役立たずと追放された令嬢ですが、極寒の森で【伝説の聖獣】になつかれました〜モフモフの獣人姿になった聖獣に、毎日甘く愛されています〜

腐ったバナナ

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1話

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 その日、侯爵家では庭園のバラが満開だったが、私の心は凍えきっていた。

「アリア。君には本当に失望したよ。この家には、もはや魔力を持たぬ者をおいておく余裕はない」

 婚約者であるレイモンド様は、そう言って私から目を背けた。彼の隣には、私の異母姉ロザリアが、勝利に満ちた笑みを浮かべて寄り添っている。

「ごめんなさいね、アリア。でも、これも全部、伯爵家の財政のためなのよ。魔力のないあなたより、優秀なロザリア姉様の方が、レイモンド様のお隣にふさわしいでしょう?」

 継母のイザベラ夫人が、優雅な扇子で口元を隠しながら、冷たく言い放った。

 私はアリア・ド・ブレイズ。治癒魔法の才能があるはずの伯爵令嬢だったが、発現した魔力は微弱すぎて役に立たないとされ、長年、家族から冷遇されてきた。

「辺境伯領の森林小屋へ向かいなさい。あそこなら、食費も魔力の消費もなく生活できる。ただし、二度とこの家に顔を見せてはならない」

 私の居場所は、魔獣が棲む極寒の森の小屋。それは事実上の追放だった。

 私はレイモンド様を見た。彼は私の唯一の味方だと信じていた。私を庇護し、この理不尽な状況から救い出してくれると、心の底から期待していたのだ。

「レイモンド様…」

 しかし、私の視線を受け止めた彼の瞳には、以前私に注がれた甘い愛情の代わりに、安堵と無関心の色が浮かんでいた。

「仕方ないだろう、アリア。君の魔力では、騎士団の慰問すらできない。私の未来を考えれば、これは最善の選択だ」

 彼はそう言い放つと、私の手から婚約の証である指輪を無感情に抜き取り、それをロザリアの指にはめた。

「ロザリア。君こそが、私にふさわしい伴侶だ」

 その瞬間、私の心の中で何かが音を立てて砕け散った。

(私は、捨てられた。家族にも、愛した人にも、無価値なものとして切り捨てられたんだ)

 裏切りの痛みよりも、深い絶望と諦めが私を支配した。私には、彼らにすがったり、怒鳴りつけたりする気力すら残っていなかった。

 その日の午後、私は一人の護衛も連れず、粗末な荷物だけを携えて馬車に乗せられた。行き先は、魔獣の森の奥深くだ。

 馬車の中で、私は冷え切った自分の手をただ見つめていた。

(私は無力だ。魔力がないから。だから、私を庇護してくれる存在を、もう二度と信じない)

 数時間後、馬車はガタガタと揺れながら、誰も住んでいない極寒の森の小屋の前で止まった。

「ここで降りろ。あとは自己責任だ」

 馬車の馭者はそう言い放つと、私を放り出し、すぐに馬車をUターンさせた。

 辺境の森は、王都とは比べ物にならないほど冷たい空気に満ちていた。空はすでに夕暮れの色に染まり、遠くから獣の鳴き声が聞こえる。

 私は追いやられた小屋の中に入る。古い木の床に、かび臭い毛布が一枚。暖炉には火がなく、薪もない。

(明日、私はここで凍え死ぬのだろうか)

 絶望の淵に立たされた私だったが、ふと、腰に提げた小さな袋に触れた。中には、私が密かに集めていた薬草の種と、乾燥させた薬草が入っている。

「魔力はなくても、私にはこれがある」

 私は震える手で、薬草の袋を握りしめた。それが、私に残された最後の希望だった。

 その夜、アリアはただ寒さと恐怖に耐えることしかできなかった。
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