【完結】聖女さまは今日もベッドの中~転生したぐうたらOL、子犬系見習い神官に甘やかされる~

空錠 総二郎

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第21話 聖女、祭壇の前で“未来”を誓う

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昼下がりの聖堂は、
いつもより少し静かだった。

礼拝の鐘の余韻が消え、
光が高い窓から差し込み、
白い床に金色の模様を描く。

私は、祭壇の前に立っていた。

「……ふぅ。」

目を閉じて深呼吸。
胸の奥でまだ、昨夜の“声”が響いている。

――〈いずれ選ばねばならぬ〉
――〈彼がその鍵となろう〉

あれが夢でも幻でもなく、
何か大きな意味を持っている気がしてならなかった。

◇ ◇ ◇

「真由さん。」

背後から呼ぶ声。
振り向けば、ユウヒがいた。
神官服の白が、いつもよりまぶしい。

「祈りの時間、ですか?」
「うん。ちょっと……自分を落ち着けたくて。」
「何かありましたか?」

少し迷って、私は首を振る。
「ううん。ただ……私ね、ちゃんと決めたの。」
「決めた?」

「これからは、“守られる聖女”じゃなくて、
 “誰かを守る聖女”になろうって。」

ユウヒが目を見開いた。
そして、ゆっくりと微笑む。

「……それは、とても素敵なことです。」
「君が、いつも私を守ってくれたからだよ。
 その優しさを、今度は返したいの。」

「返す必要はありません。僕は……」

「ううん。あるの。」

私は一歩近づいた。
祭壇の光がふたりの間に降り注ぐ。

「だって、君が泣いたとき、
 私、ちゃんと抱きしめたでしょ?」
「……はい。」
「次に泣くのが私でも、君はきっと抱きしめてくれる。
 だからね、これでおあいこ。」

ユウヒが少し息をのんだ。

その瞳の奥に、
何か熱いものが宿っていくのが見えた。

◇ ◇ ◇

「……では、誓いましょうか。」

「え?」

「この祭壇の前で。
 あなたが誰かを守ると誓うのなら、
 僕もまた、あなたのそばで祈り続けると誓います。」

「……そんなの、ずるいよ。」

「ずるい、ですか?」
「だって、それ……プロポーズみたいじゃん。」

ユウヒの顔が、一瞬で真っ赤になる。

「そ、そんなつもりでは!」
「うそ。ちょっとは思ったでしょ?」
「……思いました。」

ふたりで笑い合う。
それだけで、胸の奥が温かくなる。

◇ ◇ ◇

ユウヒがそっと手を差し出した。
私は、その手を取る。
祭壇の光がふたりの指を包んだ。

「誓います。
 あなたが歩む道がどんなに険しくても、
 僕はあなたの隣で祈り続けます。」

「……ありがとう。
 じゃあ私も、誓うね。」

私は笑って、まっすぐ見つめ返した。

「どんな世界でも、
 君がそばにいるなら、私は笑っていられる。
 それが私の“安らぎの聖女”としての誓い。」

二人の手のあいだで、
光が柔らかく弾けた。

(……あ、神様、聞いてる?
 私、たぶん今、人生で一番まじめなこと言ってるよ。)

◇ ◇ ◇

沈黙。
けれど、その沈黙は心地よかった。

やがてユウヒが、小さく囁いた。

「……未来が、少し楽しみになりました。」
「うん。私も。」

ふたりの影が、並んで祭壇に落ちる。
それはまるで――祈りのような形をしていた。

◇ ◇ ◇

夜。

ベッドの上で天井を見つめながら、
私は小さく笑った。

「ねえ神様。
 “守る聖女”って、たぶんこういうことだよね。」

窓の外の星が、静かに瞬いた。
その光が、まるで祝福のように見えた。

次回予告

第22話 「聖女、他国の神官に“誘惑”される!?」
――お楽しみに!
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