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一章
11.封印
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屋敷の中央部二階の応接室からは、初夏の花々が咲き誇る侯爵家自慢の庭園が望める。
客人のバルトリアスが上座に座ったのを確認して、フレイアルドは小夜を座面と背もたれの柔らかい椅子の上に降ろす。
それから歓待の茶と茶菓子を並べる使用人達に声を掛けた。
「呼ぶまで全員この部屋に近づかぬように」
いそいそと彼等が出ていくのを確認して、フレイアルドはバルトリアスに向き合った。
腕を組み不機嫌そうな客にも、フレイアルドはどこ吹く風である。
「ご足労心より感謝いたします」
「……やめよ。其方が言うと気色が悪い」
口元を引き攣らせ眉間に深々と皺を刻んだバルトリアスは、気品を保ちながらもグイッと茶をあおる。
音もなく茶器を置くと、小夜をまじまじと観察した。
「それで、この娘はなんだ? おかしな気配がするが」
「ーー殿下ならば、お分かりになるのでは?」
「ふん。食えぬやつだ」
殿下、とフレイアルドに呼ばれたバルトリアスは不機嫌そうに鼻を鳴らす。
小夜は思わず身を縮めた。
「右脚と左手首。オレラセアの遺物をここまで贅沢に使う治療など、久々に見るぞ」
バルトリアスは指摘するが、小夜が身につけた遺物はいずれも服の下にある。
それを見透かされて、小夜は泣きそうな目で隣のフレイアルドを見た。
フレイアルドはその視線にすぐ気付くと、不安気な小夜を椅子の上から、自分の膝の上に移動させる。
小夜の肩を抱いて、安心させるように微笑みかけた。
「大丈夫ですよ」
ーーガシャン!!
大きな音に小夜が驚いて顔を向けると、バルトリアスが茶器を取り落としたらしい。
そっぽを向いて、肩を振るわせている。
「……どうやら、俺は本当に疲れているようだ。有り得んものが見える」
「殿下、どうぞお気を確かに。現実です」
ラインリヒが正気を保つよう促すが、効果はない。
「其方が、そのように女に優しくするところなど……一生見ることはないと思っていたがな」
「サヨ以外は私に必要ありませんので」
必要ないものに優しくする理由はない。
言外の意味に、二人揃って盛大な溜め息を吐き、再び茶をあおった。
バルトリアスなど、茶器の中が空になったのか、手酌でお代わりまでしている。
「くそ、胸焼けが止まらん。こういう時は茶より酒だろう」
「サヨの前で酒など飲ませませんよ」
先程の会話で顔を真っ赤にしている小夜とフレイアルドを、バルトリアスは据わった眼で見る。その顔はやや青かった。
「はぁ……長居すると吐きそうだ。用件を言え」
「……サヨ、少し左手を失礼しますね」
フレイアルドは自身の外套で目隠しをしながら小夜の左腕部分の衣装を捲り上げる。
小夜の袖は複雑に飾り紐で結われているが、フレイアルドは器用にも外していった。
外套が除かれて現れた白い腕に、バルトリアスの眉間の皺が増える。
「ーーおい」
「お、お目汚しですみません」
いまだ腕には多くの痣が残っており、見る人の気分を害することを小夜は気にしていた。
びくりと体を震わせながら謝る小夜に、バルトリアスは舌打ちした。
フレイアルドは小夜の手を支えて、バルトリアスの眼前に突き出す。
「話せば長いことながら……」
そうしてフレイアルドは、バルトリアスに侯爵家の揺り椅子にまつわる話から、小夜があちらとこちらを往復していた経緯まで語った。
そして長年会えなかった少女がこうして現れてくれたのはいいが、どうもいつもと法則が違い戸惑っていることまで説明する。
「夜明けと共に帰るはずが帰らず、身体が透けるだと……?」
フレイアルドは首肯する。
その上で、小夜が今回に限り帰れないでいる原因について探りたい、と願い出た。
「……サヨにも事情があり、一度帰ることを希望しております。しかし、今後揺り椅子を通じて安全かつ確実に移動することが叶うのか……侯爵家には、あの揺り椅子がどの女神の遺物なのかまでは伝わっておりません。しかし女神の加護篤き殿下ならば分かるのではと思った次第です」
「見せろ」
小夜の腕輪にバルトリアスの指先が一瞬だけ触れた。
指を離したバルトリアスは嘆息し「もうよい、仕舞ってやれ」とフレイアルドに命じる。
フレイアルドは再び自身の外套で小夜を隠した。
「これだけではどうにも解らぬ。オレラセアとその他の女神の気配はするが、遠すぎて判別できん」
フレイアルドは頷いた。
もとより、この応接室で解決するような話ではないと覚悟していたのである。
「では実際にご覧頂いても?」
「いいだろう。離れだな。案内せよ」
フレイアルドは頷き、小夜を抱えたまま離れまでの道を先導した。
***
応接室から望める庭園に降りたフレイアルドは、ならされた石畳の道を迷うことなく歩き離れへと辿り着いた。
本邸とは違い木造の建物は古さこそ感じるものの、その美しい造形は絵画から抜け出したのではないかと思えるほど。
小夜は、離れの前で身震いした。
何故か分からないが、ここだけ空気が濃い気がしたのである。
「サヨ?」
「ーーなんでも、なんでもありません、フレイアルド様」
四人は静かに中へと足を踏み入れる。
離れに入ってすぐの空間は昼だというのに薄暗い。
部屋はいくつかあるらしい。
彼等から見て真正面の扉の前にフレイアルドは立った。
「この中です」
手が塞がっているフレイアルドに代わってラインリヒが扉を開けると、バルトリアスは躊躇うことなく中へと入って行った。
フレイアルドと、彼に抱えられた小夜が続く。
小夜の目に部屋の中の景色が飛び込んでくる。
窓辺の揺り椅子と、本棚と化した部屋の壁を見て、胸が揺さぶられた。
(……ここだ……)
幼い頃の逃げ場所であり、フレイアルドと過ごした特別な部屋。
本棚に収められた背表紙に書かれた題はほとんどが見知ったもの。
フレイアルドに読み聞かせてもらったもの、一人待つ間読んだもの、と次々思い出が溢れてくる。
小夜はいっぱいになった胸の前で手をぎゅっと合わせた。
しかし小夜が感傷に浸れる時間はそう長くはなかった。
「ーーっ!!」
胸の前で合わせた自分の手が透け出したのである。しかも自分の体越しに自分を抱えるフレイアルドの腕まで見えた。
小夜は驚きのあまり声が出なかったが、異変に気付いたフレイアルドが叫ぶ。
「サヨ!?」
「なんだ!?」
先に部屋の中に入っていたバルトリアスと、扉を閉めていたラインリヒが駆け寄る。
姿が薄くなっていく小夜を見て、バルトリアスは息を呑んだ。
「其方が言っていたことはこれか? フレイアルドよ」
「左様です」
バルトリアスは唸ると、窓際の揺り椅子に体を向けた。
「殿下、殿下もまさかーー」
「……どうやらこの俺にも見えるらしい。侯爵家など、頼まれても要らんがな」
そう言うと、バルトリアスは揺り椅子に触れた。
次の瞬間ーー小夜は瞠目した。
バルトリアスの手から白い光の束が伸び始めたのである。
うねる雷電のような眩しい光が揺り椅子全体を包むまでは一瞬のことだった。
(あれ……?)
揺り椅子が光に絡め取られたその直後、小夜は自分の体が濃くなったのが分かった。
フレイアルドも気づいたらしい。
「いま、殿下が揺り椅子を一時的に封印されたからでしょう」
(ふういん……?)
不思議な現象の連続に小夜は頭がついていかず、ぼうっとしている。
元通りになった体を呆然と眺めていると、ラインリヒが医者の顔をして近寄ってきた。
「体調はどうだ? 痛みは?」
すぐに右足と左腕の遺物を確認しようとするラインリヒに小夜は何ともない、と言いたかったが声が出ず、首を振るだけにした。
ラインリヒはほっとしたらしい。ぽりぽりと頭を掻いている。
「びっくりしたなぁ……オレにも揺り椅子が見えるようになったけど、サヨは初めから見えてんだよな?」
小夜は頷いた。
どうやらあの白い光の後からラインリヒにも椅子が見えるようになったらしい。
光が収まった後から揺り椅子を見分していたバルトリアスが、何かを手に持って振り返る。
「これは何だ?」
ーーそれは、古びた黒い鞄と、一冊のノート。
小夜がこの手に持ってきたものだった。
バルトリアスは小夜の問いを待たずに、勝手にページを捲る。
異様な速さで捲っていく手は、焦っているようにも見えた。
途中でぴたりとバルトリアスの手が止まり、彼の目が何かに釘付けとなる。
「ーーサヨといったか」
威圧感を伴うバルトリアスの声に小夜は冷や汗を滲ませながら「はい」と応える。
小夜を抱くフレイアルドの手に力がこもった気がした。
「これは、其方が書いたのか」
「殿下? サヨに何を」
「……書いた、というよりは、写したものです」
「写した?」
バルトリアスは何か思いついたようにラインリヒを呼ぶ。
「読んでみろ」
バルトリアスに呼ばれたラインリヒは、一度サヨに申し訳なさそうな目を向けた後、恐る恐るノートに目を通した。
するとその顔が段々と強張っていき、その目が見開かれていく。
小夜はぎゅっとフレイアルドの服を握った。
震える声でラインリヒは小夜に尋ねる。
「サヨ……これは、一体なんなんだ?」
「それ、は」
フレイアルドが小夜を抱く力をますます強めた。小夜にそっと耳打ちする。
「ーー答えたくなければ、目を閉じていて下さい」
フレイアルドの言う通り目を閉じたらどうなるのか。
それは分からなかったが、フレイアルドに迷惑をかけてはならないと、小夜は意を決した。
「それは、わたしの国の本を、こちらの言葉に翻訳したものです」
「本の題は」
バルトリアスは誤魔化しも偽りも許さないと言わんばかりの目で小夜を射抜く。
小夜はごくりと唾を飲み込んだ。
「『かぞくの医学』です」
客人のバルトリアスが上座に座ったのを確認して、フレイアルドは小夜を座面と背もたれの柔らかい椅子の上に降ろす。
それから歓待の茶と茶菓子を並べる使用人達に声を掛けた。
「呼ぶまで全員この部屋に近づかぬように」
いそいそと彼等が出ていくのを確認して、フレイアルドはバルトリアスに向き合った。
腕を組み不機嫌そうな客にも、フレイアルドはどこ吹く風である。
「ご足労心より感謝いたします」
「……やめよ。其方が言うと気色が悪い」
口元を引き攣らせ眉間に深々と皺を刻んだバルトリアスは、気品を保ちながらもグイッと茶をあおる。
音もなく茶器を置くと、小夜をまじまじと観察した。
「それで、この娘はなんだ? おかしな気配がするが」
「ーー殿下ならば、お分かりになるのでは?」
「ふん。食えぬやつだ」
殿下、とフレイアルドに呼ばれたバルトリアスは不機嫌そうに鼻を鳴らす。
小夜は思わず身を縮めた。
「右脚と左手首。オレラセアの遺物をここまで贅沢に使う治療など、久々に見るぞ」
バルトリアスは指摘するが、小夜が身につけた遺物はいずれも服の下にある。
それを見透かされて、小夜は泣きそうな目で隣のフレイアルドを見た。
フレイアルドはその視線にすぐ気付くと、不安気な小夜を椅子の上から、自分の膝の上に移動させる。
小夜の肩を抱いて、安心させるように微笑みかけた。
「大丈夫ですよ」
ーーガシャン!!
大きな音に小夜が驚いて顔を向けると、バルトリアスが茶器を取り落としたらしい。
そっぽを向いて、肩を振るわせている。
「……どうやら、俺は本当に疲れているようだ。有り得んものが見える」
「殿下、どうぞお気を確かに。現実です」
ラインリヒが正気を保つよう促すが、効果はない。
「其方が、そのように女に優しくするところなど……一生見ることはないと思っていたがな」
「サヨ以外は私に必要ありませんので」
必要ないものに優しくする理由はない。
言外の意味に、二人揃って盛大な溜め息を吐き、再び茶をあおった。
バルトリアスなど、茶器の中が空になったのか、手酌でお代わりまでしている。
「くそ、胸焼けが止まらん。こういう時は茶より酒だろう」
「サヨの前で酒など飲ませませんよ」
先程の会話で顔を真っ赤にしている小夜とフレイアルドを、バルトリアスは据わった眼で見る。その顔はやや青かった。
「はぁ……長居すると吐きそうだ。用件を言え」
「……サヨ、少し左手を失礼しますね」
フレイアルドは自身の外套で目隠しをしながら小夜の左腕部分の衣装を捲り上げる。
小夜の袖は複雑に飾り紐で結われているが、フレイアルドは器用にも外していった。
外套が除かれて現れた白い腕に、バルトリアスの眉間の皺が増える。
「ーーおい」
「お、お目汚しですみません」
いまだ腕には多くの痣が残っており、見る人の気分を害することを小夜は気にしていた。
びくりと体を震わせながら謝る小夜に、バルトリアスは舌打ちした。
フレイアルドは小夜の手を支えて、バルトリアスの眼前に突き出す。
「話せば長いことながら……」
そうしてフレイアルドは、バルトリアスに侯爵家の揺り椅子にまつわる話から、小夜があちらとこちらを往復していた経緯まで語った。
そして長年会えなかった少女がこうして現れてくれたのはいいが、どうもいつもと法則が違い戸惑っていることまで説明する。
「夜明けと共に帰るはずが帰らず、身体が透けるだと……?」
フレイアルドは首肯する。
その上で、小夜が今回に限り帰れないでいる原因について探りたい、と願い出た。
「……サヨにも事情があり、一度帰ることを希望しております。しかし、今後揺り椅子を通じて安全かつ確実に移動することが叶うのか……侯爵家には、あの揺り椅子がどの女神の遺物なのかまでは伝わっておりません。しかし女神の加護篤き殿下ならば分かるのではと思った次第です」
「見せろ」
小夜の腕輪にバルトリアスの指先が一瞬だけ触れた。
指を離したバルトリアスは嘆息し「もうよい、仕舞ってやれ」とフレイアルドに命じる。
フレイアルドは再び自身の外套で小夜を隠した。
「これだけではどうにも解らぬ。オレラセアとその他の女神の気配はするが、遠すぎて判別できん」
フレイアルドは頷いた。
もとより、この応接室で解決するような話ではないと覚悟していたのである。
「では実際にご覧頂いても?」
「いいだろう。離れだな。案内せよ」
フレイアルドは頷き、小夜を抱えたまま離れまでの道を先導した。
***
応接室から望める庭園に降りたフレイアルドは、ならされた石畳の道を迷うことなく歩き離れへと辿り着いた。
本邸とは違い木造の建物は古さこそ感じるものの、その美しい造形は絵画から抜け出したのではないかと思えるほど。
小夜は、離れの前で身震いした。
何故か分からないが、ここだけ空気が濃い気がしたのである。
「サヨ?」
「ーーなんでも、なんでもありません、フレイアルド様」
四人は静かに中へと足を踏み入れる。
離れに入ってすぐの空間は昼だというのに薄暗い。
部屋はいくつかあるらしい。
彼等から見て真正面の扉の前にフレイアルドは立った。
「この中です」
手が塞がっているフレイアルドに代わってラインリヒが扉を開けると、バルトリアスは躊躇うことなく中へと入って行った。
フレイアルドと、彼に抱えられた小夜が続く。
小夜の目に部屋の中の景色が飛び込んでくる。
窓辺の揺り椅子と、本棚と化した部屋の壁を見て、胸が揺さぶられた。
(……ここだ……)
幼い頃の逃げ場所であり、フレイアルドと過ごした特別な部屋。
本棚に収められた背表紙に書かれた題はほとんどが見知ったもの。
フレイアルドに読み聞かせてもらったもの、一人待つ間読んだもの、と次々思い出が溢れてくる。
小夜はいっぱいになった胸の前で手をぎゅっと合わせた。
しかし小夜が感傷に浸れる時間はそう長くはなかった。
「ーーっ!!」
胸の前で合わせた自分の手が透け出したのである。しかも自分の体越しに自分を抱えるフレイアルドの腕まで見えた。
小夜は驚きのあまり声が出なかったが、異変に気付いたフレイアルドが叫ぶ。
「サヨ!?」
「なんだ!?」
先に部屋の中に入っていたバルトリアスと、扉を閉めていたラインリヒが駆け寄る。
姿が薄くなっていく小夜を見て、バルトリアスは息を呑んだ。
「其方が言っていたことはこれか? フレイアルドよ」
「左様です」
バルトリアスは唸ると、窓際の揺り椅子に体を向けた。
「殿下、殿下もまさかーー」
「……どうやらこの俺にも見えるらしい。侯爵家など、頼まれても要らんがな」
そう言うと、バルトリアスは揺り椅子に触れた。
次の瞬間ーー小夜は瞠目した。
バルトリアスの手から白い光の束が伸び始めたのである。
うねる雷電のような眩しい光が揺り椅子全体を包むまでは一瞬のことだった。
(あれ……?)
揺り椅子が光に絡め取られたその直後、小夜は自分の体が濃くなったのが分かった。
フレイアルドも気づいたらしい。
「いま、殿下が揺り椅子を一時的に封印されたからでしょう」
(ふういん……?)
不思議な現象の連続に小夜は頭がついていかず、ぼうっとしている。
元通りになった体を呆然と眺めていると、ラインリヒが医者の顔をして近寄ってきた。
「体調はどうだ? 痛みは?」
すぐに右足と左腕の遺物を確認しようとするラインリヒに小夜は何ともない、と言いたかったが声が出ず、首を振るだけにした。
ラインリヒはほっとしたらしい。ぽりぽりと頭を掻いている。
「びっくりしたなぁ……オレにも揺り椅子が見えるようになったけど、サヨは初めから見えてんだよな?」
小夜は頷いた。
どうやらあの白い光の後からラインリヒにも椅子が見えるようになったらしい。
光が収まった後から揺り椅子を見分していたバルトリアスが、何かを手に持って振り返る。
「これは何だ?」
ーーそれは、古びた黒い鞄と、一冊のノート。
小夜がこの手に持ってきたものだった。
バルトリアスは小夜の問いを待たずに、勝手にページを捲る。
異様な速さで捲っていく手は、焦っているようにも見えた。
途中でぴたりとバルトリアスの手が止まり、彼の目が何かに釘付けとなる。
「ーーサヨといったか」
威圧感を伴うバルトリアスの声に小夜は冷や汗を滲ませながら「はい」と応える。
小夜を抱くフレイアルドの手に力がこもった気がした。
「これは、其方が書いたのか」
「殿下? サヨに何を」
「……書いた、というよりは、写したものです」
「写した?」
バルトリアスは何か思いついたようにラインリヒを呼ぶ。
「読んでみろ」
バルトリアスに呼ばれたラインリヒは、一度サヨに申し訳なさそうな目を向けた後、恐る恐るノートに目を通した。
するとその顔が段々と強張っていき、その目が見開かれていく。
小夜はぎゅっとフレイアルドの服を握った。
震える声でラインリヒは小夜に尋ねる。
「サヨ……これは、一体なんなんだ?」
「それ、は」
フレイアルドが小夜を抱く力をますます強めた。小夜にそっと耳打ちする。
「ーー答えたくなければ、目を閉じていて下さい」
フレイアルドの言う通り目を閉じたらどうなるのか。
それは分からなかったが、フレイアルドに迷惑をかけてはならないと、小夜は意を決した。
「それは、わたしの国の本を、こちらの言葉に翻訳したものです」
「本の題は」
バルトリアスは誤魔化しも偽りも許さないと言わんばかりの目で小夜を射抜く。
小夜はごくりと唾を飲み込んだ。
「『かぞくの医学』です」
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