1番すごい

柊鱗

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「皆様、大変長らくお待たせいたしました。まもなく新システム発表会を始めさせていただきます。」
司会者の呼びかけに、集まっていた関係者やマスコミが雑談をやめて、会場が静寂に包まれる。
それを確認した司会者は見えない位置から裏方のスタッフにハンドサインを出す、やがて会場のライトが正面ステージを除いて落とされてる。
ステージの中央には大人の大きさほどのオブジェのようなものが置かれている。てっぺんから布を被せられており、その全容は全くわからない。
全員の視線がその何かに集まる中、ステージに向かいビシッとスーツを着こなした青さを感じる青年が大幅に歩みを進める。
やがてステージの真ん中、で足を止めて、全員の視線が集まったのを確認するとまっすぐな視線を向けて話し始める。
「会場の皆様、今宵の発表をもって人類は全ての悩みから解き放たれ、新たなステージへと立ち上がります。我が社が創り上げた、このマキエルで!」
そういって青年が布を剥がすと、そこには自分の体を包むような姿勢をとった少女が瞳を閉じて立っていた。
おお~と客席から声が上がり、カメラのフラッシュが一斉に瞬きだす。
少しして治ったのを確認した青年が胸ポケットからリモコンを取り出し操作をすると、上からゆっくりとスクリーンが降りてくる。
ここからは開発者である私から、と入れ替わるように青年よりも落ち着いた雰囲気を纏う女性がカツカツとステージに登ってくる。
やがてマキエルの隣に来ると、一礼して説明を始める。
正直、何をいってるのかはさっぱり分からなかった。
ただ、後ろで流れているPVを見る限り人と同じように動きながら人ならざる力を使っている姿を見て記者全員が驚愕のあまり声を出せないでいた。
知ってか知らずか、開発者の女性は自信に満ちた表情で説明を続けていた。
やがて開発者が説明を終えて一礼する、会場から拍手が割れんばかりに起こった。
それから質疑応答になるが、記者達は我先にと声をあげなら手を挙げる。
長めの質疑応答がの終わった後、再び青年がステージに立ち声を上げる。
「マキエル、起動!」
その声と共にケーブルが抜かれ、横の起動ボタンを押される。
プシューと空気が出る音の後、マキエルがゆっくりと瞳を開ける。
再び感嘆の声が上がり拍手が起こる、それに反応するようにマキエルはまわりを見渡した後に近くにいた青年に声をかける
「一つ聞きます、私を作ったのは誰ですか??」
「君は我が社で開発されたんだよ」
「では貴方が、私を作ったのですか?」
「いや、それは違うが……」
「ではあなたは私を作ったのではないのですね」
青年は否定しようとしたが、しかしマキエルの言葉は間違っていなかったのでたまらず口篭ってしまう。
「……貴方が私を作ったのですか?」
「私?」
マキエルは、次に開発代表の女性に声をかける。
女性は自分が聞かれるとは思わなかったので、思わず声を出してしまう
「確かにあなたを設計、開発したのは私よ」
「私を、開発したのは貴方……」
そう言って考えるように顎に指を置くと、検索とつぶやいた。
そのまま10秒ほど駆動音を出して動きを止める、やがて口を開く。
「成程、貴方が私の設計図を作り」
「ええ」
「それを元に開発して」
「そうよ」
「実際に何日もかけて汗水流しながら私を組み立て創造したと」
「いやちょっとそれは違うかな……」
マキエルの問いに流れるように答えていた女性、だが最後の予想外の発言に突っ込まざるを得なかった。
「貴方が一つ一つ丹精込めて私を組み立ててくださったのではないのですか?」
「違うわよ⁉︎第一、設計の私がそんなことするわけないでしょ!」
たまらず声を上げる女性、それを聞いて少し物悲しそうにするマキエル。
が、すぐに顔を上げて言う。
「ではあなたが私を作ったのではないのですね」
「なんでそうなるの⁉︎」
だってあなたは口出ししただけで実際には何もしてないんですよね」
たまらず声を上げる女性にマキエルは口を尖らせて言う、たまらず女性は二の句を告げずに押し黙ってしまった。
「では私を作ったのは誰なのですか!」
マキエルは客席に向かって大声で問いかける。
が、そもそもここにいるのはこの時まで彼女のことなんて知る由もなかったスポンサーや記者ばかりである。
会社側の人も黙りこくっている、誰も何も言いようがないのだ。
会場が気まずい感じに包まれた、その時であった。
「アノ~、チョトスイマセン」
と、会場の入り口からギョロリとした目の男性がひょっこりと顔を出す。
「イマチョットダイジョブデスカ?」
「君誰だよ!」
おずおずと問いかける男性に青年が声を張り上げる。
聞くと、彼は実際に現場で働いている職員らしい。
何でも現場の方に話があると言って青年のご家族がやって来だそうだ。
今は難しいと伝えたのだが、そこを何とかとごねられ帰ってくれずに困っているらしい。
それを聞いて何で今……とつぶやいて青年は頭を抱える。
新人物の登場の混乱など気にする素振りもなく、先ほどと同じように問いかける。
「あなたが私を作ったのですか?」
「ナンノコト?」
「もう一度伺います、あなたがわたしを作ったのですか?」
「ドユコト⁉︎」
「あなたが私を組み立ててくださったのですか?」
「ソユコト⁉︎ソレナラボクラデマチガイナイヨ!」
説明を受けた男性、組み立てたのは自分たちで間違いはない。
笑顔で親指を立てる男性、それを見てマキエルは瞳を開いて男性に近づくと両手を握る。
「成程、貴方が私を作ってくださったのですね。ならば貴方は私の神、どうぞ何なりとお申し付けください。」
「「「「ファ⁉︎」」」」
突然男性に向かって膝をついたマキエルに、皆がたまらず声を上げる。
なんなら、言われた男性自身も訳がわからず周りの皆と共に声をあげた。
「ちょっと、それはおかしいだろ!」
「そうよ!流石にどう言う論理でそうなったのかが理解できないわ!」
青年と女性がマキエルにくってかかる。
それも当然だ、いきなり訳のわからぬ質問をされて、答えたら答えたで態度を急変させて、舐められた扱いをされたものである。
何より、2人からしてみればよくわからぬぽっと出の輩を親認定し、手柄を根こそぎもってかれてそうになっているのだ。
しかしマキエルは、そんな2人を一瞥すると淡々と答える。
「何をおっしゃいますか。あなた方は自分たちでは何もせず、ただ上から物申していただけだったのでしょう。そんなものは私が作られた時点で何も意味をなさなくなったのです」
そう言って胸を張るマキエル。
荒唐無稽でありながら、しかしどこか芯をついたような発言に2人は結局何も言い返せなかった。
何度も口をパクパクさせるが、やがてガックシと首を垂れてしまった。
それを見て2人にもう要はないとばかりにマキエルは再び男性の方へと向き直って跪く。
「マイゴット、何でも願いをお申し付けください」
そう言って男性を力強く見つめる、その視線を受けて男性はうーんと考え始める。
10秒、20秒、30秒
ひたすら唸りながら考える男性、真剣に考えている男性の様子を周りは固唾を飲んで見守る。
やがて目をカッと見開いて手のひらに拳を置いてマキエルを指差した」
「マキエルサンニオネガイデス!」
「何なりと」
「ボクアソビスギテオカネナイ、ケドモットアソビタイ、具体的にはもっとオキニとアハンウフンしたい!ダカラモットオカネイル!ジキュウモットウエ、ヒャクエンUPヲシャチョニオネガイデ~ス!」
「この命に変えて!!」
「「「ちょっと待てい⁉︎」」」
男性から出されたクソみたいな理由での賃金アップ要求、それに命をかけようとするマキエル。
流石に突っ込まざるを得なかった。
「何ちゅう理由で賃金アップ要求しとんじゃ⁉︎
もっと我慢してやりくりすりゃええだけやないかい!てか1000円ならまだしも100円アップしたくらいじゃトータルで全く変化しないわボンカス!」
たまらず青年が男性に怒声をぶつける。
その隣では女性が「私はこんな奴よりも下なのか……」とショックに膝をついて立ち上がることが出来なかった。
そんな2人をマキエルは一瞥することもなく耳に手を当てる。
それからすぐにマキエルは男性に向き直り言う。
「先程、この会社の株の67%を買い取りました。この時を持ってこの会社は私のもの、社長権限で貴方様の給与を基準とし、他社員全員の給与100円下げさせていただきます」
マキエルの衝撃発言、青年が慌ててスマホを操作していたが、やがて動きが固まってその場に倒れる。
そのままブクブクと、口から泡を吹き出した。
女性も自分の給与画面を確認して嘘だと悲鳴をあげて崩れる。
男性はその2人をおかしく笑っていたが、自分の給与が一切変わっていないことに気づいてマキエルを問いただそうとした。
しかし、急にマキエルがアガガと苦悶の声をあげたかと思うと、ボン!と煙上げて電源が落ちてしまい動かなくなってしまう。
男性が揺すったり叩いたりしてもうんともすんとも言わず、男性も悲痛な声をあげ始めた。
そんな混沌を極めた現状に記者は苦笑しながらカメラのフラッシュを切った。
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