【R18】童貞を捧げた女しか抱けなくなる呪いにかかった皇子様とヤッてしまいました

白岡 みどり

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「ーーやぁ。早速浮気かい? マイシャ」

 
 街から城まではマイシャが歩けると思える程には近い。
 揺れる馬車の中、そっと子爵を窺い見た。

 淡い金髪が車窓から差し込む光に反射して綺羅めいている。
 薄い青い目がマイシャの視線に気付き、こちらを見た。

「どうかした? 言いたいことがあるなら言いなさい」
「あ、いえ、なんでも……」

 好きだから見てました。
 
 そう言えるはずもなく慌てて取り繕えば、子爵は心配そうな顔をした。

「……聞こうと思っていたんだ。その服はどうしたんだい? どうやって街まで?」
「それは……」

 自分の手を握り合わせ、子爵から顔を逸らした。
 まさか名前も知らぬ男と一晩過ごした上、連れ去られて妻にされるところでしたなんて言えるはずもない。まして、答える相手は好きな人だ。

(そんなこと、子爵様に知られたら、死んでしまう)

 せめてこの身がまだ清いままならば、涙ながらに訴え出ることも出来ただろう。

「あの、昨日の晩のお振舞いを飲んでから記憶がなくて……街で知り合った親切な方が色々くれたんです」

 言い訳としては不合格の回答だが、他に良い案がなかった。
 子爵はマイシャの靴に目を留めた。

「その靴……」
「え」

 どきりとした。
 しかし、それは一瞬のことだった。
 子爵は深刻そうな顔で考え込んでいる。

「五年前に行方不明になった領民の娘が履いていた靴に似ている。それをどこで?」
「えっと」

 マイシャはその行方不明の娘の母親から貰ったことを説明した。すると、子爵は納得いったようなそうでないような顔でマイシャを嗜めた。

「その人の言うように、靴のことを知ってる人間には気をつけなさい。いいね」
「は、はい」

 そんなやりとりをしている間に、馬車はお城のすぐ目の前だ。
 マイシャは初めてここに来た日からお城と呼んでいるが、一般的には館と呼ぶ規模の建物らしい。
 でも田舎者で今にも崩れそうな荒屋しか知らないマイシャには、いつまでもお城だ。

 その城の入り口を見て、マイシャは危うく悲鳴を上げるところだった。

(ままま待ってまって待って、なんであの馬車がいるの!?)

 虎と交差する剣の紋章。
 それは、紛れもなくあの男の馬車だった。

「何てことだ!」

 だが驚愕の声を上げたのは目の前に座る子爵だ。
 
「子爵様、あの馬車が誰の馬車かご存知なんですか?」
「ーー知らないはずがない。あれは、畏れ多くも皇帝の第二皇子であられるルクレツィオ様のものだ」

 その言葉に、マイシャは時が止まったように動けなくなる。

 ーー第二皇子。

 馬車が城の入り口にどんどん近づく。
 身動きできないマイシャを嘲笑うように馬車はゆっくり止まり、その扉が外から開かれた。

「ーーやぁ。早速浮気かい? マイシャ」

 そこには、葡萄酒色の悪魔がいた。

 ***

 足元からガラガラと崩れ落ちる幻覚が見えた。

 最悪だ。
 逃げようにも馬車の出入口は一つ。その一つを、男が塞いでいる。

「ちょっと目を離したら、こんな風采の上がらない男と二人きり? 悪い子だなあ」
「ひっ……」

 蛇のような金眼がねっとりとマイシャに絡みつく。
 少しづつ近寄ってくる男の手が伸びて、マイシャの顎を掴んだ。
 強引に視線を合わせられる。

「僕じゃ満足できない? 慣れてないと思って、ちょっと手加減してたけど、しすぎたみたいだね」
「や、やめ」

(ーー子爵様が見てる!!)

 男の胸を手で必死に押して拒否する自分に、それでも顔を近づけてくる男。
 もうダメかもしれない。
 諦めるように、ぎゅっと目を瞑った、その時。

 声を上げたのはマイシャではなく、同乗していた子爵だった。

「皇子殿下! その者は我が城に勤めるものです! ご無体は何卒お許し下さい!」

 ぴたりと、男の手と迫る顔が止まった。
 薄ら目を開ければ、非常に不機嫌そうに子爵を見る男が目に入る。

「……ああ、お前がここの領主か」
「仰るとおりでございます。畏れ多くも皇帝陛下よりロイエンマールの地をお預かりしております、ボールスと申します」
「ふぅん」

 マイシャの顎から離れた手は背中と膝下に伸びる。
 そのままマイシャを抱え上げた男は馬車から降りると、振り向きざまに子爵に命じた。

「ではボールス。中へ案内しろ。僕の奥さんを休ませなくちゃならないからな」
「やめて!!」

 それは、一番言われたくないことだった。

「奥さん……?」

 呆然とする子爵と、にやりと口の端を上げる悪魔。
 
 ーーどうして。

 マイシャの目には、信じられない、という顔で硬直する子爵の姿が映る。
 一番知られたくない人に、知られてしまった。

 ぽろ、と涙が溢れる。

「なんで……?」

 昨日に戻れるならば、絶対にお酒なんて飲まなかったのに。

 子爵は恐縮したように畏まりました、と呟くと二人を案内するように前を歩き出した。
 マイシャにとって我が家のような城が、まるきり別の場所に見えてくる。

 そんなマイシャを慮ることなくどんどん進んでいく男の胸を、泣きながら拳で殴った。

「ひどい……っ! なんで、なんで子爵様に言うの!? わたしは貴方なんか好きじゃない!! 奥さんになんか、ならない!!」

 ひどい、ひどいと男を何度も殴る。
 けれど見た目よりも分厚い胸板は、びくともしない。

「ひどいのはマイシャだ」

 その声音が、冷たい氷のようでマイシャはぴたりと動きを止めた。

「やっと会えたのに、覚えてないマイシャの方がひどい」

 マイシャはそう言われても、こんな男は知らない。
 記憶を探ってもこんな目立つ髪色と眼の色は記憶にない。
 キッと睨み、はっきりと告げた。

「貴方に会ったことなんてないっ」
「あぁ、そう。ーーそれならそれでもいいよ。もう奥さんにするのは決まってるんだし」

 言葉を重ねるごとに、男の声音はどんどん冷えていく。
 醸し出す空気も、氷室の中のように涼しくなっていく。

(こわ、い)

 マイシャは二人を先導する子爵の背中に助けを求めた。
 しかし、その背は一度として振り返ってくれることはなかった。


 
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