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19話
夜会の会場は、静まり返っていた。 大階段の頂上、レオンハルト様の逞しい腕に抱かれるようにして現れたリリアナの姿は、まさに降臨した女神そのものだったからだ。
「……あれが、狼族が捨てたという『欠陥品』か?」
「馬鹿な、あれほどの神気を放つ御方が……。狼族は何という愚かな真似を」
貴族たちの驚愕と感嘆が混じった囁きが広がる中、レオンハルト様は傲然と、私の腰を引き寄せた。
「我が妃、リリアナだ。彼女を侮辱する者は、この私が一族ごと根絶やしにする。心に刻んでおけ」
その宣言が響き渡った、次の瞬間だった。
「リリアナァァァッ!!」
会場のステンドグラスを叩き割り、黒い影が乱入してきた。 それは、もはや人の言葉を話す獣に成り果てたアドルフだった。「獣堕ち」の禁忌により、銀色の毛並みはどす黒く変色し、その瞳には狂気だけが宿っている。
「お前は俺のものだ! 俺の脚が、魔力が、こんなになったのは全部お前のせいだ! 返せ! 俺の力を返せ!」
アドルフが鋭い爪を立て、私に向かって跳躍する。会場に悲鳴が響き渡る。 けれど、私は一歩も動かなかった。怖くはなかった。私の前には、世界で最も強固な盾があるから。
「……身の程をわきまえぬ羽虫が。私の至宝に触れようなどと」
レオンハルト様が、私を抱いていない方の手を、軽く一振りした。 ただそれだけで、空気を切り裂くほどの衝撃波が走り、跳躍していたアドルフは床に叩きつけられた。
「ぎ、がああああっ!?」
床にめり込んだアドルフの背中を、レオンハルト様は軍靴で冷酷に踏みつけた。
「アドルフ、貴様は一つ勘違いをしている。リリアナが貴様から力を奪ったのではない。貴様が、彼女という奇跡を自ら捨てたのだ」
「離せ……離せっ! リリアナ、お前からも言ってくれ! 俺たちは結婚するはずだったんだろ!?」
泥水を啜るようなアドルフの叫びに、私は静かに視線を落とした。
「アドルフ様。私はあの日、吹雪の中で死んだのです。私を殺したのは、貴方です」
「……聞いたか。リリアナの中には、貴様の記憶など欠片も残っていない」
レオンハルト様の黄金の瞳が、殺意で燃え上がる。
「貴様には、死よりも残酷な終わりを与えてやろう。……貴様からすべての魔力を剥奪し、この城の地下深く、日光も届かぬ場所で、リリアナが幸せになる声だけを永遠に聞かせてやる。一生、後悔の闇の中で腐り果てろ」
「やめろ……! 殺せ! 殺してくれええ!」
アドルフの絶望的な叫びは、レオンハルト様が放った影の魔術によって飲み込まれていった。 彼を引きずり出す衛兵たちの足音が消えた後、会場には再び静寂が訪れた。
レオンハルト様は、まるで何事もなかったかのように私の頬を撫で、蕩けるような甘い声で囁いた。
「汚いものを見せたな、リリアナ。……さあ、ダンスの続きだ。世界中に見せつけてやろう。貴殿がどれほど私に愛され、溺れているかを」
私は、彼の胸に顔を埋めた。 かつて自分を虐げた男の末路に、同情する心はもう一滴も残っていなかった。 ただ、私を抱きしめるこの熱い腕があれば、それだけで良かった。
「……あれが、狼族が捨てたという『欠陥品』か?」
「馬鹿な、あれほどの神気を放つ御方が……。狼族は何という愚かな真似を」
貴族たちの驚愕と感嘆が混じった囁きが広がる中、レオンハルト様は傲然と、私の腰を引き寄せた。
「我が妃、リリアナだ。彼女を侮辱する者は、この私が一族ごと根絶やしにする。心に刻んでおけ」
その宣言が響き渡った、次の瞬間だった。
「リリアナァァァッ!!」
会場のステンドグラスを叩き割り、黒い影が乱入してきた。 それは、もはや人の言葉を話す獣に成り果てたアドルフだった。「獣堕ち」の禁忌により、銀色の毛並みはどす黒く変色し、その瞳には狂気だけが宿っている。
「お前は俺のものだ! 俺の脚が、魔力が、こんなになったのは全部お前のせいだ! 返せ! 俺の力を返せ!」
アドルフが鋭い爪を立て、私に向かって跳躍する。会場に悲鳴が響き渡る。 けれど、私は一歩も動かなかった。怖くはなかった。私の前には、世界で最も強固な盾があるから。
「……身の程をわきまえぬ羽虫が。私の至宝に触れようなどと」
レオンハルト様が、私を抱いていない方の手を、軽く一振りした。 ただそれだけで、空気を切り裂くほどの衝撃波が走り、跳躍していたアドルフは床に叩きつけられた。
「ぎ、がああああっ!?」
床にめり込んだアドルフの背中を、レオンハルト様は軍靴で冷酷に踏みつけた。
「アドルフ、貴様は一つ勘違いをしている。リリアナが貴様から力を奪ったのではない。貴様が、彼女という奇跡を自ら捨てたのだ」
「離せ……離せっ! リリアナ、お前からも言ってくれ! 俺たちは結婚するはずだったんだろ!?」
泥水を啜るようなアドルフの叫びに、私は静かに視線を落とした。
「アドルフ様。私はあの日、吹雪の中で死んだのです。私を殺したのは、貴方です」
「……聞いたか。リリアナの中には、貴様の記憶など欠片も残っていない」
レオンハルト様の黄金の瞳が、殺意で燃え上がる。
「貴様には、死よりも残酷な終わりを与えてやろう。……貴様からすべての魔力を剥奪し、この城の地下深く、日光も届かぬ場所で、リリアナが幸せになる声だけを永遠に聞かせてやる。一生、後悔の闇の中で腐り果てろ」
「やめろ……! 殺せ! 殺してくれええ!」
アドルフの絶望的な叫びは、レオンハルト様が放った影の魔術によって飲み込まれていった。 彼を引きずり出す衛兵たちの足音が消えた後、会場には再び静寂が訪れた。
レオンハルト様は、まるで何事もなかったかのように私の頬を撫で、蕩けるような甘い声で囁いた。
「汚いものを見せたな、リリアナ。……さあ、ダンスの続きだ。世界中に見せつけてやろう。貴殿がどれほど私に愛され、溺れているかを」
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