【完結】聖女さまは今日もベッドの中~転生したぐうたらOL、子犬系見習い神官に甘やかされる~

空錠 総二郎

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第28話 聖女、神託の地で“真実”を知る

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セレスの大地は、
白い霧に包まれていた。

どこまでも静かで、音がない。
足を踏みしめるたび、土が淡く光る。

「……ここが、“神託の地”。」

私は小さく息を吐いた。
冷たい風が頬を撫で、
その向こうに巨大な石造りの神殿が見えた。

扉には、古代語の紋章。
“安らぎの名において、命を鎮めよ”――。

(なんか、嫌な予感しかしないんだけど。)

◇ ◇ ◇

中へ入ると、
青白い光があたりを満たした。
壁一面に浮かぶ“過去の聖女たち”の姿。

みんな穏やかに笑っていた。
けれど、その笑顔の奥に、
かすかな“諦め”が見えた気がした。

――〈ようこそ、安らぎの聖女よ〉

また、あの声。
空気が震え、光が形を取る。
現れたのは、半透明の人影――神の化身。

「……あなたが、神様?」

――〈我はこの世界を見守るもの。そなたを選んだもの〉

「どうして、私を選んだの?」

――〈“眠る心”を持つ者だから〉

「眠る心……?」

――〈そなたは何も望まず、何も争わず、
 ただ静かに在ることを愛した。
 “安らぎ”とは、欲を持たぬ心。
 ゆえに、この世界を癒やす器となりうる〉

「……でも、それだけじゃ足りないでしょ?」

光がゆらめいた。

「人を癒やすには、痛みを知ってなきゃ。
 私、もう知っちゃったんだよ。
 “好きな人を失うかもしれない”痛みを。」

――〈それゆえに、力は完成に近づいた〉

「え……?」

――〈安らぎとは、無ではない。愛の果てにある静けさだ〉
――〈そなたの“愛”が、世界を眠らせる〉

「……それって、どういう――」

光が強くなり、床に紋様が浮かぶ。

――〈そなたが“完全なる安らぎ”を放つ時、
 この地上の苦痛も、悲しみも、すべて止まる〉

「止まる……って、まさか……」

――〈そう。命も、時も、愛も〉

「――世界が、眠る……?」

神の沈黙が、答えだった。

◇ ◇ ◇

(世界を癒やすって、そういう意味……?)
(“眠らせる”って、つまり……終わらせるってこと?)

足が震えた。
膝が勝手に折れて、
冷たい床に手をつく。

「そんなの、いやだよ……」

――〈安らぎとは、永遠の眠り〉

「違う! 私の“安らぎ”は、ユウヒくんと一緒に生きてる時間なんだ!」

叫んだ声が、神殿の壁に反響する。
光が少し揺れ、かすかに濁った。

――〈そなたの愛は強い。ゆえにこそ、苦しみを呼ぶ〉
――〈愛する者を選ぶなら、聖女の力は失われる〉

「……いいよ。それで。」

――〈なに?〉

「もう“聖女”じゃなくていい。
 “世界”を救えなくても、私には“ひとり”救いたい人がいる。」

光が大きく明滅した。
まるで怒りか、戸惑いか――。

――〈人の愛など、一瞬の夢〉
「夢でもいい。だって、夢の中こそ私の世界なんだから。」

その瞬間、神殿の床が割れた。
光が弾け、風が渦を巻く。

――〈選択の時だ、聖女よ〉

体が浮かび、視界が白に染まる。
全ての音が遠ざかっていく中で、
私はただ、あの名前を叫んだ。

「――ユウヒ!!」

◇ ◇ ◇

気がつくと、
私は神殿の外にいた。

夜空。
冷たい雨。

手のひらには、淡く光る聖印。
そして、耳の奥に残る声。

――〈愛は、試練を呼ぶ。されど、愛する者こそ、真の安らぎを得る〉

それは、神の声ではなく――
どこか、優しく笑う“人の声”に聞こえた。

「……ユウヒくん。待ってて。
 私は、“世界”じゃなくて――君を救う。」

風が頬を撫でた。
その向こうに、夜明けの気配があった。

次回予告

第29話 「聖女、帰還――“彼の祈り”が届く時」
――お楽しみに!
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