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第31話 聖女、街へおでかけ――“恋人ごっこ”はじめます
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「ねえ、ユウヒくん。外出しよう。」
朝の光の中で、真由がそう言った。
まるで突然、“世界を変える”みたいなテンションで。
「……外出?」
「うん。街に行こう。聖女もたまには社会科見学。」
「せ、聖女さまが外へ!?」
「だって、引きこもってたら筋肉が溶ける。」
ユウヒは一瞬、言葉を失い、
次の瞬間、慌ててスケジュール帳を開いた。
「えっと……祭祀の準備が……あ、午後なら……」
「よし、決定!」
にっこり笑う真由。
完全にペースを握られていた。
(彼女に“行こう”って言われたら、断れる人類いるのかな……)
◇ ◇ ◇
王都の街は、今日もにぎやかだった。
露店の甘い匂い、子どもたちの笑い声。
真由はまるで修学旅行生のように、きょろきょろと見回していた。
「うわぁ~、人がいっぱい……! いいなぁ、こういう空気!」
「街をこうして歩くの、久しぶりですね。
こうやって“二人で”歩くのは、たぶん初めてです。」
「……そうだね。聖女モードじゃなくて、今日はただの私。」
その言葉に、ユウヒは小さく頷いた。
「では……今日は、真由さんとして。」
「うん、じゃあ君も“神官見習い”じゃなくて――」
真由がいたずらっぽく笑って、
指で顎に触れた。
「“恋人”ってことで、どう?」
「……え。」
ユウヒの脳がフリーズした。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「なに? ただの“ごっこ”だよ?」
「“ごっこ”で、そんな危険な単語を軽々しく!」
「危険? かわいいの間違いでしょ?」
「~~~~っ!」
顔を真っ赤にして固まるユウヒ。
(かわいい。ほんとにこの人、反応が純すぎる。)
◇ ◇ ◇
そのまま街を歩きながら、真由は腕を組んだ。
「こ、こ、これは……!?」
「恋人ごっこなんだから、自然にして。」
「自然って……こういうものなんですか!?」
「うん。あとで手もつなぐよ。」
「まだ進化するんですか!?」
周囲の店主たちが、微笑ましそうに二人を見ている。
パン屋のおばさんがひそひそと話していた。
「あの神官さん、とうとう彼女できたのねぇ」
「見習い卒業かしら~」
(やばい、街の噂速度、Wi-Fiより速い。)
◇ ◇ ◇
「ねえユウヒくん。」
「……はい。」
「今、私たちが恋人同士に見えてると思う?」
「そ、そうですね。多分、見えてます。
あのパン屋の方もニヤニヤしてましたし。」
「ふふっ。……なんか、楽しいね。」
そう言って笑う真由の横顔を見て、
ユウヒは胸が熱くなるのを感じた。
(ごっこ、なのに。
こんなに幸せで、こんなに心が落ち着くのは……どうしてだろう。)
◇ ◇ ◇
夕暮れ。
市場の広場で、風鈴が鳴っていた。
真由が足を止めて、ひとつ手に取る。
「きれい……。音が、涼しいね。」
「夏の終わりの音です。」
「じゃあ、これ買おう。君の部屋の窓につけてあげる。」
「え、僕の……!?」
「うん。“恋人ごっこ”の記念に。」
「……それは、“ごっこ”じゃなくなってしまいます。」
ユウヒがぽつりと呟く。
真由は一瞬きょとんとして――
そして、ふわっと笑った。
「……じゃあ、“ごっこ”やめようか。」
沈黙。
でも、その沈黙にはもう戸惑いはなかった。
風鈴が鳴った。
音が、心の奥に響いた。
◇ ◇ ◇
帰り道。
二人は手をつないで歩いた。
自然に、当たり前のように。
「……今日、楽しかったね。」
「はい。……生涯で一番、です。」
「大げさだなぁ。」
「本気です。」
真由は少し照れながら、彼の手をぎゅっと握った。
「じゃあ、また行こうね。“恋人ごっこ”の続き。」
「はい。」
でも――その時には、
もう“ごっこ”ではなくなることを、
ふたりとも分かっていた。
次回予告
第32話 「聖女、神殿に“風鈴の音”を――恋の証」
――お楽しみに!
朝の光の中で、真由がそう言った。
まるで突然、“世界を変える”みたいなテンションで。
「……外出?」
「うん。街に行こう。聖女もたまには社会科見学。」
「せ、聖女さまが外へ!?」
「だって、引きこもってたら筋肉が溶ける。」
ユウヒは一瞬、言葉を失い、
次の瞬間、慌ててスケジュール帳を開いた。
「えっと……祭祀の準備が……あ、午後なら……」
「よし、決定!」
にっこり笑う真由。
完全にペースを握られていた。
(彼女に“行こう”って言われたら、断れる人類いるのかな……)
◇ ◇ ◇
王都の街は、今日もにぎやかだった。
露店の甘い匂い、子どもたちの笑い声。
真由はまるで修学旅行生のように、きょろきょろと見回していた。
「うわぁ~、人がいっぱい……! いいなぁ、こういう空気!」
「街をこうして歩くの、久しぶりですね。
こうやって“二人で”歩くのは、たぶん初めてです。」
「……そうだね。聖女モードじゃなくて、今日はただの私。」
その言葉に、ユウヒは小さく頷いた。
「では……今日は、真由さんとして。」
「うん、じゃあ君も“神官見習い”じゃなくて――」
真由がいたずらっぽく笑って、
指で顎に触れた。
「“恋人”ってことで、どう?」
「……え。」
ユウヒの脳がフリーズした。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「なに? ただの“ごっこ”だよ?」
「“ごっこ”で、そんな危険な単語を軽々しく!」
「危険? かわいいの間違いでしょ?」
「~~~~っ!」
顔を真っ赤にして固まるユウヒ。
(かわいい。ほんとにこの人、反応が純すぎる。)
◇ ◇ ◇
そのまま街を歩きながら、真由は腕を組んだ。
「こ、こ、これは……!?」
「恋人ごっこなんだから、自然にして。」
「自然って……こういうものなんですか!?」
「うん。あとで手もつなぐよ。」
「まだ進化するんですか!?」
周囲の店主たちが、微笑ましそうに二人を見ている。
パン屋のおばさんがひそひそと話していた。
「あの神官さん、とうとう彼女できたのねぇ」
「見習い卒業かしら~」
(やばい、街の噂速度、Wi-Fiより速い。)
◇ ◇ ◇
「ねえユウヒくん。」
「……はい。」
「今、私たちが恋人同士に見えてると思う?」
「そ、そうですね。多分、見えてます。
あのパン屋の方もニヤニヤしてましたし。」
「ふふっ。……なんか、楽しいね。」
そう言って笑う真由の横顔を見て、
ユウヒは胸が熱くなるのを感じた。
(ごっこ、なのに。
こんなに幸せで、こんなに心が落ち着くのは……どうしてだろう。)
◇ ◇ ◇
夕暮れ。
市場の広場で、風鈴が鳴っていた。
真由が足を止めて、ひとつ手に取る。
「きれい……。音が、涼しいね。」
「夏の終わりの音です。」
「じゃあ、これ買おう。君の部屋の窓につけてあげる。」
「え、僕の……!?」
「うん。“恋人ごっこ”の記念に。」
「……それは、“ごっこ”じゃなくなってしまいます。」
ユウヒがぽつりと呟く。
真由は一瞬きょとんとして――
そして、ふわっと笑った。
「……じゃあ、“ごっこ”やめようか。」
沈黙。
でも、その沈黙にはもう戸惑いはなかった。
風鈴が鳴った。
音が、心の奥に響いた。
◇ ◇ ◇
帰り道。
二人は手をつないで歩いた。
自然に、当たり前のように。
「……今日、楽しかったね。」
「はい。……生涯で一番、です。」
「大げさだなぁ。」
「本気です。」
真由は少し照れながら、彼の手をぎゅっと握った。
「じゃあ、また行こうね。“恋人ごっこ”の続き。」
「はい。」
でも――その時には、
もう“ごっこ”ではなくなることを、
ふたりとも分かっていた。
次回予告
第32話 「聖女、神殿に“風鈴の音”を――恋の証」
――お楽しみに!
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