淡色に揺れる

かなめ

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後章

学園祭当日(淡色に揺れる)

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学園祭当日。
校内は模擬店の呼び込みや音楽で大賑わい。

詩弦とあかりが肩を並べて歩いているだけで、周囲の生徒たちは目を丸くした。

「えっ、ちょっと待って、あの二人一緒にいるんだけど!」

「犬猿の仲じゃなかったの!?嘘でしょ!?」

「ついに成立したかあのカップル!一生推す!!」

野次馬たちの声に、詩弦の頬がぱっと赤く染まる。

「ち、違うから!」

いつものきつい声色で言い返すものの、照れ隠しはバレバレ。

すると彩里がすっと詩弦の腰を引き寄せた。

「ほらほら、道ふさがれてるから。通してあげてくださーい」

ムードメーカーらしい軽快な声で場を和ませつつ、詩弦を守るように立つ。

「ちょ、なにすんだよ!」

「顔真っ赤。かわいい」

「かわいくない!」

そのやりとりを聞いていた周囲からひやかしの嵐。
詩弦はますます真っ赤になり、反論すればするほど火に油を注ぐ、のいたちごっこだ。


一方その頃、蓮とひいなは焼きそばやチョコバナナを両手に持ち、楽しげに模擬店を回っていた。

「先輩、あーん」

「え、ここで? ……もぐっ、んっ、おいしい!」

「ふふ、やっぱりかわいいですねぇ」

ひいなが自然に絡めてくる腕や、弾けるような笑顔。
蓮は最初こそ周囲を気にして戸惑ったものの、やがて照れながらも楽しそうに応じる。

「なんか、こういうの、楽しい」

「でしょ? じゃあ次はりんご飴ですよ、先輩!」

二人の仲睦まじい様子を、遠巻きに見ていた周りの生徒たちはざわめく。

「お、こっちにもかわいいカップル発見!」

「ひいなちゃんの押し強すぎない? でも似合ってるな~」

それぞれに冷やかされ、注目され、そしてちょっとだけ世界から浮き上がるようなひととき。

二組の紅白は、それぞれがそれぞれらしく幸せにまみれていた。

文化祭の午後は、そんな4色を見守りながら、ゆっくりと進んでいった。

そして、日が沈んで辺りがすっかり暗くなった頃。
校庭から少し離れた河川敷に広がる人の波。

これから、毎年文化祭の夜恒例の花火大会が始まる。

時間になり、暗闇のキャンバスに鮮やかな花火たちが咲き乱れた。

花火の光に照らされた蓮の横顔を、ひいなは息をのんで見つめていた。
無邪気に「きれいだなあ」と笑うその姿を見て、胸の奥に積み上げてきた想いがあふれ出す。

「蓮先輩」

呼びかけた声が、花火の音にかき消されそうになる。
それでもひいなは一歩近づき、真っ直ぐに蓮を見つめた。

「私、先輩のことが好きです」

花火が一瞬途切れ、夜にその言葉が響いた。
蓮の目が大きく見開かれ、頬が赤く染まる。
そして、ゆっくりと向き合うと笑顔を浮かべた。

「私も。ひいなのこと好き、大好き」

その瞬間、胸の奥にずっとあった迷いが溶けていった。
ひいなはこらえきれずに蓮を抱きしめ、蓮も小さな体で力いっぱい応える。

二人の世界を包むように、次々と咲き誇る花火。
夏の夜空に光の花が散るたびに、二人の鼓動も重なって響いた。


同時刻。少し人の少ない校舎裏の丘。
並んで夜空を見上げていた二人の間に、心臓の音だけがやけに大きく聞こえていた。

「詩弦」

彩里が口を開く。
花火の音が途切れた一瞬を狙って、真っ直ぐに言葉を乗せた。

「好きだよ」

しかし、詩弦はちらりと横を向き「花火の音で聞こえなかった」と涼しい顔で言った。

「あーもう!」

仕方なくもう一度言おうとしたその瞬間、夜空に次々と花火が打ち上がる。

「詩弦!私はあんたのことが――」

すると、言い終わるより早く、詩弦がすっと顔を近づける。
そして、花火の閃光に照らされながら、詩弦は彩里に唇を重ねた。

唇が離れたとき、詩弦は耳まで真っ赤にしながら、短く言った。

「私も。そういうこと」

「え?聞こえてたの?」

「もう、ムードぶち終わすなって。せっかくいい雰囲気にしたのに」

なれないことするんじゃないなと、詩弦は小さく思った。
せっかくかっこつけたのに茶化されて、たまらず詩弦は赤い顔を背ける。

「ごめんごめん、ほら、こっち向いて」

「うるさい、花火見る」

「いいから、ほーら」

拗ねた子どもをなだめるように、彩里は優しく詩弦の顎に手を添え向い合せる。

「ちょ、彩里ってば――んっ」

すかさず、彩里は詩弦の唇にキスを落とした。
詩弦は、ゆっくりと目を閉じ、そして彩里を抱き寄せて応えた。

好きだよ、詩弦。

そんな二言を伝えるように、彩里は詩弦とキスを交わし続けた。

花火の轟音が夜を揺らす。
たとえどんな音にかき消されても、言葉なんてなくても。
互いの想いは、はっきりと通じ合っていた。

紅白の色がまじりあって淡い桃色になるように、それぞれの思いが花火の夜空の下、淡色に揺れた。
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