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モン娘ファームの日常

アルファたんと付喪神

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付喪神。

これは、長い年月を経た物や道具に命が宿る、この国特有の現象である。

人間と同じで付喪神になるのにも才能が必要なのか、どんな道具でもなるワケではなく、総じて、大事にされた物や、祭事や神事に使われる神聖な物の方がなりやすい。

基本的に時長く現存した物ほど自由で強い付喪神となっていくが、これが魔物なのか道具の延長なのか、学者の間でも意見が分かれている。

と言うのも、魔物の定義は基本的に野生動物の延長なのだが、元が物だけに動物の定義に当てはまらない。

だって言うのに、通常のモン娘と同じく他の雄との繁殖が可能だったりする。

もちろん、合体はしても繁殖は不可能なんて奴や、そもそも人型になれないなんて奴もおり、ホントにもうカテゴリとしてどこに分類したらいいのかわからない連中なのである。

さて、以上の事を踏まえた時、ある日の昼間、俺は唐突に閃いてしまったのである。


「おまえってさぁ、実のトコ、もう付喪っちゃってるんぢゃねぇの??」

「???」

今日も今日とて無駄に電気代だけを貪る、我が家の高性能ロボ子ことアルファX。

TVをぼへーっと観ながら寝っ転がり、バリボリ煎餅を齧っているポンコツに向かって俺はそう確認してみたが、奴は「なに言ってるんだコイツ?」的なはてな顔で、可哀想な奴を見る目をしつつ首をこちらに向けた。

奴は元から動くロボットとは言え、物には違いない。

本人曰く、大戦末期に作られた対魔物決戦兵器との事なので、
最低でも、もう200年近くは形を残して現存する品だ、付喪神になっていてもおかしくないのである。

元々AIで行動する為か、その行動が命を得た事によるものか、AIによる元々の物なのか判別しづらいが、勝手に動き出したり、リセットを受け付けなかったりと、
思い返せば、胡散臭い所が多すぎるのである。

てか、うん? うん?? 煎餅? 煎餅齧ってるぞ!このロボ子!?
ロボって食い物食えないんぢゃねーのかよ!!

「おいお前!なに煎餅食ってるんだよ!! ロボだろうが!!なんで食えるんだよ!!」

「これはまた異な事をのたまうのですね、マスター。ロボだって腹は減るのですが?ロボ故に」

「異な事をのたまってるのはおめーだよ!! 電気だけじゃなくて食物まで経口摂取するとか、どんだけ燃費悪いんだよ!!」

つーか、ロボ故に腹減るとか、マジでオカシイだろ…

「イミフ。もう可哀想な勢いのイミフ発言過ぎて草不可避w マスターにはちょっとお勉強が必要ですねw」

「この野郎、ご主人様に向かって舐めた口聞いてるんぢゃねーぞー!」

このポンコツがイラっと来る発言をするのはデフォだが、役に立たないどころか完全に経費がかかるだけのお荷物なので、こうして上から来られると、こちらとしても我慢が限界突破してしまう。

「うぶぶぶ、にゃにをするのでしゅますふぉー!」

アイアンクローで頬っぺたの辺りを重点的に攻めてタコ口にしてやると、そのまま抗議の声を上げるアルファ。

がっつり掴んでいるせいか、その顔は可愛らしさのかけらもなく、大変不細工な物になっている。

「うははは、だせぇ! 高性能が聞いて呆れるぜ! おーい!チャコー!ちょっと来てみろよー! 超ウケるぜコイツの顔ーw ってほぎゃあああああ!?」

普段のクール面からかけ離れたひょっとこ顔があまりのもウケたので、この面白さをおすそ分けしようと、我が家の弾け娘、この手の煽りをもっとも得意とするチャコール・バーガンディーを呼んだ所、一瞬の隙を突かれてアルファからの反撃を許してしまった。

奴の顔から目を反らしたので、横目でちらっとしか確認できなかったが、頭のアンテナから、なんかビームを放たれた気がする!

「ぬおー!目がー!目がー!!」

ダメージはそこまでなかったものの、とんでもないフラッシュ効果で、直視していなかったと言うのに、まぶしさが限界突破して視界が完全にホワイトアウトした!!

「ふぅ。まったく、これだからマスターは困るのですよ。高性能美人ロボ子に対するセクハラですよ!これは!」

「ぐぅぬぬぬ、てかなんだよ!今の攻撃!? 頭のアンテナにそんな機能が付いてるなんて、説明書にはそんな効果書いてなかったぞ!! つーかそれ、ただの飾りでアンテナでさえないって書いてあったぞ!!」

「やれやれ、これだからマスターは(パートⅡ)できるロボ子は説明書に書いてあるだけの事以外もできるからこその高性能ロボ子なのですよ?」

「あーもう!こういうトコだよ!こういう所が付喪ってるんぢゃねーのか!って言ってるんだよ!!」

「イミフ。多いにイミフ。とりあえず私はTV観るので静かにしててください」

「くそぁー!前が見えねぇぇぇぇ!!くそぁー!!」

両目を押さえてごろんごろん床を転がる俺。
せめてもの反撃にうるさくして奴のTV視聴を妨害してみる。

「・・・・呼ばれて来てみたが、どした?これ??」

そんな俺を見て、やってきたチャコは状況を把握できず困惑した声を出していた。



~~~~佐竹邸~~~~



そんなこんなで、本当にポンコツ、もといアルファが付喪神と化しているのか確認するために、チャコ&アルファと共に佐竹邸へとやってきた。

チャコの奴はここのモン娘に友達も多いので、遊び半分でついて来ただけなので、早々に畜舎の方へと姿をくらませた。

俺は俺で、ごねるアルファにボディブローやボディブロー。ボディーブローなどを叩き込んで大人しくさせ、担いで連れてきた。

道行く人からは確実に危ない奴と思われたのか、数回ポリスに通報され職務質問を受けたが、アルファがロボだとわかると修理に向かう途中だと言う説明で納得してくれた。

そう、困った時には佐竹さん。

これは、某メガネ君が、全体的に丸い感じの青いロボットに毎回泣きつく勢いで、もう我が家の定番と化している。

「と、言うわけで、佐竹さん。一発コイツを鑑定してくれまイカ?」

そう言って、ぐいっとアルファを佐竹さんに押し付ける俺。

佐竹邸についたと同時にパチクリと目を覚ましたアルファは、ものすごいぶっちょう面で再起動し観念している模様。

因みに佐竹さんの嫁であるティッツバスのエイチチは、俺がここに来るのと同時に縄張りを主張し、俺の背中に張り付いた。

「まぁ、それはかまわないのですが、今度こそ先輩には僕のコレクションを埋める為の最後のピースになってもらいますからね?」

「うぐっ!」

佐竹コレクション…それはつまりアレだ。あの映像記録に男優として出ろと言う意味だ。

「こう、先輩にやられるパターンだけ埋まらないんですよねぇ、ほら、僕の先輩って先輩だけじゃないですか? そのお人が頑なに拒否してますから」

「ぐぬぬぬぬ…」

確かに、佐竹さんには借りが山ほどある。

なのに俺はそいつの唯一の頼みを断り続けている…

ありとあらゆる手段を用いて、色々なパターンの嫁NTR映像を収集する佐竹さんの性癖は、正直、オタクの収集癖のソレでもあり神がかっている。

ある時は後輩に金を積んでやらせ、またある時は何も知らない宅配業者のおっさんをエイチチが誘惑するサマを密かに撮影し、またまたある時には、わざと町でナンパさせたチャラ男に寝取らせる…

そんな中、唯一先輩と呼ばれる俺だけが先輩にやられる作品を担当できるのに、俺はその提案を悉く蹴っていた。
彼は常々それに対して苦言を呈し、事あるごとに泣きつく俺への色々なアレの返済として、最後通告してきたのだ。

でもさぁ! 嫁っこ抱けとか言われても、正直困るよなぁ?

それも、もみくちゃにしてがっつりNTR! 完全にアヘ堕ちさせろとか、無茶ぶりにもほどがなくね?? いやあるよな???

しかも相手は淫魔ですよ? ここに来る度におもっくそ誘惑してくるクソビッチな!

てかもう、ある意味堕ちてるから困るんだよ! オートで! オートで堕ちちゃってるから!!

関係を持ったら絶対面倒な事になる事請け合いなんだよ!!

そうして、それがまた目の前の眼鏡をたぎらせるスパイスだと言うのだから、手に負えない…

脚本まで押し付けられた事があるが、念のため中を確認してみた所、それはもう、細かい指定がすごくて、臨場感を出す為に自分の知らない所でも関係を持て!とか、もうこっち方面の監督や脚本家でも大成するんぢゃねーのか?ってレベルだった。

とは言え、最早返せぬほどの借りがあるのもまた事実…ぐぬぬぅ。

「い、いいだろう。しょうがねぇ、しょうがねぇから、やってやんよ!!」

こうなりゃもうやけだ。

考えようによっては身ぃ一つ売るだけで色々チャラになるんだから、むしろ御の字だろう。

「ホントですか!!! いやぁ、ダメ元でもしつこく言ってみるもんですねぇ!! 聞きましたかエイチチ!! 先輩がついにOKしてくれましたよ!!」

「んん~!!よくやったお財布!!えらい!!それでこそ私のATMよ!!」

言質を取った所でエイチチは俺から離れ、夫婦そろって抱き合う始末。

旦那の佐竹さんをお財布扱いなのは相変わらずだが、なんだかんだで仲は良くて上手く回ってるんだよなぁ…この二人。

「で、なんでしたっけ? アルファさんの付喪神鑑定でしたっけ?」

「そうそうソレ。石崎先生に頼めばわかるだろ?」

石崎先生と言うのは、佐竹ファームのモン娘専属医である。
昔からの顔見知りだし、ちょくちょく世話になっているお方だ。

年配の気難しい先生なので、本来は外来の客なんて受け付けないし、地域の生態メンテも義務だから仕方なくやってるだけの偏屈者なのだが、腕は確かだ。

俺は佐竹さんと旧知の間柄な上、先生との付き合い自体も長いので、例外的に診てもらえている。
ここは家から遠いので緊急時には間に合わないが、正直、いつでも頼りたいと言うのが本音だ。


そんなわけで、俺たちはそろって石崎先生の元へと向かうのだった。



~~~佐竹ファーム・石崎先生の診療室~~~



「ふ~む、コイツはおったまげたな。大戦末期の骨董品が現存してるとは…」

石崎先生は、アルファのナリとあちこちが茶色く変色した取扱説明書を見るなりそうつぶやいた。

「鯖男。おめぇコイツをどこで手に入れたんだ? どっかの遺跡最深部でも探索してきたのかよ?」

怪訝そうにそう言う石崎先生。

「え? いやぁ…近所の電気屋で押し付けられたんだけど???」

因みに鯖男と言うのは、俺の二つ名である「常温放置した鯖の目を持つ男」を略したものだ。
けして俺の本名ではない事はここで断言しておく。

「んな馬鹿な話あるかい! コイツは当時、大戦終結の一端を担ったアルファシリーズの中でも、特にヤバイと言われた700番台。後期型だ。電気屋なんかに置いてあるワケねーだろ!」

「いやいや、マジですって! 店も法外な処分費用に困って押し付けて来たんですから!!」

「そらおめぇ、こんな国家レベルの遺物であるロボ、個人や民間企業で処分できるワケねーだろ…下手に処分したら当時のマシンは放射能とかまき散らすからな!」

「うぇぇ!放射能!なんですかそれは!!」

超初耳なんですが!! 少なくとも説明書には、んな事書いてなかったぞ!!

「コイツの素材や武装は、今では製造が禁止されてたり良くわからなかったりするロストテクノロジーの塊だ。つーか、説明書なんてもんまであるのが驚きなんだが…」

石崎先生は渋い顔でアルファを見つつそう語る。

「大戦末期と言えば、魔物の殺戮量もピークに差し掛かってて科学技術もフルに使われた頃だ。なおかつ魔物の技術も流れ込んできた時代だったからな。混沌としてて今でも良くわからねぇ事が多々あるんだわ」

語りながら石崎先生は棚から謎の機械を取り出し、診察台で寝ているアルファの体にペタペタと電極っぽい物を取り付ける。

「コイツは付喪神かどうかを簡易的に検査する機械。俺が開発して特許申請している付喪センサーって奴だが、こんなレジェンダリーウエポンに通じるかどうかわかんねーぞ?」

「ははは、先生。このポンコツがそんな御大層な物のワケないでしょう? 粗大ゴミですよ。粗大ゴミ。もしくは不燃ゴミ」

俺のディスり発言に、クワっとなった顔で威嚇するアルファ。

こんな小物感たっぷりのロボがレジェンダリーウエポンとか、なんの冗談だよ。

それが事実ならどんだけ草が生えるかわかったもんじゃねーよ…

「む。コイツは、ちょっとすごいぞ!鯖男!!おい見て見ろ!コレ!!」

計器を観察していた石崎先生が唐突にそう告げる。

「今度はなんですか? 御大層な肩書に反して、ステータスしょぼすぎて草不可避なんですか?」

そう言いながら俺も計器を覗き込んだ所、メーターは振り切っており、数値は99999...エンドレスナインって奴だ。

「こりゃ、神霊クラスの付喪神だぞ!! どこかだかの神社に祭られているなんかすげぇ奴でも6000ぐらいだって聞いたことあるわい!」

興奮気味に話す石崎先生だが、その内容はだいぶふわっとしていた。

「計器がぶっ壊れてるんぢゃないですかね? コイツの褒められる所なんて、精々、乳尻太腿がイイ感じってだけですよ?」

「計器の故障って、おまえそれ、漫画で事実を認められない小物が良く言うセリフじゃねーか…リアルで聞く事になるとは思わなかったわ…長生きはするもんじゃなぁ…」

なにその例え!! 超ショーック!!

「故障なんかじゃないわい! こりゃ正真正銘、伝説級のロボ子にして最大級の付喪値を持つ国宝じゃよ!!」

「嘘クセェー。これが国宝なら電子レンジでも国宝になれそうだわー。先生とうとうボケたんじゃないの?」

「なっ、ボケなワケあるかい! いいか鯖男! この事、迂闊に他言するんじゃねーぞ? ものすごい面倒に巻き込まれるからな!」

引き続き興奮が収まらない石崎先生。

そのアゲアゲ発言にベッドから立ち上がり、腕をシャキーンとクロスさせ、無駄にキメたポーズとどや顔で見下すアルファ。

なんかもう、ひっぱたいてやりてぇレベルでムカつく顔だ…

「あー、はいはい。こんな恥ずかしいロボの事、おいそれとひと様になんて話せませんよ。家事一つできないどころか、やろうとさえしませんからね」

と、そこまでぼやいてはたと気が付いてしまった。

「うん? てことは一応、付喪神ではあるんですよね? コレ?」

「まぁな。ただの付喪神じゃなくて、本体も付喪値もクソすごい付喪神だがな」

引き続きアルファを持ち上げ続ける石崎先生だったが、その辺りは華麗にスルーするとして…

ふむ。なるほど。ならばもしかしたら行けるかもしれないな。

「先生、コイツ繁殖に使えませんかね??」

「な、なんじゃと?」

「いやほら、家今ミントしか使える奴居ませんからね、使えるなら使いたいなーと。付喪神なら曖昧な存在だから、モン娘の飼育スペースに空きがなくても申請通るだろうし」

そう。毎度毎度電気代を食うだけの粗大ゴミならお断りだが、繁殖に使えるとなれば話は別だ。大いに活用させてもらおう!

「ばかな事言ってはいかんぞ!鯖男!!おまえ!わしの言ってる事信じてないじゃろ!!」

「えー、信じてますともぉ。アルファって付喪神なんでしょう?ならオールオーケーじゃないですかぁ」

付喪神って部分以外はもちろん信じてないが。

「こんな神霊クラスの付喪神に見合う雄なんて早々おらんわい! 99.9999%相手の雄がぶっ殺されて終了じゃぞ!!」

プンスカ怒る石崎先生。だがその言い分はもっともだ。

「うっ!まぁ、確かにそれはあるやも…神霊云々はさておき、武装だけは恐ろしい程の近代兵器を積んでるからなぁ…」

その上、性格はねじ曲がってるし、素直に交尾するとはとても思えないのは事実だ…

「くそう。こんなバカったれがマスターになっちまうなんて、このロボ子も可哀想に…」

そんな俺の心境を捨て置いて、先生は先生で俺をディスりつつ、ぶ厚い説明書を再度ペラペラめくっている。

アルファはアルファでそのつぶやきにうんうん頷いてるし、この野郎、てめぇが難癖つけてきたせいで俺がオーナーになるハメになった事、忘れてるんぢゃねーだろうな?

…いや、忘れてるかもしれねぇなぁ…なにしろポンコツだし…。

「うん? うう~ん?? ふぉ!! こっ、これはもしや!!」

説明書をペラペラめくっていた先生が唐突にそう叫ぶ。

「今度はなんですか先生?入れ歯でも落ちた?」

「ばかもん!わしの歯は全部現役じゃい!!そうではなくてこれを見ろ!」

そう言って、石崎先生は取扱説明書の目次ページを見せて来る。

「見ろって、先生…目次見せてなんなんですか…やっぱりもう彼岸を渡って曖昧な状態なんですか??」

「この野郎、さっきからわしの事下げまくりやがって…いいか、ここんトコ、良く見て見ろ!」

そう言って、先生は目次の一番冒頭部分の空白を指さす。

「もうだめだ。石崎先生…やっぱりボケて…ううっ」

完全に彼岸を渡ってしまった先生に対し、思わず目頭が熱くなってしまった…

「阿呆!! ここんトコに魔術刻印があるじゃろう!!この説明書、おそらく本来の姿は封印されておる!!」

「えー?」

言われて再度見直して見たが、まったくそんなものは見当たらない。てか…

「俺がんなもんわかるワケないでしょう!! 最低限の基本アビすら持ってないアビ難民舐めんな!クソジジィ!!」

そう、大概の人ならわかる一般的な事でも、基本アビさえ持ってない俺では、アビが必要な物であれば小学生でもわかるものさえわからないのだ。

俺は石崎先生、もといクソジジィの頬っぺたを両方引っ張り抗議する!

「ぬおー!なにをするんじゃー!やめんか鯖男ー!!わしが悪かったー!ド底辺への配慮を怠った故にー!!」

「上等じゃーボケジジィー!!」

荒ぶる俺と、頬っぺたをつねられながらも負けじと煽る爺。

そんな俺たちを黙って真顔で黙って見守るアルファにちょっと引っかかったが、程なくしてやってきた佐竹さんに止められ、一端騒ぎは収束した。



~~~~~~



「ふ~む、確かにこれは、レジェンダリーウエポンですね」

目次にあった封印(と言えば大げさだが、ZIPロックみたいな物なので普通は誰でも解ける)を
佐竹さんが解いて内容を確認した所、彼は最初にそう感想を漏らした。

封印を解いたアルファの説明書は、ちょっと豪華な見た目に変化して、いかにもな雰囲気を醸し出している。

「正直、この説明書だけでもかなりの歴史的価値がありますが…当局に知らせたらかなり面倒ですね…」

「じゃな。この男自体が脛に傷持つ厄介者なのに、こんな兵器を所有しているとなったら、今度こそ国家転覆罪で首ちょんぱされるだろうな」

おいおいおい…なんだか穏やかじゃねぇ単語が聞こえて来たぞぉ…

「もう一度確認するが、鯖男。このロボ子の方から契約を持ち掛けてきたのじゃな?」

「正確には所有者だった店が扱いに困って押し付けたって感じなんだが…まぁ、コイツ自身が望んだのは確かみたいだな」

奴が家に来た後、色々と不自然すぎたのでアルファを問い詰めた所、頑なに口を閉ざしたが、真摯な説得と言う名のボディブロー6発目で真相をゲロッたので確かだろう。

「むぅ。アルファシリーズは自らのオーナーを選ぶと聞いた事があるが、マジなようじゃのう…」

神妙な顔つきでそう語る石崎先生。

「そんなどっかの聖剣や魔剣じゃあるまいし、このポンコツにそんな上から来られたら、こうだよ!こう!!」

それに対して俺は返答しつつ拳をねじり、こうだよ!こう!とコークスクリューブローを見せてみる。

「いや、先輩、上も下もなく、ちょいちょいこの子を殴ってるじゃないですか…」

「うん? いやまぁ、頑丈だけが取り柄だし、丁度いいサンドバックにはなるからな!」

「うわー…先輩流石にそれは引きますよ…どこの世界に女性型ロボ子をサンドバック扱いする人が居るんですか…」

「ここにいるじゃん。てか、ソイツもただ殴られてるだけじゃなくて、ビームとか出して反撃してくるからな!!」

そう。今までの俺の言いっぷりからして、一方的に殴っているかの様に聞こえたかもしれないが、ボディブロー入れたりする前には、大抵このポンコツが無礼な事をのたまったり、先にビーム攻撃をしかけて来た時の話だったりする。

「ビームって…ここに書かれてる光学収束レンズ魔導砲(極)って奴ですかね? 全体に組み込まれた回路を使って様々な部位から発射できるみたいですが…」

説明書を指さしつつ、そう説明する佐竹さん。

因みに封印を解いた説明書は全部アビを使って解読する専用文字で書かれているので、俺にはさっぱりわからない。

「じゃろうな…こんなもんバスバス食らってぴんぴんしてるこの男も色々とオカシイが…コイツそれぐらいしか取り柄ないしなぁ…」

「ああん!やんのかこのジジィ!」

「上等じゃ鯖男!!ド頭にわしの八極拳をぶちこんだるわぁ!!」

「あーもう、話が進まないので喧嘩は後にしてくださいよ」

メンチを切って威嚇しあう俺たちを、そうたしなめる佐竹さん。

まぁ、話が進まないのは事実なので、このジジイとの決着は言われた通り後にしよう。

「纏めると、この子は最強の決戦兵器にして長い年月を経て付喪神へと至った。そして付喪神としてはあり得ないレベルの神霊クラス。って事でいいですね?」

そう簡潔に纏める佐竹さん。

「そうじゃな。でだ。問題の本質はそこではない。このバカチンがそんなもんのマスターに選ばれた事の方が遥かに問題なんじゃ」

「ああん?なんでだよ?」

じーさんの言い分はイマイチ要領を得ないので、反射的にそう聞き返してしまう。

「いいか鯖男。お前は公式には15年前に死んだ身だ。国家転覆罪のテロリストとして捕まったのを忘れたワケではあるまい」

「ぐっ、ジジィ…人の黒歴史を蒸し返すんじゃねーよ…恥ずかしくて死にたくなる…」

そうだ。確かに捕まった。重犯罪者として処刑された。公には。

「ばかったれ! 黒歴史なワケあるかい!胸を張れ! お主のおかげでこの国の魔物は今の待遇を手に入れた! 異端者扱いされていたわし等だって、真っ当以上に評価され今の地位を得た! 古今東西のブリーダーの基礎だってお前が作った物だろう!! なのに! 一番の功労者であるお主は用が済んだら僻地へぽい! 当局は逸脱した司法取引の証拠を消そうと暗殺まで企ててるだろう!」

そんな風に一気にまくしたてるジジイ。いや野崎先生。

たしかに、俺がやった行いで、名ばかりのモン娘法はあるものの実質無法地帯だったこの国にも、他国と同じレベルのモン娘法と意識改革が起きた。

先進国に遅れて迫害しかされていなかった魔物は、こうして一応の地位を得た。

新たな法律の元、魔物に対して基礎すらわからなかった官僚達は、当時最もモン娘の扱いに長けていた俺を、この国に魔物の繁殖方法を根づかせる為の第一人者として起用した。

法律上は、どんなにがんばっても死刑以外の選択肢がなかった俺を、代わりが居ないからとの理由で秘密裡に生かしてまで…。

そうして長年かけて基礎が出来上がった辺りで、俺はお払い箱になった。

魔物の軍勢を率いて各地の「庭」を襲撃した俺は、国からしたら大罪人。
生かしておいた事が国民に知れれば大問題だ。

「わしはそれが悔しくてならん…お主は魔物だけではなく、わしら研究者にとっても恩人なんじゃ。実際に生きていると知った時の、わしの喜びはお主にはわからんじゃろうて…」

「ふ~む、面と向かってそう言われると、すごく照れくさいな…」

先生からそんな風に思われてたとはなぁ…初めて知ったぞ。
世間一般では極悪テロリストとして認知されてるしなぁ…。

「そうですよ先輩。モン娘達の世界では、最初で最後の魔王。マニトゥ・ノスフェラトゥと言えば、めっちゃ英雄視されている憧れの有名人でしょう?」

「うん。それは知ってる。言わないで。その名前すごく恥ずかしい…ホントなにやってるんだろう昔の俺…」

両手で顔を覆って羞恥に悶える俺。

俺の行いに賛同する同士が増え組織がそこそこ大きくなった頃、なんかそれっぽいボスの名前考えようぜ!

となった時、中二全開で勢いのまま付けた名前が、まさか後世に残るなんて思いもしなかった…

「まぁ、なんじゃ…名前はさておき、そんな全科や背景のあるお主じゃからな。こんな兵器を所持しているとなったら、それだけで当局が介入するいい理由になっちまう。武器所持なんたら法でもアウトだし、これだけの遺物となれば、国家転覆目論見罪みたいな感じで、強引に罪をねつ造する事だって可能になるわい」

「うっは! まじですか! んじゃいらねぇよ!! こんなポンコツ! 今の俺は平和を愛する一市民にすぎないんですぞ!」

そう叫ぶ俺の元へスタスタとやってきて肩をぽんと叩くアルファX。

「あなた、廃棄手数料払えるのですか?? んっん~?」

そう、いやらしいほほ笑みを浮かべつつのたまうアルファ。

「くっ、くふぅ…」

当然、そんな金はない…

「いやお主。金だけの問題ではないぞ? 神霊クラスの付喪神とマスター契約してしまったんじゃ。むしろそっちの方が問題で簡単にはこれ破棄できんぞ?」

「な、なんですと??」

「ほれ、お主が持ってきたアルファとの契約書。お主が死ぬまでか、アルファが壊れるまでは有効と書いてあるじゃろ?」

「うむ、確かに書いてあるな。でもほら、スクラップにしちゃえば壊れるってことじゃね??」

「ばかもん!それは「壊した」じゃ。契約不履行でどんな呪いがぶっ飛んでくるかわかったもんじゃないぞ!!」

「ふぁーっく!!なんじゃそらー!!! じゃあなに? まかり間違ってお金が用意できても、こいつ捨てられねぇの??」

「そうなるのう…」

おーまいがー…まじですかー…

「最強兵器って言うか、最強の呪いの人形じゃねーか…」

そんな俺の絶望の呟きに対して、アルファは親指を立ててサムズアップしながら、

「もちろん!髪の毛も徐々に伸びますよ!イメチェンの散髪もOKですから!!」

と、ほざいた。ふぁーっく。



~~~~帰り際~~~~


鯖男…もとい牧場長が真っ白に燃え尽きつつ、死んだ魚の目をより濁らせて轟沈していた頃。

アルファは野崎に呼び止められた。

「お前さん。アレと契約した本当の目的はなんなのじゃ?」

診察室でのはっちゃけぶりはナリを潜め、見た目通りの厳しい眼光を放つ老人がそこには居た。

恐らくは、こちらが野崎の本来の姿だろう。

「本当のとは?」

野崎の言いたいことは大体アルファにはわかっていたが、あえてすっとぼけた。

「ごまかすんじゃねぇよ。お前さん程のモンなら引く手数多だろうに。態々あれと契約する理由がない。奴ぁ魔物にとっては英雄で功労者かもしれねぇが、ロボで付喪神のお前さんにとっちゃ微妙にニュアンスが異なる。アレにご執心する理由としちゃあ、かなり弱い」

もっともな意見だ。その通り。英雄としての彼に興味はない。

「そうですね。それについては同意です。ですが、態々あの人を選んだ理由があるのですよ。いえ。あの人だからこそと言うべきでしょうか?」

「解せねぇなぁ。見た所、害意も敵意もねぇ様だが、如何せん俺には拘る理由がとんとわからねぇ。はぐらかす事も含めてな」

「それはまぁ…当然でしょう。他の方でもきっとわかりませんよ。ええ。明確に理由を答えたとしてもきっと理解できませんよ」

そう答えた後で、強いて言うならマスターだけは理解できるかもしれませんがね。と付け加えるアルファ。

「にしても誤算でしたよ。マスターがあんなこと言い出した時点で、最終的にここへと来る事はわかってましたが、あなたがあんな小洒落た玩具を持っていたなんて。おかげで間抜けなただのロボ子を演じていた苦労が全部水の泡ですよ」

アルファの言う小洒落た玩具とは、もちろん野崎が使った付喪センサーの事だ。

「かかかっ。なんだよ。お前さんでもわからねぇ事があるんだな。」

豪快に笑いつつ、野崎は暴露する。

「ありゃお前さんの言う通りただの玩具だぞ。あいつの発言もビンゴじゃて。元からメーターもぶっ壊れてて、最初から数値も9999のまま動かねぇよ」

この発言には、流石にアルファも面食らった。

「俺らが日々どんだけお前らみたいな輩の相手をしてると思ってるんだよ。付喪神かどうか、そしてそいつがどんなスペックの持ち主かなんて、見ればすぐにわかる。それはお前さんみたいに特殊な存在だったとしても変わらねぇ」

と自信満々に語る野崎。

「っとに、喰えないご老人ですね。でしたらなぜあのような茶番を?」

あの寸劇の意図が読めないアルファは、しかめっ面で野崎に確認した。

「なに。俺がそのままお前さんのスペックを伝えても。あの疑り深い男は信用しまいて。現に数値を見せてもあのザマだっただろ? お前さんの事も最後に言った通り、呪いの人形ぐらいにしか思っておらんて…かかかっ」

「と言う事は…私はこれからただのポンコツではなく、呪いのポンコツロボ子と呼ばれる事になるのですかね?」

「そうなるだろうな」

「おうふ」

アルファにとっては、これもまた斜め上からの誤算だった。

「ま、なんでもいいや。こうして話してみたら、なぁ~となく読めたわ。お前さんあれか?流行りのツンデレってやつか?」

野崎のぶしつけな言葉に、普段は表情を崩さないアルファもイラっと来た感を隠さずに、指先からレーザーポインターを出して威嚇。

「丸焦げにしますよご老人」

「おおっと待ちな!俺ぁあいつみたいな戦闘系のアビ持ちじゃねぇんだ。お前さんのビームなんぞ食らったら丸焦げどころか消し炭になっちまう!」

慌てて両手を上げ降参の意思表示をする野崎。

「それ、元は科学兵器だったのかもしれねぇが、お前さんが付喪神になった事で魂由来の攻撃になったんだろうな。じゃなきゃアイツも一発で消し炭だろうからな」

電気で動くアルファは、言わば電気が血液でありエネルギーだ。
それを元に作られるレーザーも魂に呼応して進化したんだろう。とも野崎は付け加えた。

「なんにせよ。お前さんの存在がアイツにとって危険なのは事実だ。それだけは忘れねぇでくれや」

と最後に告げて野崎は診察室へと戻ろうと踵を返した。その背中に向かってアルファも答える。

「ええ。忘れませんとも。仮にマスターの命を脅かす敵が現れるのならそれでもかまいません。全部。彼の敵は私が消し炭にしてやるだけの話ですから」

食えない態度を常に崩さないアルファだったが、この答にだけは熱が籠っていた様に野崎は感じた。

「そうそう。それと一つだけ訂正を。私はツンデレではなくどちらかと言えばクーデレです!」

まじめな答えをつぶやいたその舌の根も乾かぬ内に、いつも通りの態度でそう言い切ったアルファの顔は、なぜか百万ドルのドヤ顔で、めっさ生き生きしていた。

実の所、老人にとってはツンデレも良くわからない単語だったのだが、よりわからないクーデレと言われてしまい野崎は内心困惑したが、

「ああ、そうかい」とだけ告げて診療所内へと消えたのだった。

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