婚約破棄された私を拾ったのは、辺境のグルメ公爵でした

腐ったバナナ

文字の大きさ
15 / 20

15話

しおりを挟む
 王都が飢饉と財政難で沈みゆく中、王太子の婚約者リリアの焦燥は限界に達していた。

 彼女の婚約者ルドルフは、エマを失った後悔で常に苛立っており、リリアの料理や献身に対しても冷たさを隠さなかった。リリアの「聖女」としての評判も、食糧問題の前には無力で、国民の支持を失いつつあった。

「なぜよ!なぜ、あのエマなんかが、あんなに幸せになれるのよ!」

 リリアは、公爵領からの豪華な報告書を握り潰した。報告書には、エマが開発した「奇跡の食材」が公爵領にもたらす莫大な利益が記されていた。

 リリアは、エマを「毒」と罵って追放した張本人であり、その罪を逃れるためには、エマの才能を再び王国のものにするか、エマの全てを破壊するしかなかった。

(そうだ、エマはまだ正式に王家への臣下の礼を取っていない。王家が直接命じれば、公爵も従わざるを得ないはず……!)

 リリアは、最後の手段に出ることを決意した。

 数日後、ライナス公爵のもとに、王太子ルドルフではなく、国王陛下から直接の勅命が届いた。

 勅命の内容は、「公爵夫人が開発した全ての食料技術、並びに保存食のレシピを、王国の名の下に無償で提供せよ」という、極めて強硬なものだった。

 その勅命の裏には、リリアが国王に「エマの技術はもともと王国の資産であり、公爵が不当に独占している」と虚偽の進言をした事実があった。

 ライナスは、勅命書を読み終えると、冷たい笑みを浮かべた。

「あの愚かな聖女が、まだ諦めていなかったか。これは、彼女の最後の悪あがきだ」

 彼はすぐにエマを呼び寄せた。エマもまた、王家が黙っているはずがないと予期していたため、冷静だった。

「公爵様。わたくしの技術を、陛下に提供しますか?」エマは尋ねた。

 ライナスは、エマの髪にそっと触れた。

「馬鹿なことを言うな。君の才能は、私だけのものだ。だが、この勅命を公然と拒否すれば、王家は公爵家との戦争も辞さないだろう」

 彼の心は、エマを守るためなら、王国全体を敵に回す覚悟で満ちていた。

 ライナスは、王家の要求を拒否するのではなく、利用することを決めた。

 彼は、エマと共に王都へ向かうことを決めた。名目は「国王陛下に直接、技術の独占の理由を説明する」というものだった。

「エマ。王都で、君の真の力を見せつけるときが来た」

 ライナスは、エマに冷徹な指示を与えた。

「あの愚かな王太子と、嫉妬に狂った偽聖女の前で、君がいかにかけがえのない至宝であるかを示せ。そして、私がいかに冷酷に、君を守り抜くかを、彼らの脳裏に焼き付けるのだ」

 エマは頷いた。王都への帰還は、彼女にとって過去の清算であり、公爵との愛の証明でもあった。

(待ってなさい、リリア。そしてルドルフ殿下。あなたたちが『毒』と罵ったものが、今、あなたたちの世界を終わらせるわ)。

 エマとライナス公爵の乗った豪華な馬車は、王都の運命を乗せて、辺境の公爵領を出発した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結]国から捨てられた伯爵令嬢は南国で売られる

青空一夏
恋愛
災い扱いされた魔法の力を持つ伯爵令嬢スノア。 国や両親に捨てられ、商人に連れられて常夏の国へと辿り着く。 そこでスノアはお仕事に励むのだが、役に立つたびに“売られる”という不思議な日々が始まる。 売られては働き、働いてはまた売られるスノアは、一体どこへ行き着くのか――? 魔法と発想で仕事が認められていく一方、居場所のなさに心は少しだけ不安定に。 スノアは自分の居場所を見つけ、幸せになれるのでしょか? 本編完結後、ざまぁ番外編あり。

「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした

しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」 十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。 会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。 魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。 ※小説家になろう様にも投稿しています※

「地味な婚約者を捨てて令嬢と結婚します」と言った騎士様が、3ヶ月で離婚されて路頭に迷っている

歩人
ファンタジー
薬師のナターリアは婚約者の騎士ルドガーに「地味なお前より伯爵令嬢が ふさわしい」と捨てられた。泣きはしなかった。ただ、明日から届ける薬が 一人分減るな、と思っただけ。 ルドガーは華やかな伯爵令嬢イレーネと結婚し、騎士団で出世する——はずだった。 しかしイレーネの実家は見栄だけの火の車。持参金は消え、借金取りが押し寄せ、 イレーネ本人にも「稼ぎが少ない」と三行半を突きつけられた。 3ヶ月で全てを失ったルドガーが街角で見たのは、王宮薬師に抜擢された ナターリアが、騎士団長と笑い合う姿だった。 「なあ、ナターリア……俺が間違っていた」 「ええ、知ってます。でも、もう関係のない話ですね」

婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜

夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」 婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。 彼女は涙を見せず、静かに笑った。 ──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。 「そなたに、我が祝福を授けよう」 神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。 だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。 ──そして半年後。 隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、 ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。 「……この命、お前に捧げよう」 「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」 かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。 ──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、 “氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。

捨てられ令嬢は微笑む ——婚約破棄ののち、氷の王太子に独占されるまで——

usako
恋愛
名門侯爵家の令嬢リディアは、婚約者である王太子レオンから突然の婚約破棄を告げられる。理由は「平凡で退屈だから」。 傷心のリディアは領地に引きこもり、静かに暮らすつもりだった。しかし、冷徹と評判の第二王子エリアスが突然現れ、「俺がおまえをもらう」と告げる。 心を閉ざした令嬢と、他人に興味を示さなかった王子――二人の絆が深まるほど、氷の王国に亀裂が走る。 そして、あの婚約破棄の裏に潜む陰謀が暴かれるとき、かつての恋人たちの立場は逆転する。 「退屈? 本当にそう思うなら、見ていればいい」 ──捨てられた令嬢が、王国一の寵愛を手にするまでの物語。

婚約破棄された宮廷薬師、辺境を救い次期領主様に溺愛される

希羽
恋愛
宮廷薬師のアイリスは、あらゆる料理を薬学と栄養学に基づき、完璧な「薬膳」へと昇華させる類稀なる才能の持ち主。 しかし、その完璧すぎる「効率」は、婚約者である騎士団の副団長オスカーに「君の料理には心がない」と断じられ、公衆の面前で婚約を破棄される原因となってしまう。 全てを失ったアイリスが新たな道として選んだのは、王都から遠く離れた、貧しく厳しい北の辺境領フロスラントだった。そこで彼女を待っていたのは、謎の奇病に苦しむ領民たちと、無骨だが誰よりも民を想う代理領主のレオン。 王都で否定された彼女の知識と論理は、この切実な問題を解決する唯一の鍵となる。領民を救う中で、アイリスは自らの価値を正当に評価してくれるレオンと、固い絆を結んでいく。 だが、ようやく見つけた安住の地に、王都から一通の召喚状が届く。

元婚約者に冷たく捨てられた令嬢、辺境で出会った無愛想な騎士に溺愛される ~今さら戻ってこないでください~

usako
恋愛
婚約者に「平民の娘と結婚する」と一方的に婚約破棄された名門令嬢レティシア。 心が傷ついた彼女はすべてを捨て、辺境の小領地へと旅立つ。 そこで出会ったのは、無口で不器用だが誰よりも誠実な騎士・エドガー。 彼の優しさに癒され、次第に芽生える信頼と恋心。 けれど元婚約者が後悔とともに彼女を探しに来て――「もう遅い」と彼女は微笑む。 ざまぁと溺愛の王道を詰め込んだ、胸キュン辺境ラブストーリー。

「君との婚約は時間の無駄だった」とエリート魔術師に捨てられた凡人令嬢ですが、彼が必死で探している『古代魔法の唯一の使い手』って、どうやら私

白桃
恋愛
魔力も才能もない「凡人令嬢」フィリア。婚約者の天才魔術師アルトは彼女を見下し、ついに「君は無駄だ」と婚約破棄。失意の中、フィリアは自分に古代魔法の力が宿っていることを知る。時を同じくして、アルトは国を救う鍵となる古代魔法の使い手が、自分が捨てたフィリアだったと気づき後悔に苛まれる。「彼女を見つけ出さねば…!」必死でフィリアを探す元婚約者。果たして彼は、彼女に許されるのか?

処理中です...