【完結】聖女さまは今日もベッドの中~転生したぐうたらOL、子犬系見習い神官に甘やかされる~

空錠 総二郎

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第19話 聖女、“おやすみのキス”は額から

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夜。

聖堂の灯りが消え、
部屋の中には、蝋燭の小さな光がゆらめいていた。

窓から差し込む月の光が、
ベッドのシーツを銀色に照らしている。

「……なんか、眠れないな。」

今日の夜は静かすぎる。
それなのに、心臓の音だけがうるさい。

(あれから、ずっと……ユウヒくんの顔が頭から離れない。)
(あの“好き”って言葉、どう聞こえてたんだろう。)

布団の中でごろごろと転がっていると――

コン、コン。

扉を叩く小さな音。

「……聖女さま、まだお休みでないですか?」

(やば。呼び出したみたいになってる。)

「入っていいよ。」

扉の向こうから、
見慣れた白い神官服と、いつもの真っ直ぐな瞳が現れた。

「眠れなくて……少しだけ、お顔を見に。」
「顔を見にって、どういう動機それ。」
「……顔を見ると安心するので。」
「うわ、言葉の爆弾落とされた……!」

思わず枕に顔を埋めた。
(やめてよ、そんな素直な顔で言わないで……!)

◇ ◇ ◇

ユウヒは蝋燭のそばに腰を下ろし、
優しく問いかけた。

「具合でも悪いですか?」
「ううん。ちょっと考え事してた。」
「何を、ですか?」
「……恋って、どういうものなのかなって。」

その言葉に、ユウヒの動きが止まった。
蝋燭の炎が小さく揺れる。

「……僕も、それを考えていました。」

静かな声。
でも、どこか震えていた。

◇ ◇ ◇

「ねえ、ユウヒくん。」
「はい。」
「君にとっての“好き”って、どんなの?」
「……。」

少しの沈黙のあと、彼はゆっくりと答えた。

「誰かの幸せを願って、自分がそれを見て笑えるとき。
 その笑顔を守りたいと思うとき。
 ――それが、僕の“好き”です。」

「……そっか。」

(ああ、ずるいな。
 そんなこと言われたら、もう逃げられないじゃない。)

胸がじんわり熱くなって、
息をするたびにドキドキが広がっていく。

◇ ◇ ◇

「……もう夜も遅いので、そろそろ休んでください。」
「うん。」

ユウヒは立ち上がり、
ベッドの脇にそっと手を置いた。

「では……おやすみなさい、聖女さま。」
「……ねえ。」

呼び止めると、彼が小さく振り返る。

「“聖女さま”じゃなくて、“真由”って呼んで。」
「……っ。」

月明かりの中で、
彼の頬がほんのり赤く染まる。

「……おやすみなさい、真由さん。」

名前を呼ばれた瞬間、
胸が爆発しそうに跳ねた。

「うん……おやすみ、ユウヒくん。」

◇ ◇ ◇

そして――。

彼は迷ったように一歩、近づいた。
手が伸びて、私の髪をそっと払う。
そして、静かに額に――唇が触れた。

「……!」

柔らかくて、あたたかくて、
一瞬で世界が止まった。

「それは……?」
「“おやすみの祈り”です。
 でも……僕の気持ちも、少しだけ、こもってます。」

言葉が出なかった。
喉の奥がきゅっと詰まって、
ただ頬が熱くなる。

「……ずるい。」
「え?」
「君、ほんとにずるいよ。」

でも、嫌じゃない。
むしろ――この夜が終わってほしくなかった。

◇ ◇ ◇

ユウヒが微笑む。
「……では、もう一度。おやすみなさい。」
「うん。」

彼が扉を閉めて出ていくまで、
私はずっと、額に触れた感触を確かめていた。

――こんなに温かい“おやすみ”は、
人生で初めてだった。

次回予告

第20話 「聖女、夢の中で“運命の声”を聞く」
――お楽しみに!
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