「偽聖女」と追放された令嬢は、冷酷な獣人王に溺愛されました~私を捨てた祖国が魔物で滅亡寸前?今更言われても、もう遅い

腐ったバナナ

文字の大きさ
15 / 26

15話

 人間国からの外交使節団が、ついに獣人国との国境を越え、王都へ到着した。

 使節団は、国王の側近である老侯爵を筆頭に、そして何よりも、「現聖女」であるフィーアの妹リシアンを伴っていた。リシアンは、獣人国が荒廃していると信じ込んでおり、「聖女」としての威厳を見せつけてフィーアを圧倒し、連れ戻すつもりでいた。

 しかし、彼らが目にしたのは、予想を遥かに裏切る光景だった。

 獣人国の王都は、以前人間国の情報にあったような荒廃した都市ではなかった。街路は清らかに保たれ、人々は活力に満ち溢れ、そして何よりも、豊かな農作物の香りが街中に満ちていた。

 侯爵の心の声:(嘘だ!あの地が、これほどまでに豊かになっているなど!まさか、本当にフィーア・エメラインの力だというのか…!)

 リシアンは、特に王都の空気の清らかさに驚愕した。彼女の治癒魔法でも決して達成できない、生命力に満ちた澄んだ空気だった。

 使節団は、王宮の玉座の間へと案内された。

 玉座には、威厳に満ちた黄金の鬣を持つガゼル王が座っていた。そして、その隣、女王の席には、かつて「偽聖女」として追放されたフィーアが、堂々と腰掛けていた。

 フィーアは、獣人族の装飾が施された、清らかで力強い王妃の装いをしていた。その表情には、愛と自信が満ち溢れており、以前の地味で怯えた伯爵令嬢の面影は微塵もなかった。

 リシアンは、姉の圧倒的な変貌と、王の隣という絶対的な地位を目の当たりにし、激しい嫉妬と屈辱に襲われた。

 侯爵は、国王の指示に従い、表面的な挨拶の後、本題を切り出した。

「ガゼル王。我が国は、貴国との友好を深めたいと願っております。つきましては、以前の誤解を解き、フィーア王妃(元伯爵令嬢フィーア)を、正式な聖女として我が国へ連れ戻し、協力体制を築きたい…」

 侯爵の心の声:(聖女の力を借りて、国を救うのだ。王妃の地位など、飾りだろう。彼女は、まだ人間国の貴族の義務を負っている)

 侯爵の傲慢で身勝手な思惑を聞いた瞬間、ガゼル王の瞳に冷たい殺意が宿った。

 ガゼル王は、立ち上がり、巨大な体躯で玉座の間を威圧した。

「黙りなさい、侯爵」

 ガゼル王の声は、辺境の凍てつく氷のように冷たかった。

「貴様らは、我が愛する妻を『偽聖女』と断罪し、死に等しい追放をした。その罪を、忘れたとでも言うのか?」

 王は、フィーアの手を握りしめ、高らかに宣言した。

「フィーアは、もはや貴様らの『元伯爵令嬢』ではない。彼女は、我が妻、この獣人族を統べる真の女王だ。貴様らに、我が女王を連れ戻す権利など、微塵もない!」

 そして、ガゼル王は、冷酷な目でリシアンを見据えた。

「偽聖女よ。貴様の嫉妬と国王の愚かさによって、貴様の国は滅亡寸前だと聞く。貴様こそが『偽り』であり、貴様が捨てた女性こそが『真実の力』を持っていたのだ。その報いを、身をもって知るがいい」

 リシアンは、ガゼル王の圧倒的な威圧と、フィーアの揺るぎない幸福を前に、怒りと屈辱で身体を震わせた。彼女の心の声は、(なぜこの娘が、私よりも幸福なのだ!全て嘘だ!)という、醜い嫉妬で満ちていた。

 フィーアは、ガゼル王の鉄壁の庇護の中で、もはや人間国の裏切りに傷つくことはなかった。彼女の心は、「あなたたちを救う義務は、私にはない」という、冷たい決意で満たされていた。

あなたにおすすめの小説

継母の嫌がらせで冷酷な辺境伯の元に嫁がされましたが、噂と違って優しい彼から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるアーティアは、継母に冷酷無慈悲と噂されるフレイグ・メーカム辺境伯の元に嫁ぐように言い渡された。 継母は、アーティアが苦しい生活を送ると思い、そんな辺境伯の元に嫁がせることに決めたようだ。 しかし、そんな彼女の意図とは裏腹にアーティアは楽しい毎日を送っていた。辺境伯のフレイグは、噂のような人物ではなかったのである。 彼は、多少無口で不愛想な所はあるが優しい人物だった。そんな彼とアーティアは不思議と気が合い、やがてお互いに惹かれるようになっていく。 2022/03/04 改題しました。(旧題:不器用な辺境伯の不器用な愛し方 ~継母の嫌がらせで冷酷無慈悲な辺境伯の元に嫁がされましたが、溺愛されています~)

お城を抜け出したそばかす王女、ユニコーンと妖精と森番と気ままな旅で王国を取り戻す

タマ マコト
ファンタジー
そばかすを理由に社交界で笑われ続けてきた第三王女リリアーナは、実はシャンデリア、音楽、ドレスも好き。 舞踏会で婚約候補の公爵令息から「王家の恥」と侮辱され、衝動的に城を飛び出す。逃げ込んだ禁忌の森で、白銀のユニコーン・フィオと出会った彼女は、自分のそばかすが古代精霊の祝福の証であり、森を癒やす最強級の魔法を秘めていることを知る。妖精のミミルや森番の青年ノアと共に自由な旅へ出たリリアーナだったが、その裏では王国を蝕む“黒の魔脈”の異変が静かに広がり始めていた。

白い結婚のはずでしたが、冷血男爵様に溺愛されています

エスビ
恋愛
 侯爵令嬢クレスタ・エルバンシュは、長年婚約していた王太子アレクシオンから突然婚約破棄を告げられる。 「僕は、本当に愛する人と結ばれたい」  王太子が選んだのは、平民の少女ミーナ。  王都では二人の恋が“身分を越えた真実の愛”としてもてはやされ、クレスタは“捨てられた令嬢”として好奇の目にさらされることになった。  そんな彼女に舞い込んだのは、冷血男爵と噂されるジークフリート・アルグレインとの縁談だった。  愛のない白い結婚。  互いに干渉しないだけの、形だけの夫婦。  そう思って嫁いだクレスタだったが、待っていたのは冷遇ではなく、不器用で静かな優しさだった。  ジークフリートは無口で表情も硬い。けれど、彼は誰よりもクレスタを気遣い、傷ついた心を少しずつ癒やしていく。  一方、王太子とミーナの“真実の愛”には、少しずつ綻びが見え始める。  美談で飾られた恋の裏で、不透明な金の流れと、クレスタを貶めようとする疑惑が動き出していた。  けれど、彼女はもう泣き寝入りしない。  過去に積み重ねた記録と帳簿が、偽りの美談を静かに暴いていく。  これは、王太子に捨てられた侯爵令嬢が、冷血と呼ばれる男爵の優しさに救われ、白い結婚を本当の愛へ変えていく物語。  そして、“真実の愛”を言い訳にした王太子が、自らの矛盾で崩れていく物語。

魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

追放された悪役令嬢、辺境で植物魔法に目覚める。銀狼領主の溺愛と精霊の加護で幸せスローライフ!〜真の聖女は私でした〜

黒崎隼人
恋愛
「王国の害悪」として婚約破棄され、魔物が棲む最果ての地『魔狼の森』へ追放された悪役令嬢リリア。 しかし、彼女には前世の記憶と、ゲーム知識、そして植物を癒やし育てる不思議な力があった! 不毛の地をハーブ園に変え、精霊と友達になり、スローライフを満喫しようとするリリア。 そんな彼女を待っていたのは、冷徹と噂される銀狼の獣人領主・カイルとの出会いだった。 「お前は、俺の宝だ」 寡黙なカイルの不器用な優しさと、とろけるような溺愛に包まれて、リリアは本当の幸せを見つけていく。 一方、リリアを追放した王子と偽聖女には、破滅の足音が迫っていて……? 植物魔法で辺境を開拓し、獣人領主に愛される、大逆転ハッピーエンドストーリー!

銀狼の花嫁~動物の言葉がわかる獣医ですが、追放先の森で銀狼さんを介抱したら森の聖女と呼ばれるようになりました~

川上とむ
恋愛
森に囲まれた村で獣医として働くコルネリアは動物の言葉がわかる一方、その能力を気味悪がられていた。 そんなある日、コルネリアは村の習わしによって森の主である銀狼の花嫁に選ばれてしまう。 それは村からの追放を意味しており、彼女は絶望する。 村に助けてくれる者はおらず、銀狼の元へと送り込まれてしまう。 ところが出会った銀狼は怪我をしており、それを見たコルネリアは彼の傷の手当をする。 すると銀狼は彼女に一目惚れしたらしく、その場で結婚を申し込んでくる。 村に戻ることもできないコルネリアはそれを承諾。晴れて本当の銀狼の花嫁となる。 そのまま森で暮らすことになった彼女だが、動物と会話ができるという能力を活かし、第二の人生を謳歌していく。

【完結】経費削減でリストラされた社畜聖女は、隣国でスローライフを送る〜隣国で祈ったら国王に溺愛され幸せを掴んだ上に国自体が明るくなりました〜

よどら文鳥
恋愛
「聖女イデアよ、もう祈らなくとも良くなった」  ブラークメリル王国の新米国王ロブリーは、節約と経費削減に力を入れる国王である。  どこの国でも、聖女が作る結界の加護によって危険なモンスターから国を守ってきた。  国として大事な機能も経費削減のために不要だと決断したのである。  そのとばっちりを受けたのが聖女イデア。  国のために、毎日限界まで聖なる力を放出してきた。  本来は何人もの聖女がひとつの国の結界を作るのに、たった一人で国全体を守っていたほどだ。  しかも、食事だけで生きていくのが精一杯なくらい少ない給料で。  だがその生活もロブリーの政策のためにリストラされ、社畜生活は解放される。  と、思っていたら、今度はイデア自身が他国から高値で取引されていたことを知り、渋々その国へ御者アメリと共に移動する。  目的のホワイトラブリー王国へ到着し、クラフト国王に聖女だと話すが、意図が通じず戸惑いを隠せないイデアとアメリ。  しかし、実はそもそもの取引が……。  幸いにも、ホワイトラブリー王国での生活が認められ、イデアはこの国で聖なる力を発揮していく。  今までの過労が嘘だったかのように、楽しく無理なく力を発揮できていて仕事に誇りを持ち始めるイデア。  しかも、周りにも聖なる力の影響は凄まじかったようで、ホワイトラブリー王国は激的な変化が起こる。  一方、聖女のいなくなったブラークメリル王国では、結界もなくなった上、無茶苦茶な経費削減政策が次々と起こって……? ※政策などに関してはご都合主義な部分があります。

「異常」と言われて追放された最強聖女、隣国で超チートな癒しの力で溺愛される〜前世は過労死した介護士、今度は幸せになります〜

赤紫
恋愛
 私、リリアナは前世で介護士として過労死した後、異世界で最強の癒しの力を持つ聖女に転生しました。でも完璧すぎる治療魔法を「異常」と恐れられ、婚約者の王太子から「君の力は危険だ」と婚約破棄されて魔獣の森に追放されてしまいます。  絶望の中で瀕死の隣国王子を救ったところ、「君は最高だ!」と初めて私の力を称賛してくれました。新天地では「真の聖女」と呼ばれ、前世の介護経験も活かして疫病を根絶!魔獣との共存も実現して、国民の皆さんから「ありがとう!」の声をたくさんいただきました。  そんな時、私を捨てた元の国で災いが起こり、「戻ってきて」と懇願されたけれど——「私を捨てた国には用はありません」。  今度こそ私は、私を理解してくれる人たちと本当の幸せを掴みます!