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第18話 聖女、星空の屋上で“恋”を知る
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夜の風が、静かに髪を撫でていた。
聖堂の屋上――
そこは、王都の灯りと星の海が同時に見える特等席。
「……ここ、やっぱり落ち着くなぁ。」
「お気に入りの場所になってしまいましたね。」
隣にいるユウヒが、やわらかく笑う。
肩が少し触れるくらいの距離。
ふたりの影が、月明かりに並んで落ちていた。
◇ ◇ ◇
「誕生日、楽しかった?」
「はい。聖女さまのおかげで、最高の一日でした。」
「そっか。よかった。」
風がふわりと吹く。
彼の髪が揺れて、ハーブの匂いが微かに香った。
(あ、私の枕の香りだ……)
思わず口元が緩む。
「どうかしました?」
「ううん、なんでもない。」
(ほんとはね。
あなたの枕の香りを、私も嗅いでみたくなったなんて言えないよ……)
◇ ◇ ◇
夜空を見上げると、
無数の星が瞬いていた。
「ねえ、ユウヒくん。」
「はい?」
「君はさ、願いごとってある?」
「……願い、ですか。」
彼は少し考えて、空を見つめた。
「聖女さまが、ずっと笑っていてくれますように。」
「……またそれ?」
「はい。何度でも願います。」
「ほんと、君ってそういうとこずるい。」
「ずるい、ですか?」
「うん。言われたら、ドキドキ止まらなくなるんだもん。」
ユウヒの目が見開かれる。
その瞳に、星の光が映っていた。
◇ ◇ ◇
「……聖女さま。」
「ん?」
「もし……」
言いかけて、彼は少し俯いた。
夜風が吹き抜け、沈黙がやさしく包み込む。
「もし、僕が“ただの人間”だったとしても……
あなたのそばにいていいですか?」
その問いに、胸がきゅっと締めつけられた。
「そんなの、当たり前じゃん。」
「……っ」
「私、聖女とか神官とか、そういう肩書きで君を見たことないよ。」
「君が君だから、好きなんだよ。」
一瞬、風の音が止まった。
自分でも驚いた。
“好き”なんて言葉が、こんなに自然に出るなんて。
◇ ◇ ◇
ユウヒは、しばらく何も言わなかった。
けれど次の瞬間、ゆっくりと顔を上げ――
微笑んだ。
「……ありがとうございます。」
「そんな顔しないで。泣くよ?」
「泣いてません。」
「うそ。涙出てる。」
「……風のせいです。」
「はいはい、強がり男子~。」
ふたりで笑った。
その笑い声が、夜空の星たちに吸い込まれていく。
◇ ◇ ◇
「……聖女さま。」
「なに?」
「その……さっきの“好き”って。」
「うん?」
「……どんな“好き”ですか?」
真由は少しだけ黙って、
夜空を見上げた。
「……よくわかんないけどね。」
「はい。」
「見てると落ち着くし、声を聞くと安心するし、
いなくなると不安になるの。」
「それって、たぶん“恋”ってやつじゃない?」
ユウヒの瞳が、星よりもやさしく光った。
「……僕も、同じです。」
彼の言葉に、胸が震えた。
◇ ◇ ◇
星の光が、ふたりの間に落ちる。
その距離は、もう言葉一つで埋まるほど近い。
けれど、今日はまだ――触れない。
ただ、そばにいる。
同じ空を見上げながら、
“恋”という言葉を初めて知った夜。
◇ ◇ ◇
「……ねえ、ユウヒくん。」
「はい。」
「今夜、星きれいだね。」
「ええ。まるで、あなたの心みたいに。」
「はい、減点。」
「えぇっ!?」
「でも……ありがと。」
二人で見上げた夜空に、流れ星がひとすじ。
願いごとは、もう必要なかった。
次回予告
第19話 「聖女、“おやすみのキス”は額から」
――お楽しみに!
聖堂の屋上――
そこは、王都の灯りと星の海が同時に見える特等席。
「……ここ、やっぱり落ち着くなぁ。」
「お気に入りの場所になってしまいましたね。」
隣にいるユウヒが、やわらかく笑う。
肩が少し触れるくらいの距離。
ふたりの影が、月明かりに並んで落ちていた。
◇ ◇ ◇
「誕生日、楽しかった?」
「はい。聖女さまのおかげで、最高の一日でした。」
「そっか。よかった。」
風がふわりと吹く。
彼の髪が揺れて、ハーブの匂いが微かに香った。
(あ、私の枕の香りだ……)
思わず口元が緩む。
「どうかしました?」
「ううん、なんでもない。」
(ほんとはね。
あなたの枕の香りを、私も嗅いでみたくなったなんて言えないよ……)
◇ ◇ ◇
夜空を見上げると、
無数の星が瞬いていた。
「ねえ、ユウヒくん。」
「はい?」
「君はさ、願いごとってある?」
「……願い、ですか。」
彼は少し考えて、空を見つめた。
「聖女さまが、ずっと笑っていてくれますように。」
「……またそれ?」
「はい。何度でも願います。」
「ほんと、君ってそういうとこずるい。」
「ずるい、ですか?」
「うん。言われたら、ドキドキ止まらなくなるんだもん。」
ユウヒの目が見開かれる。
その瞳に、星の光が映っていた。
◇ ◇ ◇
「……聖女さま。」
「ん?」
「もし……」
言いかけて、彼は少し俯いた。
夜風が吹き抜け、沈黙がやさしく包み込む。
「もし、僕が“ただの人間”だったとしても……
あなたのそばにいていいですか?」
その問いに、胸がきゅっと締めつけられた。
「そんなの、当たり前じゃん。」
「……っ」
「私、聖女とか神官とか、そういう肩書きで君を見たことないよ。」
「君が君だから、好きなんだよ。」
一瞬、風の音が止まった。
自分でも驚いた。
“好き”なんて言葉が、こんなに自然に出るなんて。
◇ ◇ ◇
ユウヒは、しばらく何も言わなかった。
けれど次の瞬間、ゆっくりと顔を上げ――
微笑んだ。
「……ありがとうございます。」
「そんな顔しないで。泣くよ?」
「泣いてません。」
「うそ。涙出てる。」
「……風のせいです。」
「はいはい、強がり男子~。」
ふたりで笑った。
その笑い声が、夜空の星たちに吸い込まれていく。
◇ ◇ ◇
「……聖女さま。」
「なに?」
「その……さっきの“好き”って。」
「うん?」
「……どんな“好き”ですか?」
真由は少しだけ黙って、
夜空を見上げた。
「……よくわかんないけどね。」
「はい。」
「見てると落ち着くし、声を聞くと安心するし、
いなくなると不安になるの。」
「それって、たぶん“恋”ってやつじゃない?」
ユウヒの瞳が、星よりもやさしく光った。
「……僕も、同じです。」
彼の言葉に、胸が震えた。
◇ ◇ ◇
星の光が、ふたりの間に落ちる。
その距離は、もう言葉一つで埋まるほど近い。
けれど、今日はまだ――触れない。
ただ、そばにいる。
同じ空を見上げながら、
“恋”という言葉を初めて知った夜。
◇ ◇ ◇
「……ねえ、ユウヒくん。」
「はい。」
「今夜、星きれいだね。」
「ええ。まるで、あなたの心みたいに。」
「はい、減点。」
「えぇっ!?」
「でも……ありがと。」
二人で見上げた夜空に、流れ星がひとすじ。
願いごとは、もう必要なかった。
次回予告
第19話 「聖女、“おやすみのキス”は額から」
――お楽しみに!
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