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後章
エピローグ
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人波が少しずつ途切れ、屋台の明かりも消えはじめた校門前。
蓮とひいなは、互いに手を取り、肩を寄せ合いながら歩いていた。
まだ互いの温もりが残る抱擁の余韻に、胸がいっぱいで言葉が少ない。
一方、校舎裏から駅へ向かっていた彩里と詩弦。
手はまだぎこちなくつながれたまま、それでも離したくはなかった。
――角を曲がった瞬間、二組はばったりと出会った。
「「「「あっ」」」」
一瞬の沈黙。
だがすぐに、4人とも顔を見合わせて、自然と笑みがこぼれる。
「どうやらうまくいったようで」
彩里はにやっと笑って二人に言った。
「ふふふ。そっちこそ幸せそうで何よりですよ」
ひいなが楽しそうに応じる。
ふと、蓮は詩弦と目が合った。
「おめでとうございます、詩弦先輩」
「うん、ありがとう」
後輩の真っ直ぐな祝福の言葉に、詩弦は照れ臭そうに笑った。
「あれー?詩弦先輩照れてます?」
「いやっ、こんなこと言われたら照れるだろ!」
ひいなの言葉をするりと肯定した詩弦に、3人が驚いた表情を見合わせた。
いつもならへそを曲げて否定する癖に、こんな素直さは初めてだった。
「詩弦先輩が、素直…」
ぼそっと溢した蓮の言葉に、彩里とひいなは同時に噴出した。
「ちょ、笑うなって彩里!」
「あはははは!!」
詩弦は赤面した顔で、隣で笑う恋人の手をぎゅっと握り返した。
「ちょ、痛い痛い痛い!強い強い強い!」
「うるさい!あやまればーか!」
「はぁー?ばかじゃないしー!照れてる詩弦がかわいいせいだぞ!」
「うるさい!ばーかばーか!」
「バカって言った方がバカなんですぅー!!」
いつもの調子になってじゃれ合う二人の先輩を、蓮は楽しそうに見守った。
四人の間にあった複雑な想いは、この瞬間、不思議なほど澄んだ夜空に溶けていく。
誰かが勝ったとか負けたとか、そんなものではなく、ただ大切な人と結ばれた喜びだけがそこにあった。
静かな夜道を、二組の恋人たちは並んで歩く。
遠くでまだ小さく響く花火の音が、まるで彼女たちを祝福するように夜空を彩っていた。
そして最寄り駅の灯りへ向かう道すがら、四人の笑い声は夏の夜風に優しく溶けていった。
――なんか最終回って感じだ。
ふと、蓮の頭に浮かんだ。先ほどの花火が嘘だったかのように静寂を放つ夜空を仰ぐ。
あの時感じた大きな始まりは、間違いじゃなかった。
そして、今日にいたるまでいくつもの出来事が繰り広げれれてきた。いいこともよくないことも。
まだ名前も知らなかったあのとき抱いていた気持ちは、今こんなにはっきりとしている。
そしてそれは、ここにいる全員がだ。
詩弦先輩、彩里先輩、そして、ひいな。
4人それぞれの想いが何度もぶつかって、混ざって、今日までを形作ってきたんだ。
「ありがとう、みんな」
声に出たかすらわからないほど小さなそれは、3人の耳に入らず夜の闇に溶け込んだ。
だけど、闇の色にも負けない、二組の淡い色が、ただ、淡色に揺れていた。
蓮とひいなは、互いに手を取り、肩を寄せ合いながら歩いていた。
まだ互いの温もりが残る抱擁の余韻に、胸がいっぱいで言葉が少ない。
一方、校舎裏から駅へ向かっていた彩里と詩弦。
手はまだぎこちなくつながれたまま、それでも離したくはなかった。
――角を曲がった瞬間、二組はばったりと出会った。
「「「「あっ」」」」
一瞬の沈黙。
だがすぐに、4人とも顔を見合わせて、自然と笑みがこぼれる。
「どうやらうまくいったようで」
彩里はにやっと笑って二人に言った。
「ふふふ。そっちこそ幸せそうで何よりですよ」
ひいなが楽しそうに応じる。
ふと、蓮は詩弦と目が合った。
「おめでとうございます、詩弦先輩」
「うん、ありがとう」
後輩の真っ直ぐな祝福の言葉に、詩弦は照れ臭そうに笑った。
「あれー?詩弦先輩照れてます?」
「いやっ、こんなこと言われたら照れるだろ!」
ひいなの言葉をするりと肯定した詩弦に、3人が驚いた表情を見合わせた。
いつもならへそを曲げて否定する癖に、こんな素直さは初めてだった。
「詩弦先輩が、素直…」
ぼそっと溢した蓮の言葉に、彩里とひいなは同時に噴出した。
「ちょ、笑うなって彩里!」
「あはははは!!」
詩弦は赤面した顔で、隣で笑う恋人の手をぎゅっと握り返した。
「ちょ、痛い痛い痛い!強い強い強い!」
「うるさい!あやまればーか!」
「はぁー?ばかじゃないしー!照れてる詩弦がかわいいせいだぞ!」
「うるさい!ばーかばーか!」
「バカって言った方がバカなんですぅー!!」
いつもの調子になってじゃれ合う二人の先輩を、蓮は楽しそうに見守った。
四人の間にあった複雑な想いは、この瞬間、不思議なほど澄んだ夜空に溶けていく。
誰かが勝ったとか負けたとか、そんなものではなく、ただ大切な人と結ばれた喜びだけがそこにあった。
静かな夜道を、二組の恋人たちは並んで歩く。
遠くでまだ小さく響く花火の音が、まるで彼女たちを祝福するように夜空を彩っていた。
そして最寄り駅の灯りへ向かう道すがら、四人の笑い声は夏の夜風に優しく溶けていった。
――なんか最終回って感じだ。
ふと、蓮の頭に浮かんだ。先ほどの花火が嘘だったかのように静寂を放つ夜空を仰ぐ。
あの時感じた大きな始まりは、間違いじゃなかった。
そして、今日にいたるまでいくつもの出来事が繰り広げれれてきた。いいこともよくないことも。
まだ名前も知らなかったあのとき抱いていた気持ちは、今こんなにはっきりとしている。
そしてそれは、ここにいる全員がだ。
詩弦先輩、彩里先輩、そして、ひいな。
4人それぞれの想いが何度もぶつかって、混ざって、今日までを形作ってきたんだ。
「ありがとう、みんな」
声に出たかすらわからないほど小さなそれは、3人の耳に入らず夜の闇に溶け込んだ。
だけど、闇の色にも負けない、二組の淡い色が、ただ、淡色に揺れていた。
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