Reセカイ

月乃彰

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第42話 F.F.A.

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 Free For Allとは、財団の暗部組織の一つである。その名の通りメンバーは寄せ集めのようなものであり、相性や関係性などは無いに等しい。
 ただ一つ言えるのは、彼らは間違いなく暗部組織どころか、財団の中でもトップクラスの戦闘力を有するということ。

「──アレンさん、あなたはどうして財団のデータベースにアクセスできたんですか」

「ははは⋯⋯アルゼス。それより先に聞くべきことがあるんじゃないか?」

 ミナとリエサがメディエイト事務所内に到着する十数分前。
 アルゼスが所属する暗部組織、F.F.A.がそこを襲撃した。
 アルゼスたちはアレンを攫い、人目につかないところで尋問していた。

「俺が聞きたいのはそこじゃありませんからね。あなたの危険性に比べれば、彼らはさして重要ではない」

「だから追いかけない、と? 油断したら駄目だぞ。彼らは君の顔を、君たちを見た」

「問題ない。俺がここに居たという認識は、メディエイトの皆からは消えて無くなっている」

「ほう。超能力ならレベル6相当か。俺はそんな高位の能力者は知らないが」

「⋯⋯⋯⋯もういい。アレンさん、話してはくれないみたいですね。じゃあ、お別れです」

 アルゼスは超能力を発動しようとした。アレンという非能力者を、ましてや拘束し、身動き一つ取れない彼を殺すことは容易い。
 斥力を操ることで、アレンの頭を押し潰そうとした。
 が、彼の超能力者が潰したのは、背面のコンクリートだ。

「⋯⋯誰だ」

 アレンはいつのまにか、少女に押し飛ばされていた。それによりアルゼスの攻撃から逃れていたのだ。彼女はゴシック調の制服を着ているが、どこの学校所属かは分からない。

「⋯⋯⋯⋯」

 無言。少女はそのままアレンの手を繋ぎ、超能力で逃げようとする。
 それより速く、アルゼスは二人を仕留めようとするが、

「──ッ!」

 真上。アルゼスを狙って拳を振り下ろす者が居た。アルゼスは寸前に気が付いて回避していた。
 地面に軽くクレーターができあがるほどの威力。それをしたのは勿論超能力者。
 アレンとルナを助けたのは、

「ビリー・マクスウェル⋯⋯」

 この前の学園大体育祭で、偶々見かけた人物。そして、エルネストらをイーライと共に撃退した超能力者。

「何をしているんだ、アルゼス・スミス」

「何を、か。関係ないだろ、一般人。失せろ」

「助けを求められて、無関係なんて言えないよ」

 ビリーの体に赤い稲妻が走る。肉体全体に超能力を回し、身体能力の向上を完了させる。
 アルゼスはビリーが正面突破してくることを予測し、前方全体に斥力を発生させる──、

「──な」

 発生した斥力は、空を振動させただけだ。ビリーは真後ろに移動していた。あまりにも速すぎる。油断していたとはいえ、見きれないほどとは予想もしていなかった。
 ビリーはあれから特訓した。ミナという天才を見せられては、立ち止まっているわけにはいかない、と。
 レベルこそ4のままだが、その出力は上がっている。戦闘能力なら5上位に相当する。
 アルゼスは強烈な肘打ちを頭に喰らう。そのままラッシュをかまされた。フィニッシュが叩き込まれる前にアルゼスは距離を取った。

(速い⋯⋯パワーもある。だがそれだけ⋯⋯!)

 ビリーの右ストレートをアルゼスはいなし、斥力を乗せたフックを打ち込む。ビリーは壁に叩きつけられた。
 しかしまともには入っていない。防がれ、受け身も取られた。 足払いをアルゼスは避けるために跳躍する。それが命取りだ。
 ビリーは拳を大きく振りかぶった。

(マズ⋯⋯!?)

 アルゼスは両手でガードしたが、衝撃を受け切ることはできなかった。路地裏から一気に道路に飛ばされた。

(く⋯⋯両手が痺れる。能力の防御が間に合わなかった⋯⋯)

 ビリーは跳んでアルゼスに追撃を加える。アルゼスは何とか躱したが、体制を崩した。
 防御に徹するアルゼス。だがたった一撃か二撃でガードは剥がされ、胴体がガラ空きになる。

「ッ!」

 胴体にビリーの全力の一撃がぶち込まれる。アルゼスは何十メートルも吹き飛ばされた。彼は転がるが、気絶することはなく、立ち上がる。

(クソ⋯⋯今度は間に合ったが、間に合ってこれか⋯⋯なんつうパワーだ)

 一直線、ビリーはアルゼスとの距離を詰める。拳を振りかざす。しかし、そう何度も食らってたまるものか。
 アルゼスは斥力を生じさせ、ビリーを地面に叩きつけた。一瞬だけ宙に浮かすことで、より強力な一撃となっていた。
 そのままアルゼスはビリーを蹴り付ける。彼は閉店した店の硝子をぶち破った。
 アルゼスは追撃するために店に侵入した。が、

「居な──」

 そこにビリーは居なかった。アルゼスは周囲を警戒する。しかし遅かった。
 調理用ナイフが飛来してくる。アルゼスは反応し、はたき落とすが、それがビリーの接近を許した。

「──来る」

 ビリーはその能力の出力をより上げた。赤い稲妻が右手に集中する。それを見たアルゼスは、回避もカウンターも諦め、ガードに徹する。
 右拳の軌道を読み、アルゼスは能力の防御を腹に集中させた。
 拳が衝突する──。

「────」

 あまりにも、その衝撃は弱かった。そうだ。フェイント、だったのだ。
 ビリーは稲妻を走らせるだけ走らせて、直前になって解除した。代わりに左手に能力を集中させ直し、意識外の一撃を生む。

(さっきから僕は右ばっかり使っていた。左ストレート、予測しないだろ⋯⋯ッ!)

 ビリーの左拳は、アルゼスの顔面を捉えた。全力の一撃ではない。非利き手であることもあり、それは決して十二分の威力ではなかった。
 だが、防御もせずに頭に、顎に叩き込まれればただでは済まない。

「ぐっ!?」

 直後、とてつもない斥力がビリーを襲う。彼は再び外に投げ出され、街頭の柱を捻じ曲げ、折る。
 意識は何とか保っている。だが、打ってはいけないところを打ち付けたようだ。頭にモスキートーンが鳴り響く。

「⋯⋯ッ」

 鼻血を手の甲で拭きつつ、アルゼスはダウン状態にあるビリーに早歩きで近づく。

「⋯⋯⋯⋯」

 アルゼスには殺しを楽しむような破綻性も、煽るような人間性もない。ただ、淡々と仕事をこなすのみ。しかし、いざ人を殺害するとなると、やはり、一瞬、躊躇う。
 だからその躊躇いを隠すように、アルゼスには悪い癖があった。それは、人を殺す時は、予備動作の大きい能力を使うのだ。
 斥力を一点に集中させ、それを一気に放つことでレーザー光線のような破壊力を持つ一撃。それをするには少なからずタメが必要だった。
 数秒、斥力をタメる。人体を貫通させる程度ならば、一点に集中させるだけで十分。つまり、この動作は要らない。

「──っ!」

 そしてそれが、相手に反撃を許す切っ掛けになったのはおそらく今回が初だ。いつでも殺せるくらい追い詰めていたから、反撃されるようなことは今までなかったのだ。
 ビリーの蹴り技がアルゼスの顎に炸裂した。
 脳が揺れる。視界が回る。全身に力が入らず、座り込む。

「はあ⋯⋯はあ⋯⋯」

 ビリーの体もよろめいた。互いに致命的な一撃を交換したのだ。だが、一手、ビリーが上回った。

「⋯⋯さっきから連絡がない、と思えば。だから一人で行くのは辞めたほうがいいですよ、って言ったのに」

 いつの間にか、彼女は居た。
 紫色のウェーブの掛かったミディアムヘア。エヴォ総合学園のオリジナルの制服を着ている。
 少し小柄で、顔立ちは整っているが幼い。
 赤い目を見ていると、吸い込まれるような感覚に落される。
 声は心地がよく、自然と耳に入って来る。

「⋯⋯悪い、な⋯⋯」

「本当です。まあいいですが」

 ビリーは彼女を知っている。
 エヴォ総合学園の中等部。ビリーは直接会ったことはなかったが、知っている。なにせ、あの白石ユウカと同じレベル6の中学生として有名だからだ。
 彼女は千咲凛音ちさきりんねだ。

「⋯⋯さあて。あなた、ここはどうです? 互いに手を引きませんか?」

「⋯⋯それはできかねるかな。そこの彼は人を傷つけようとした。君も彼の仲間だと言うなら、僕は君たちを見過ごせない」

「そうですか。成程。どうやらとっても立派な志を持っているご様子。しかし、無意味ですね」

「────」

 その瞬間だった。
 ビリーの意識が、電源が切れたテレビみたいに、プツリと消えた。

「私の能力は催眠系の最高位。⋯⋯あなた程度、抗うことさえできないですから」

 しかし、消えたのは意識だけだ。ビリーの自我が消えただけだ。その肉体の主導権がなくなっただけだ。
 リンネの意思によって、その肉体は動く。マリオネットのように。

 ◆◆◆

「⋯⋯とりあえず状況は把握できた。しかし⋯⋯そうか⋯⋯」

 メディエイト事務所にてイーライたちが合流し、ミナは状況を説明した。
 その際にミナは魔力の痕跡を辿ることができると伝えたが、イーライは頭を抱える。

「すぐにでも助けに行きましょう、先生。わたしとレオン君の速度なら今からでも」

「駄目だ。お前の予想が正しいのなら、相手は魔術師なんだろ? そうでなくても、アルゼス・スミス──レベル6の超能力者が敵に回っている可能性がある。危険だ」

 この状況で、在団がアレンたちを攫う理由も殺す理由も、ミナたちには分からない。つまり、誘われている可能性だってある。

「だとしても、です。⋯⋯なんなら、わたし一人でも、いや寧ろその方が⋯⋯」

「星華、俺は何も行くなとは言っていない。後手に回っている今、何も準備せずに行くな、と言っているんだ」

「⋯⋯⋯⋯」

 イーライの言っていることは尤もだ。何の情報も無しに助けに行ったところで、待伏せられて返り討ちだ。

「そうよ。あんたの気持ちも分かるけど、今は落ち着いて」

「⋯⋯分かった、うん」

 一旦冷静になるも、ではどうすればよいか、となると言葉に詰まる。イーライはミナにああ言ったが、彼も現状、何をすべきか分かっていない。

(偉そうなこと言ったが、俺も⋯⋯警戒できたはずだ。メディエイトが襲撃される可能性を⋯⋯いや、今は反省している場合じゃない)

 イーライは考える。
 財団はどうしてメディエイトを襲ったのか。その目的は何か。攫った理由は、自分たちを誘き出すためだけだろうか。
 何はともあれ、アレンたちはどこに居るのか。

「私の『千里眼クリアボイアンス』なら、あの人たちの状況と居場所を特定できる。正確な位置は分からないが、そこは星華が追跡できるのだろう?」

 ユウカは複数の能力を持つ。その中の一つ、『千里眼クリアボイアンス』は面識のある人物の居場所や知っている場所の現状を視ることができる超能力だ。
 ただ、視ることができるのは、対象の周辺のみ。居場所も大雑把にしか分からない。

「白石、エドワーズさんたちはどこに居る?」

 ユウカは能力を使い、攫われたと思われるアレン、ヒナタ、バルバラ、ルナを捜す。

「⋯⋯どうやら別れて逃げたみたいですね。コーエンと暁郷はすぐにでも見つけられそうだ。でもエドワーズさんと、あの少女は⋯⋯おそらく、財団の施設内」

 ユウカは全員にバルバラたちの居場所を伝えた。

「そうか。なら、コーエン、暁郷と合流しよう」

 その時、事務所のインターホンが鳴る。
 こんな時間に何事か、と思いつつもリエサが扉を開けに行った。

「はい。なんの御用でしょうか──!?」

 リエサの体を結晶が覆い、衝撃から彼女を守った。だがその隙に彼は事務所内に侵入し、ミナを目掛けて突っ走る。
 あまりにも速かった。誰もそれに反応することができなかったが──

「二度も、見逃すことはないね──!」

 侵入者は、ミナに触れる直前で止まった。当然だ。足を、結晶が掴んでいたから。その結晶は鋼鉄を超える強度を持つ。拡大速度も一瞬に等しい。

「⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯で、先輩、どういうつもりですか」

 侵入者──ビリーを見て、リエサはそう言った。

「⋯⋯⋯⋯」

「何も答えない、か。操られているにしても⋯⋯」

 リエサはイーライの方を見る。彼は能力を使っているが、ビリーが正気に戻ったようには思えない。

「ああ、月宮、拘束は解くな。無力化しろ」

「分かっています、先生」

 リエサは躊躇なくビリーの全身を結晶漬けにしようとしたが、それより早く、妨害が入った。
 破壊が伝播し、結晶が砕ける。そして、ミナが倒れた。

「──なっ!?」

 ユウカが、ビリーの拘束を解いたのだ。
 何か不味い。そう思ったイーライは指示を出す。

「ミナを連れて逃げろ、月宮! ソマーズ!」

「──ッ!」

 リエサは結晶を伸ばしてミナを掴む。レオンは二人と自分を風に乗せて、窓から外に飛び出した。
 自分では何も考えていなかった。イーライの言葉に全力で従っただけだった。
 しかし確実に言えるのは、あの場において、少しでも判断が遅れれば今頃全滅だったということだ。ユウカの超能力は、それが可能なのだから。

「クソ⋯⋯何が起きた!?」

「分からない⋯⋯けど、とんでもないのが敵に回っていることは確実⋯⋯!」

 リエサはエストの言葉を思い出し、呟く。

「⋯⋯財団には、ヴァンネルに次ぐような化物がゴロゴロ居る。いやでも、あれは⋯⋯」

 ルイズに次ぐ超能力者はゴロゴロ居る。そして、彼女と同等以上の能力者も、居る。
 もしあれが洗脳系の超能力者による被害であれば、相手はレベル6で間違いない。

「レベル6の洗脳系超能力者⋯⋯そんなの、千咲リンネしかいない」

 レベル6、第三位。千咲リンネ。超能力名、『理想郷ワールド』。
 その効果──あらゆる対象の半永久的な完全催眠。
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