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インターハイ前夜(確信に変わる)
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「お腹すいたぁ~」
彩里が声を弾ませてホテルの食堂に駆け込んでいく。
バイキング形式の広いテーブルには、地域の特産品や、インターハイ参加校向けに用意されたちょっと洒落た料理が並んでいた。明るく清潔な照明の下、色とりどりの料理が湯気を立てる。
「これすごい」
蓮が目を丸くしたのは、透明なライスペーパーに赤や黄色の野菜を詰め、蓮の花のように巻かれた生春巻き。
「蓮の花モチーフだって。演出細かいな」
詩弦が無表情のままトングを伸ばしかけた、その瞬間だった。
「それ、もらいっ♪」
彩里がひょいっとトングを横から差し込んで、生春巻きをすくい上げた。振り返って、にんまりと詩弦を見る。
「……なに勝手に」
「ん?ラスト1個だったから、早いもん勝ち~」
詩弦の眉がぴくりと動いたが、すぐに顔をそらして別の皿へとトングを向けた。
そのやりとりを、後方から見ていた5人組。テーブルの奥で盛りつけ中、明らかに笑いをこらえている。
「見た?今の」
「見た見た」
「いやこれもうさすがに黒だろ」
「逆にあれで黒じゃない方がおかしい」
「明日の夜は告白案件」
なにやらひそひそと策略を練っていたところに、
「なに話してんの~?」
彩里がひょこっと現れた。
5人は一瞬目を見合わせたあと、「いやいや、こっちのメニューどれ取るかって~」「からあげが1個1個でかくねーって話してた」と強引に話をそらした。
彩里は「ふ~ん?」と不思議に思いつつも、そのまま自分の皿にサラダを盛り始めた。
蓮はというと、席につきながらもまだどこか周囲を気にしている様子。
詩弦と彩里が、隣合わせの席でわちゃわちゃと箸を動かしていた。
「ちょっと、それ私のだろ」
詩弦が彩里の皿の生春巻きを、まるで報復とばかりにすっと箸で取り自分の口に入れた。
「えっ!?なに勝手にっ!?」
彩里が箸を握りしめたまま、詩弦の顎に手をかけ開けさせようと試みる。
「返せ返せ、口開けろ!もぐもぐすんな!」
「むっ!?意味わかんない、やめろっ」
二人のそんなやりとりに、周囲の部員たちは盛大に吹き出す。
「やっぱ両想いだって、間違いないって」
さきが確信を込めて小声で言う。隣にいた蓮が、その言葉にぴくっと眉を動かした。
「両想い?」
「うん、もう見てりゃわかるよ。あの距離感はもうカップルでしょ」
と笑顔で返されると、蓮は「ああ、確かに~」と短く返し、再び自分の皿に視線を落とした。
カリフラワーのピクルス、取りすぎたな。
ドレッシングかけすぎたな。
スプーンの音が、なぜかやけに大きく響いた。
誰にも気づかれないように、箸を動かしながら、蓮はただ、笑顔を崩さずに食事を続けた。
彩里が声を弾ませてホテルの食堂に駆け込んでいく。
バイキング形式の広いテーブルには、地域の特産品や、インターハイ参加校向けに用意されたちょっと洒落た料理が並んでいた。明るく清潔な照明の下、色とりどりの料理が湯気を立てる。
「これすごい」
蓮が目を丸くしたのは、透明なライスペーパーに赤や黄色の野菜を詰め、蓮の花のように巻かれた生春巻き。
「蓮の花モチーフだって。演出細かいな」
詩弦が無表情のままトングを伸ばしかけた、その瞬間だった。
「それ、もらいっ♪」
彩里がひょいっとトングを横から差し込んで、生春巻きをすくい上げた。振り返って、にんまりと詩弦を見る。
「……なに勝手に」
「ん?ラスト1個だったから、早いもん勝ち~」
詩弦の眉がぴくりと動いたが、すぐに顔をそらして別の皿へとトングを向けた。
そのやりとりを、後方から見ていた5人組。テーブルの奥で盛りつけ中、明らかに笑いをこらえている。
「見た?今の」
「見た見た」
「いやこれもうさすがに黒だろ」
「逆にあれで黒じゃない方がおかしい」
「明日の夜は告白案件」
なにやらひそひそと策略を練っていたところに、
「なに話してんの~?」
彩里がひょこっと現れた。
5人は一瞬目を見合わせたあと、「いやいや、こっちのメニューどれ取るかって~」「からあげが1個1個でかくねーって話してた」と強引に話をそらした。
彩里は「ふ~ん?」と不思議に思いつつも、そのまま自分の皿にサラダを盛り始めた。
蓮はというと、席につきながらもまだどこか周囲を気にしている様子。
詩弦と彩里が、隣合わせの席でわちゃわちゃと箸を動かしていた。
「ちょっと、それ私のだろ」
詩弦が彩里の皿の生春巻きを、まるで報復とばかりにすっと箸で取り自分の口に入れた。
「えっ!?なに勝手にっ!?」
彩里が箸を握りしめたまま、詩弦の顎に手をかけ開けさせようと試みる。
「返せ返せ、口開けろ!もぐもぐすんな!」
「むっ!?意味わかんない、やめろっ」
二人のそんなやりとりに、周囲の部員たちは盛大に吹き出す。
「やっぱ両想いだって、間違いないって」
さきが確信を込めて小声で言う。隣にいた蓮が、その言葉にぴくっと眉を動かした。
「両想い?」
「うん、もう見てりゃわかるよ。あの距離感はもうカップルでしょ」
と笑顔で返されると、蓮は「ああ、確かに~」と短く返し、再び自分の皿に視線を落とした。
カリフラワーのピクルス、取りすぎたな。
ドレッシングかけすぎたな。
スプーンの音が、なぜかやけに大きく響いた。
誰にも気づかれないように、箸を動かしながら、蓮はただ、笑顔を崩さずに食事を続けた。
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