離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています

腐ったバナナ

文字の大きさ
6 / 23

6話

しおりを挟む
 アークライトの過剰なまでの溺愛に包まれ、セシルの結婚準備は順調に進んでいた。セシルは、彼の冷徹な態度が不器用な愛だったことを知ってからは、彼の無表情すら愛おしく感じられるようになっていた。

(前世では、アークライト様のこの溺愛を冷たい支配だと誤解していたのね。なんて愚かだったんだろう)

 しかし、セシルは幸福に浸るだけでなく、前世で自分の結婚生活を壊そうとした敵の存在を警戒していた。

 その筆頭が、セシルの侯爵家の従姉妹、リゼッタだった。

 ある日の社交界の茶会。セシルは、婚約者としてアークライトの隣に立っていた。もちろん、アークライトはセシル以外の女性とは一切目を合わせず、彼の周囲は「触れるな危険」という空気に包まれていた。

 そこへ、豪華なドレスに身を包んだリゼッタが、優雅に、そして悪意に満ちた笑顔で近づいてきた。

「まあ、セシル。体調はもう良いの?アークライト様は、あなたのために夜通し薬草を探させたと聞いているわ。本当に手がかかるわね」

 リゼッタは、一見心配しているように見せかけながら、アークライトが冷徹な侯爵ではなく、自分の妻候補に翻弄される愚かな男であると示唆し、セシルを格下に見せようとした。

 前世のセシルなら、この嫌味に言葉を詰まらせ、アークライトに嫌われたのではないかと不安に陥っていただろう。

 しかし、今のセシルは違った。

 セシルは笑顔を崩さず、リゼッタの手を取り、親愛の情を示すように言った。

「リゼッタ、ありがとう。確かに、私の体調のためにアークライト様にはご心配をおかけしましたわ。でも、彼は冷徹と言われているけれど、実際はとても情熱的で献身的な方なの。愛する者のためなら、どんな義務でも果たすのが彼の流儀ですもの」

 セシルは、「義務」という言葉を、「愛」で包み込んで返した。そして、アークライトをじっと見つめ、愛情を込めた微笑みを送った。

 アークライトは、セシルのこの行動に、激しく動揺した。彼の全身から、「喜びの金」と、セシルへの「独占の赤」が入り混じった光が、激しくスパークした。

「セシル、君……」

 彼は何も言えなかったが、セシルの腰を強く引き寄せ、自分とリゼッタの間に入るようにセシルを庇護した。彼のこの行動が、セシルの言葉が真実であることを、周囲に示していた。

 リゼッタの顔から笑顔が消えた。彼女は前世のセシルを知っている。内気で、言い返すことのできないセシルが、アークライトの隣で自信に満ちた愛の言葉を口にしたことに驚愕したのだ。

「フフ、相変わらず仲がよろしいこと。でも、アークライト様。セシルは侯爵家の令嬢としては少し地味でいらっしゃる。『結界騎士』である貴方の隣には、もっと華やかで、有能な女性がお似合いではありませんこと?」

 リゼッタは、アークライトが「仕事」を優先する人物だと知っているため、セシルの能力のなさを攻撃した。前世では、これがアークライトの冷徹さを引き出し、二人の間の溝を深める原因となっていた。

 しかし、セシルは前世の経験から知っている。リゼッタが次に何をしようとしているかを。

(リゼッタは、アークライト様が多忙なのを良いことに、結婚後、私を社交界で孤立させ、アークライト様の側室の座を狙うつもりだった)

 セシルは、冷たい目でリゼッタを見つめた。

「リゼッタ。私たちが結婚するのは、政略だけでなく、愛があるからです。そして、アークライト様が本当に望むのは、外見の華やかさではなく、心の強さと誠実さですわ」

 セシルはアークライトに顔を寄せた。

「違いますか、アークライト様?」

 アークライトは、リゼッタが発する「嫉妬の青緑」と、セシルが発する「信頼の金」のコントラストに、言葉を失っていたが、セシルの問いかけに、その場ではっきりと、大声で答えた。

「その通りだ。私の選んだ妻はセシルだけだ。他はいらない」

「二度と、私の妻を侮辱するな」

 アークライトの絶対的な庇護の言葉に、リゼッタは屈辱に顔を歪ませ、その場から逃げ去った。

 セシルは、アークライトの腕の中で、「今世はもう大丈夫」だと確信した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件

水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。 以後、 寝室は強制統合 常時抱っこ移動 一秒ごとに更新される溺愛 妻を傷つける者には容赦なし宣言 甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。 さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――? 自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。 溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ

王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない

エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい 最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。 でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。

前世の推しに似てる不仲の婚約者に「お顔が好きです」と伝えましたところ

咲楽えび@改名しました(旧 佐倉えび)
恋愛
公爵令嬢のエリーサベトは、ポンコツ王子と呼ばれる婚約者のベルナルドに嫌気がさし、婚約者破棄を目論んでた。 そんなある日、前世を思い出したエリーサベトは気付く。ベルナルドが前世の推しに似ていることに―― ポンコツ王子と勝気な令嬢が両思いになるまでのお話。 ※小説家になろうさまでも掲載しています。

元婚約者に冷たく捨てられた令嬢、辺境で出会った無愛想な騎士に溺愛される ~今さら戻ってこないでください~

usako
恋愛
婚約者に「平民の娘と結婚する」と一方的に婚約破棄された名門令嬢レティシア。 心が傷ついた彼女はすべてを捨て、辺境の小領地へと旅立つ。 そこで出会ったのは、無口で不器用だが誰よりも誠実な騎士・エドガー。 彼の優しさに癒され、次第に芽生える信頼と恋心。 けれど元婚約者が後悔とともに彼女を探しに来て――「もう遅い」と彼女は微笑む。 ざまぁと溺愛の王道を詰め込んだ、胸キュン辺境ラブストーリー。

殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!

さら
恋愛
 王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。  ――でも、リリアナは泣き崩れなかった。  「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」  庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。  「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」  絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。  「俺は、君を守るために剣を振るう」  寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。  灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。

老伯爵へ嫁ぐことが決まりました。白い結婚ですが。

ルーシャオ
恋愛
グリフィン伯爵家令嬢アルビナは実家の困窮のせいで援助金目当ての結婚に同意させられ、ラポール伯爵へ嫁ぐこととなる。しかし祖父の戦友だったというラポール伯爵とは五十歳も歳が離れ、名目だけの『白い結婚』とはいえ初婚で後妻という微妙な立場に置かれることに。 ぎこちなく暮らす中、アルビナはフィーという女騎士と出会い、友人になったつもりだったが——。

完結·異世界転生したらアザラシ? でした〜白いモフモフでイケメン騎士たちに拾われましたが、前世の知識で医療チートしています〜

恋愛
ネットでアザラシを見ることが癒しだった主人公。 だが、気が付くと知らない場所で、自分がアザラシになっていた。 自分が誰か分からず、記憶が曖昧な中、個性的なイケメン騎士たちに拾われる。 しかし、騎士たちは冬の女神の愛おし子を探している最中で…… ※小説家になろう、Nolaノベルにも投稿しています ※完結まで毎日投稿します

処理中です...