魔力なしの欠陥品として婚約破棄された狼族の令嬢ですが、実は伝説の白獅子の番でした。

腐ったバナナ

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22話

「……母様の、ブローチ……」

 狼族からの手紙を見つめるリリアナの瞳が、微かに揺れました。 母は、里で唯一リリアナを庇ってくれた人。その形見が呪われ、失われようとしているという知らせは、優しすぎるリリアナの心を揺さぶるには十分でした。

 しかし、その手首に繋がれた金の鎖が、チャリリ……と冷たい音を立てます。

「リリアナ。その手紙を信じるのか?」

 背後から伸びてきたレオンハルト様の腕が、リリアナを椅子ごと包み込みました。彼の声は穏やかですが、その瞳には獲物を切り裂く寸前の猛獣のような鋭さが宿っています。

「いえ……。罠だとは、分かっています。でも、もし本当に母様の形見が壊されようとしているのなら……」

「ならば、私が取り返してこよう。君がその足を汚してまで、あの腐った里へ戻る必要はない」

 レオンハルト様はリリアナの手から手紙を奪い取ると、掌の中で黒い炎を上げ、一瞬で灰に変えました。

「ハルトヴィヒ。……狼族の使者にはこう伝えろ。『王妃は母の遺品を惜しんでいる。直接手渡したいのであれば、国境の結界境界まで持参せよ。その際、王妃も同伴する』とな」

「……! レオンハルト様、私を外へ……?」

 リリアナが驚いて顔を上げると、レオンハルト様はその額に深く接吻しました。

「ああ。だが、君を奴らの汚い目に晒すつもりはない。君は私の影の中に隠し、結界の内側から奴らが自滅する様を見せてやるのだ」

 レオンハルト様の計画は、冷酷を極めていました。 狼族が「リリアナを誘い出した」と確信し、猛虎族の工作員と共に姿を現した瞬間、その希望ごと彼らを圧殺するつもりなのです。

 数日後。国境の荒野。 そこには、再起を賭けたシルヴェスタ伯爵と、猛虎族の暗殺者たちが潜んでいました。

「……来たぞ。白獅子の馬車だ!」

 馬車の扉が開き、レオンハルト様が降り立ちます。その傍らには、深いベールに包まれた小柄な女性の姿がありました。

「リリアナ! よく戻ってきてくれた!」

 伯爵が狂喜して駆け寄ろうとしたその瞬間。 ベールが風に舞い、露わになったのは——精巧に作られた「泥のゴーレム」でした。

「な……っ!? リリアナは、どこだ!?」

「ここだ、愚か者共」

 レオンハルト様の影が、生き物のように広がり、地面を侵食していきます。 その巨大な影の中から、レオンハルト様の腕に抱かれ、椅子に座ったままのリリアナが、静かに姿を現しました。

 彼女は結界の「内側」におり、物理的には決して触れることのできない神聖な領域から、自分を捨てた者たちを見下ろしていました。

「リリアナ! 頼む、その神気を少しだけでも分けてくれ! 里が、里が死んでしまうんだ!」

「……お父様。私は、もう貴方たちの道具ではありません」

 リリアナの冷ややかな言葉と共に、レオンハルト様が指を鳴らしました。 それを合図に、潜んでいた猛虎族の工作員たちが、影から現れた白獅子の精鋭たちに次々と取り押さえられていきます。

「貴様らが私の番に向けたその卑しい殺意……。一滴の血、一本の髪さえ、貴様らには渡さない。この場所を、貴様ら狼族の最後の墓場にしてやろう」

 レオンハルト様の魔力が爆発し、国境の空が真黒な雷雲に覆われました。

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