微笑みかけながら尋ねる。
「マリウスです……昨日から高熱が続いて……」
老女がかすれた声で答える。
リディアはゆっくりと子どもの額に手を置き、熱を測った。
「……少し高いわね。でも、水分をとらせて、しっかり休めば大丈夫」
老女は涙を浮かべ、「でも薬がなくて……」と訴えた。
リディアは城の倉庫に走り、薬草や乾燥したハーブを取り出す。手に取る度、これまでの知識が自然に体に染み込むのを感じた。宮廷で「役立たず」と言われた日々も、この瞬間のための学びだったのかもしれない。
「これを煎じて飲ませましょう。少し苦いけれど、効きます」
老女は小さく頷き、リディアの指示通りに動く。子どもは熱にうなされながらも、手を握り返してきた。その小さな温もりに、リディアの胸はぎゅっと締め付けられる。
「……大丈夫、マリウス。すぐに良くなるわ」
声をかけながら、リディアは心の中で誓った。ここでは誰も私を役立たずなどと言わない。自分の力で人を助けられる、それだけで十分だ、と。
翌朝、マリウスの熱は下がり、笑顔を見せた。老女も嬉しそうに涙をぬぐう。
「お嬢様、本当にありがとうございます……」
「いいえ、私も嬉しいわ」
リディアは優しく微笑む。初めて、誰かの笑顔が自分の喜びになる感覚を味わった。
その日、村人たちが城の前に集まった。噂を聞きつけたらしい。
「リディア様、本当にありがとう! 私たちの生活が少しずつ良くなりそうです!」
「城でお手伝いさせてください!」
と、若者たちも声を上げる。
リディアは心の中で微笑む。宮廷での孤独や無力感、追放の痛みはまだ完全には消えていない。しかし、ここでは自分の行動が確かに人の役に立つのだ。誰かのために動くことで、自分の価値を実感できる。
夕暮れ、城の塔から眺める村の景色は、昨日とは少し違って見えた。家々の窓から漏れる暖かな光、煙突から上る細い煙、遠くで子どもたちが遊ぶ声。すべてが、リディアにとって生きている実感を与えてくれた。
「……これで、私も少しは役に立てるんだ」
心の中で呟き、リディアは深く息を吸った。追放され、誰も期待していない場所で、彼女は初めて自分の価値を感じたのだった。宮廷での屈辱は遠く、ここには温かい信頼と優しさがある。
その夜、リディアは星空を見上げながら、明日も村人たちの役に立とうと決めた。自由と孤独、そして小さな責任感が混ざり合い、初めて心が安らぐ感覚を味わった。辺境の小国での生活はまだ始まったばかりだが、彼女の胸には確かな希望が芽生えていた。
47
あなたにおすすめの小説
竜の国のカイラ~前世は、精霊王の愛し子だったんですが、異世界に転生して聖女の騎士になりました~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
辺境で暮らす孤児のカイラは、人には見えないものが見えるために悪魔つき(カイラ)と呼ばれている。
同じ日に拾われた孤児の美少女ルイーズといつも比較されていた。
16歳のとき、神見の儀で炎の神の守護を持つと言われたルイーズに比べて、なんの神の守護も持たないカイラは、ますます肩身が狭くなる。
そんなある日、魔物の住む森に使いに出されたカイラは、魔物の群れに教われている人々に遭遇する。
カイラは、命がけで人々を助けるが重傷を負う。
死に瀕してカイラは、自分が前世で異世界の精霊王の姫であったことを思い出す。
エブリスタにも掲載しています。
授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
続・無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……✩✩旅を選んだ娘とその竜の物語
タマ マコト
ファンタジー
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……の第2部
アストライア王国を離れ、「自分の人生は自分で選ぶ」と決めたエリーナは、契約竜アークヴァンとともに隣国リューンへ旅立つ。肩書きも後ろ盾もほぼゼロ、あるのは竜魔法とちょっと泣き虫な心だけ。異国の街エルダーンで出会った魔導院研究員の青年カイに助けられながら、エリーナは“ただの旅人”として世界に触れ始める。
しかし祭りの夜、竜の紋章が反応してしまい、「王宮を吹き飛ばした竜の主」が異国に現れたという噂が一気に広がる。期待と恐怖と好奇の視線に晒され、エリーナはまた泣きそうになるが、カイの言葉とアークヴァンの存在に支えられながら、小さな干ばつの村の水問題に挑むことを決意。派手な奇跡は起こせない、それでも竜魔法と人の手を合わせて、ひとつの井戸を救い、人々の笑顔を取り戻していく。
「竜の主」としてではなく、「エリーナ」として誰かの役に立ちたい。
そう願う彼女と、彼女に翼を預けた白竜、そして隣で見守る青年カイ。
世界の広さと、自分の弱さと、ほんの少しの恋心に揺れながら──
“旅を選んだちょっと泣き虫で、でも諦めの悪い娘とその竜”の物語が、本当の意味で動き出していく。
婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~
夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。
「聖女なんてやってられないわよ!」
勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。
そのまま意識を失う。
意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。
そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。
そしてさらには、チート級の力を手に入れる。
目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。
その言葉に、マリアは大歓喜。
(国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!)
そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。
外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。
一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
平民に転落した元令嬢、拾ってくれた騎士がまさかの王族でした
タマ マコト
ファンタジー
没落した公爵令嬢アメリアは、婚約者の裏切りによって家も名も失い、雨の夜に倒れたところを一人の騎士カイルに救われる。
身分を隠し「ミリア」と名乗る彼女は、静かな村で小さな幸せを見つけ、少しずつ心を取り戻していく。
だが、優しくも謎めいたカイルには、王族にしか持ちえない気品と秘密があり――
それが、二人の運命を大きく動かす始まりとなるのであった。
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
【完結】令嬢は売られ、捨てられ、治療師として頑張ります。
まるねこ
ファンタジー
魔法が使えなかったせいで落ちこぼれ街道を突っ走り、伯爵家から売られたソフィ。
泣きっ面に蜂とはこの事、売られた先で魔物と出くわし、置いて逃げられる。
それでも挫けず平民として仕事を頑張るわ!
【手直しての再掲載です】
いつも通り、ふんわり設定です。
いつも悩んでおりますが、カテ変更しました。ファンタジーカップには参加しておりません。のんびりです。(*´꒳`*)
Copyright©︎2022-まるねこ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる