婚約破棄された私を拾ったのは、辺境のグルメ公爵でした

腐ったバナナ

文字の大きさ
14 / 20

14話

しおりを挟む
 王太子ルドルフが辺境から戻って数週間が経過した。王家はライナス公爵との屈辱的な契約を履行せざるを得ず、王国から大量の資源と鉱山の権利が公爵領へと移譲された。

 この出来事は、王国の財政に致命的な打撃を与え、飢饉に追い打ちをかける形となった。国民の不満は爆発寸前となり、「無能な王太子」と「偽りの聖女」に対する批判の声が日に日に高まっていった。

 ルドルフは、執務室で頭を抱えていた。彼の傍らには、すっかり生気を失ったリリアが座っていた。

「殿下……」

 リリアは震える声で言った。

「公爵様の要求を受け入れた結果、王国の基盤が崩壊してしまいます。全て、あのエマのせい……」

「静かにしろ、リリア!」

 ルドルフは苛立ちを隠さなかった。

「全ては、私がエマの才能を見抜けず、君の嘘に乗せられた私の愚かさの報いだ。公爵は、ただ私の過ちを利用したに過ぎない」

 ルドルフは、エマを「毒」と罵った過去を、片時も忘れられずにいた。彼が飢えで苦しむ国民を見れば見るほど、エマという至宝を手放した自らの愚かさが身に染みた。

 一方、ライナス公爵領は、王家から得た資源とエマのグルメチートの相乗効果で、空前の繁栄を極めていた。

 エマは、公爵夫人として社交界に本格的にデビューすることになった。王都の貴族たちは、当初、「追放された元令嬢」が公爵夫人になったことに懐疑的だったが、彼女の優雅な立ち振る舞いと、ライナス公爵の絶対的な寵愛を目の当たりにして、その評価は一変した。

 ある晩、王都からの貴族を招いた晩餐会が開かれた。エマが全てを取り仕切ったその晩餐は、食材の純粋な味と完璧な調和によって、参加者全員を陶酔させた。

「こんなに美味しい料理は、食べたことがありません!公爵夫人の才能は、まさに奇跡ですわ!」

「これほど完璧な食事を前に、王都の料理など、泥水に等しい!」

 貴族たちは、ライナス公爵が王国の全てを差し出させてまでエマの技術を独占する理由を、心から理解した。彼らは、エマを「辺境の女神」として崇めるようになり、公爵夫妻の地位は揺るぎないものとなった。

 晩餐会の後、ライナスはエマを自らの部屋に連れて行った。彼の顔は、この上ない満足感に満ちていた。

「エマ。君の才能は、王都の愚か者たちの心を完全に打ち砕いた。彼らは、君が私だけのものであるという事実を、骨の髄まで理解しただろう」

 ライナスは、エマを優しく抱きしめた。

「君の料理が、私にもたらす満足感は、王国の富よりも、名声よりも、遥かに価値がある。君の隣にいることで、私は初めて完全な安寧を得た」

 彼の瞳は、もはや冷徹な美食家のそれではなく、愛する妻への深い愛情と感謝を湛えていた。エマは、ライナスの腕の中で、王太子に捨てられた過去の傷が、この甘い溺愛によって完全に癒やされたことを実感していた。

「公爵様……わたくしも、公爵様のお傍で、公爵様のために料理を作り続けることに、最高の幸せを感じています」

 二人の絆は、最高の美食と絶対的な庇護によって、永遠に続くものとなったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結]国から捨てられた伯爵令嬢は南国で売られる

青空一夏
恋愛
災い扱いされた魔法の力を持つ伯爵令嬢スノア。 国や両親に捨てられ、商人に連れられて常夏の国へと辿り着く。 そこでスノアはお仕事に励むのだが、役に立つたびに“売られる”という不思議な日々が始まる。 売られては働き、働いてはまた売られるスノアは、一体どこへ行き着くのか――? 魔法と発想で仕事が認められていく一方、居場所のなさに心は少しだけ不安定に。 スノアは自分の居場所を見つけ、幸せになれるのでしょか? 本編完結後、ざまぁ番外編あり。

「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした

しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」 十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。 会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。 魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。 ※小説家になろう様にも投稿しています※

「地味な婚約者を捨てて令嬢と結婚します」と言った騎士様が、3ヶ月で離婚されて路頭に迷っている

歩人
ファンタジー
薬師のナターリアは婚約者の騎士ルドガーに「地味なお前より伯爵令嬢が ふさわしい」と捨てられた。泣きはしなかった。ただ、明日から届ける薬が 一人分減るな、と思っただけ。 ルドガーは華やかな伯爵令嬢イレーネと結婚し、騎士団で出世する——はずだった。 しかしイレーネの実家は見栄だけの火の車。持参金は消え、借金取りが押し寄せ、 イレーネ本人にも「稼ぎが少ない」と三行半を突きつけられた。 3ヶ月で全てを失ったルドガーが街角で見たのは、王宮薬師に抜擢された ナターリアが、騎士団長と笑い合う姿だった。 「なあ、ナターリア……俺が間違っていた」 「ええ、知ってます。でも、もう関係のない話ですね」

婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜

夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」 婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。 彼女は涙を見せず、静かに笑った。 ──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。 「そなたに、我が祝福を授けよう」 神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。 だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。 ──そして半年後。 隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、 ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。 「……この命、お前に捧げよう」 「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」 かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。 ──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、 “氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。

捨てられ令嬢は微笑む ——婚約破棄ののち、氷の王太子に独占されるまで——

usako
恋愛
名門侯爵家の令嬢リディアは、婚約者である王太子レオンから突然の婚約破棄を告げられる。理由は「平凡で退屈だから」。 傷心のリディアは領地に引きこもり、静かに暮らすつもりだった。しかし、冷徹と評判の第二王子エリアスが突然現れ、「俺がおまえをもらう」と告げる。 心を閉ざした令嬢と、他人に興味を示さなかった王子――二人の絆が深まるほど、氷の王国に亀裂が走る。 そして、あの婚約破棄の裏に潜む陰謀が暴かれるとき、かつての恋人たちの立場は逆転する。 「退屈? 本当にそう思うなら、見ていればいい」 ──捨てられた令嬢が、王国一の寵愛を手にするまでの物語。

婚約破棄された宮廷薬師、辺境を救い次期領主様に溺愛される

希羽
恋愛
宮廷薬師のアイリスは、あらゆる料理を薬学と栄養学に基づき、完璧な「薬膳」へと昇華させる類稀なる才能の持ち主。 しかし、その完璧すぎる「効率」は、婚約者である騎士団の副団長オスカーに「君の料理には心がない」と断じられ、公衆の面前で婚約を破棄される原因となってしまう。 全てを失ったアイリスが新たな道として選んだのは、王都から遠く離れた、貧しく厳しい北の辺境領フロスラントだった。そこで彼女を待っていたのは、謎の奇病に苦しむ領民たちと、無骨だが誰よりも民を想う代理領主のレオン。 王都で否定された彼女の知識と論理は、この切実な問題を解決する唯一の鍵となる。領民を救う中で、アイリスは自らの価値を正当に評価してくれるレオンと、固い絆を結んでいく。 だが、ようやく見つけた安住の地に、王都から一通の召喚状が届く。

元婚約者に冷たく捨てられた令嬢、辺境で出会った無愛想な騎士に溺愛される ~今さら戻ってこないでください~

usako
恋愛
婚約者に「平民の娘と結婚する」と一方的に婚約破棄された名門令嬢レティシア。 心が傷ついた彼女はすべてを捨て、辺境の小領地へと旅立つ。 そこで出会ったのは、無口で不器用だが誰よりも誠実な騎士・エドガー。 彼の優しさに癒され、次第に芽生える信頼と恋心。 けれど元婚約者が後悔とともに彼女を探しに来て――「もう遅い」と彼女は微笑む。 ざまぁと溺愛の王道を詰め込んだ、胸キュン辺境ラブストーリー。

「君との婚約は時間の無駄だった」とエリート魔術師に捨てられた凡人令嬢ですが、彼が必死で探している『古代魔法の唯一の使い手』って、どうやら私

白桃
恋愛
魔力も才能もない「凡人令嬢」フィリア。婚約者の天才魔術師アルトは彼女を見下し、ついに「君は無駄だ」と婚約破棄。失意の中、フィリアは自分に古代魔法の力が宿っていることを知る。時を同じくして、アルトは国を救う鍵となる古代魔法の使い手が、自分が捨てたフィリアだったと気づき後悔に苛まれる。「彼女を見つけ出さねば…!」必死でフィリアを探す元婚約者。果たして彼は、彼女に許されるのか?

処理中です...