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サーシャリア・アルベル
しおりを挟む学園の昼休み
シャーロンが1人で無いことを確認してから
サーシャは1人、転移魔法で屋敷へと戻って来ていた。
シャーロンが居ない時間にシャーロンの部屋に
用がある為だ。
ベッドの枕横に置かれたクマのぬいぐるみを
サーシャは手に取り、ぬいぐるみのお腹に手を当てた。
強い光がぬいぐるみを数秒程包み込んだ後
光はぬいぐるみの中へ入っていく
「何かあったら、頼んだわよ」
ぬいぐるみが返事を返すことは無いが
サーシャには充分だ。
10年前、シャーロンが誘拐された時
騎士団に置いて行かれたサーシャは強い怒りと
絶望の底に落とされた
大人達の判断は間違っては無いのが今ならわかるけどあの時は無理だった。
__シャーロン、シャーロン
いやだ、いやだ、おねがい、私も
そう願った時、頭の中にシャーロンが居る場所の
情景が流れ込んで来た
男に持ち上げられているシャーロンを下から
見ている何か
後は連れていけと強く願うだけで
私はあの場所に辿り着けた。
無我夢中で使った魔法
言ったことも無い言葉がスラスラと出てきたのは
私が転生者だからだろうか
5歳の時に3日間高熱に魘され
生死をさ迷った。
けどその時は死んでもいいと思っていて
子供らしくない子供だったと思う。
熱が辛かったのではなく、何にも興味が無かったから
その癖、人の憎しみが時折流れ込んでくる感覚がありその瞬間が心地良いのも嫌だった
自分の得体が自分ですら解らない
それが、無意識に恐ろしく
自分とは対照的な3つ下のシャーロンにも近付くのが怖かった
けれど、熱に魘される最中
私は思い出してしまった
この世界を__
夢見し世界で_というファンタジーゲームで
主人公はルイス殿下、ヒロインはシャーロン
ゲームのなかで、シャーロンはアルベル公爵家の実子の設定では無い
何をしても笑わず、表情を変えないのに
魔力だけが強いサーシャリアを不安に思った親が
養子に取るのがシャーロンだ。
歩み寄ろうとするシャーロンにもサーシャは
感情を見せない。
時は流れて、王都に魔物が襲撃して来るのを
何とか食い止めようと立ち向かうルイス殿下と殿下を支えるシャーロン……みたいな物語だ。
ゲームの中の私は2人を助けたりはしない。
ああ、と納得が行き、頭の中が冷えていく
身体は熱いのに
けれど、それと同時に前世の記憶も呼び覚まされた
幼い女の子が自分を「ママ」と呼び
その声に心が満たされてゆく
頬ずりして、その頬っぺにキスをする
温かく、愛しい、私の宝物
ただ、ただ、この子の側に居たい
でも、私は病気でその子を置いて命を落とした
目を開けた瞬間、涙が溢れた。
「ううっ……もういやっ……」
3日ぶりに出した声は掠れていて
「サーシャ?」
頬に優しく触れる手と心配そうな声
流れる涙を拭ってくれる手は母の物
それから
「ねーしゃま……ぎゅ」
小さな、小さな手を握った瞬間
ふわりと魂の輪郭が見えた
それが何故か前世の娘と同じものだと直感し
驚いて、一瞬息が止まる
シャーロンは、娘の………?
前世とここでの役割を思い出した魔力がある
今の私だから見えたのだろう。
弱っていた心が急速に力を取り戻していく
死にたくない、生きたい、そばにいたい
もう、離れたくない
そこから一気に回復した
私はシャーロンを可愛がる様になった
姉が妹を可愛がるのは当然なので
私は毎日堂々と可愛がれて、毎日抱きしめられて日々幸せでしかない。
それは、娘だからと言うだけで無く妹としても
シャーロンが愛しい存在だから。
シャーロンに譲った
クマのぬいぐるみは魔力が目覚める前の
サーシャの黒の瞳と同じ色の宝石
「「ブラックオニキス」」が嵌め込まれている。
私が少しでも喜べば良いと父が古い友人で職人のその人と共に(自分は綿を詰めたのだと良く言っていた)作ってくれた物でその人はシャーロンが産まれる前に亡くなった。
だから、シャーロンのは別の職人に発注する予定だった
それまでは何も気にしていなかったが
シャーロンはこのクマのぬいぐるみをよく抱きしめていて、欲しがるシャーロンを母が何度と無く宥めていた
でも、思い出した私はシャーロンに譲った
『このクマさんが、きっとかならず、シャーロンを守るわ。だから何時でも持っていてね』
『うん!!!ねーしゃま、あーと!!』
ニコニコと彼女が笑うと、温かな物で全身が
満たされていく
『あいしてる、シャーロン』
まさか、その1年後に本当にこのぬいぐるみが
シャーロンを救ってくれるとは思わなかったけど
きっと、嵌め込まれたオニキスがサーシャの本来の瞳と同じ色だったから通じ会えたのだろうと勝手に思っている
でも、あの時真っ先に発動したのは
今まで蓄積された憎しみと怒りを糧にした
闇の力だった。
サイクロンは風の魔法と闇の力が合わさった物で
傷付けようとする明確な意志を持った攻撃魔法
これこそが、ゲーム内での
サーシャリア・アルベルの役割
魔王の生まれ変わりでラスボス
最後は魔力が無いと思っていたシャーロンに
封印される
死にたくないし、シャーロンにそんなことさせたくないから
頑張って来たけれど、魔物を倒すと
魔物達が喜んで私に魔力を差し出す
拒んでも身体は意志とは関係無くそれらを吸収していく
魔王の生まれ変わりが、正義の味方にはなれない
だから、もしもの時に、シャーロンが躊躇うことが無いように
それに、ダグラス・リードンもゲームの中で
魔王討伐メンバーの1人だ。
ルイス殿下や彼が、きっとシャーロンを守ってくれる。
本当は他の騎士団も強くしたかったが
やる気が無いのは無理だ。
それにこの光の力はシャーロンが私にプレゼントしてくれた物だから。
記憶を取り戻しても、シャーロンが居なければ
この力を持つことは出来なかった
だって、この光の力の源は___
10年前と同じ記憶の魔法が発動するよう
クマのぬいぐるみに願いを込める
「あの子を守ってね」
優しくクマのぬいぐるみの頭を撫でてから
サーシャがシャーロンの部屋を去った後
オニキスの瞳から1粒の涙が零れ落ちた__
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