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ラミアなリリィさん

牧場長とポンコツロボ子

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先日の約束通り、今日はチャコに最新型のスマホを買ってやるべく電気屋へとやって来た。

俺は電気屋なんぞめったに来ないから聞きかじった程度の知識しかなかったのだが、昨今の家電売り場では最新型のAIを搭載した女性型アンドロイドも売られている。

そのロボ子達は宣伝と学習を兼ねて、接客具合等も含め、お客にこんな事までできるんですよ的にアピールする為に売り場でうろちょろしているのが常らしいのだが、現場に来てみてびっくり。

ホントに色々なロボ子達が売り場で接客してるではないか!

ぱっと見は人間と遜色ないが、耳の部分についている尖ったセンサー?やら頭部のアンテナ?等の装備で区別がつく。

そんな中の1体とチャコの奴がエンカウントして和気藹々と話始めたのだが・・・・

「なんだとこの野郎! もういっぺん言ってみやがれ!」

「チンチクリン、チンチクリン、チンリクリンノパー」

「上等だ! こんくそガキがぁー!! ぶっ飛ばしてやんよ!!」

「オー、ゴイライテン、マコトニアリガトウゴザイマース ゼッタイニユルサナイゾ! コノムシケラガー!」

「バカにしてんのか! てめー!!」

このようにトンチキな回答をする固体と遭遇してしまった為に、ものの数分でチャコがリミットブレイクしてしまい、険悪な事態となりつつあった。

店内で客相手にも学習する。と言う事は当然面白がっておかしな事を教える客も居るわけだ。

そのおかしな台詞を機械音声で微妙な表情のまま吐き出すので、いささか以上に酷い事となる。

「この! この!!」

「あ! コラ!! 叩くんじゃない!!」

ロボの台詞にキレたチャコが、触覚みたいな形のアンテナが装着されたヘアバンドごと、その頭に向かって張り手を数発叩き込んだので即止めさせた。

タッパが足りないから、そのままでは成人女性サイズのロボの頭は叩けないので、ジャンピング張り手だ。

壊しでもしたら弁償代がえらい事になっちまう。

「だってよー! あたしの事チンチクリンチンチクリンって連呼しやがってコイツ腹立つんだもん! おっさんもなんとか言ってやってくれよ!」

「いやお前がチンチクリンなのは事実だろうに。だがまぁ・・・そうだな、おいロボ子、あんまし客に変な事言わないほうがいいぞ? コイツみたいな乱暴な奴もいるからな?」

「オー、クタビレタオッサーン ゴチュウコク カンシャデース」

うん。確かに一言余計だな、このロボ子。 

それはそうと、人類の夢の到達点の一つである女性型アンドロイドだけあって、造詣だけみれば非常にいい感じだ。

ちょっと前まで、ロボと言えば中身のスペックはすごいものの、見た目が酷い物ばかりで、ネットでは前々からロボが作られる度に、造詣はオ○エンタル工業に頼めよ! 的な話がちょいちょい聞かれたのだが、それがようやく叶ったと思って貰えばわかりやすいか?
 
いや、このクオリティはそれ以上ではなかろうか? どれ、感触も確かめてみよう。

ほっぺをぐにぐにしてみれば、ふむ、人並みに柔らかい。

乳も、ほほぅ、これはたわわに良く実ってて大変良い具合だ! 良い具合だぞ!!

なんだよおい! 技術の進歩は本気ですげぇな!! これにメイド服着せて所作を学習させれば夢のメイドロボ爆誕ぢゃねーか!

「おい、これすげーよ、すげぇいい仕事してるよこれ。いくらぐらいするんだよ、これ?」

ひたすらアチコチ触りまくり、触感からなにから色々と調べてみる。

そうして細部まで確認してみればみる程に、なおさらすげぇ事が分かってくる。流石人類! としか言いようが無い!!

当然、そんなハイスペック家電ともなれば値段も気になるところなんだが、はて? 値札が付いてないな?? 展示品だからだろうか?

一応、服とかもめくってボディも確認してみたのだが、やっぱり見当たらない。

てかこのロボ埃っぽいな、ちゃんとメンテナンスしてるのか???

展示品だからある程度汚れるのは分かるが、それにしたってアチコチ薄汚れ過ぎぢゃねーか? 

まぁいいや。スカートの中も調べてみよう。

「お客様、店内での多機能ロボットに対するセクハラ行為はご遠慮ください」

ゴメス!!

「あ痛!! な、なんだ??」

スカートをめくって確認していた所、脳天にそこそこの衝撃が降りてきて、軽く目から火花が出た。

目の前のロボが俺にチョップを食らわせてきたようだ。

「先ほどから私の身体をペタペタペタペタ触り放題触りまくり、挙句の果てに衣類までひん剥こうとするなんて、とんだ性獣ですね」

んん? あれ? なんかさっきまでと違ってえらい流暢にしゃべるな??
感情の篭った抑揚だし表情も僅かだがより人間的になったような?? なにこのロボ子。

それはそうと、展示品を弄っていただけで性獣呼ばわりされたら、常温放置した鯖の目を持つ男と呼ばれた俺とて黙ってはいられない。

「展示品なんてアチコチ触りまくられてナンボだろうが。 高額品ともなればどんなモンか良く調べないとおっかなくて金出せないだろう!」

「では、私が良い商品だと分かれば、買ってくれるのですか?」

「いや、そんな金は全くないから結局の所、触るだけだけど」

ゴメッス!!

「いてぇな! こんちくしょう!!」

俺の正直な答えを聞くなり、先ほどの一撃より3割増しのチョップが脳天に炸裂した。

「それでは私が触られ損ではないですか。今買ってください、直ぐ買ってください、さぁ買ってください」

なんという強引な押し売り。30余年の人生でここまで自分を推してくる奴に俺は出会った事がない。

どうなってんだよこのロボ子! てかこの店はこんな暴力装置を徘徊させておいて大丈夫なのかよ!!

「買わねーって言ってるだろうが! 俺はノーと言える日本人なんだよ! 押し売りは効かないぞ!! 残念だったな!! てかてめー! なんでそんな流暢にしゃべれるんだよ! 最初のアレはなんだったんだよ!」

カタコトの発音しかできず、表情も微妙だったのに、いきなりコレだぜ? 誰だって疑問に思うだろう。

「元々の発声基準はコレです。小さなお子様相手にはロボへの夢を壊さない様にロボっぽくしているだけで。ですがおっさんには容赦しません。脳天へのチョップだって平気で何発も撃てるのです。こんなふうに!」

ゴッス!ゴッス!ゴッス!ゴッス!!

「痛だだだだだ、やめねーか! このくそったれ!!」

脳天へ打ち下ろされるチョップの嵐。電気屋に来てロボにこんな事されるなんて夢にも思わなかったぜ。

「さぁ、私の有能さが理解できたでしょう。買ってください」

チンチクリンと連呼されて夢が壊れない子供もいないだろうし、これだけやられて素直に買うおっさんもいないだろう。 もうこれ脅しぢゃねーか!

「返答は変わらねぇ! ノーだ! もういいや、おいチャコ、さっさとお前のスマホ買って帰るぞ!! んん?? あれ? チャコ??」

後ろに控えてると思ったが、振り返ってみればその姿は忽然と消えていた。

「お子様なら大分前に店内のどこかへとフェードアウトしましたが?」

「うっは! マジで!! どのぐらい前だよ!」

「マスターが私の乳尻太腿をエロい感じで触りまくってた辺りですね」

「おい、さりげなくマスター呼ばわりすんなポンコツ。 つーかエロい感じでなんて触ってねーよ!」

ったく、あのバカがまた店内で問題起こしたら事だからな、早いトコ見つけないと不味い。

このポンコツに絡まれたのも、元はと言えばアイツがちょっかいかけたのが原因だしな。(その後、自分の方が興味深々になったのは棚に上げて)

しっかし、どんだけ間違った学習をすればこんなAIに育つのやら・・・逆にすげぇよ。

「お子さんを探すのですね、マスター。このアルファX072型もお供いたします」

「いや、来なくていいよ。てかなに、お前そんな上等な名前があるの? ロボットポンコツ子とかぢゃなくて?」

「はい。気軽にアルファたんとお呼びください」

「いや呼ばねぇし、ついて来んなよ!」

そう広くない店内だ、大した労力もなくチャコは見つかるだろうが、歩を進める俺のあとを追従してくるアルファX072型。

どうやらこのポンコツロボ子はストーカーの如く付きまとってくるようだった。



~~~~~~~大手電気店の女性店員と店長の会話~~~~~~~~


牧場長がロボ子を伴いチャコールを探して店内をうろついているその頃。

「店長見ました?」

「見たよ見たよ~、アレ、絶対素質ありだよ」

棚の影から牧場長を観察する二人の店員の姿があった。

「ですよね~、あの産廃ずいぶんと気に入ったみたいだし、押し付けてしまいましょうよ」

「うん、それ僕も思った。もう何世代も前の機体だから型遅れすぎて絶対売れないのに、廃棄するともなればとんでもない処分料を取られるから、ホトホト扱いに困ってたんだよね、あの機体」

「電源オフにしても勝手に動き出すし、AIをリセットしてもなぜか初期化できずあのままだし、倉庫から勝手に売り場に出てきては問題起こすしで、もう呪いの人形ですもんねぇ」

彼等の発言は最もだ。

牧場長は家電方面に疎いので型遅れの機体でもえらく感激していたが、アルファXのクオリティでは、今の時代、新品での販売はいささか以上に厳しい。

中古市場でも見かける事が稀なぐらい、アルファX072型は時代錯誤の骨董品なのだ。

売り場に陳列するどころか、倉庫に眠らせてるだけでも場所を取って邪魔なのに、AIのリセットができない不具合をも起こしてるともなれば、廃棄処分が妥当と言えるオンボロだ。

その妥当な判断を実行せず、アルファXが今でもこの店から廃棄されていないのは、先ほどの店長の発言にある通り、その処分に甚大な費用がかかるからだ。

現行品のアンドロイドは基準を満たした素材を使って作成されているが、二昔も三昔も前の彼女は、自然界では分解できない人工的な素材が大量に使われており、今では法的に規制された厄介な素材を使って作られている。

自然保護が叫ばれる昨今、それらを処分するには手続きやらなにやらが加わり、廃棄処分料そのもの以上に様々な手数料もかかる。

その為に今日まで放置されてきたのだ。

とは言え、おいて置くだけでも十分邪魔なので、店としてはなんとしても客に売りつけたいと言うのが当初の考えだった。

んが、運良く客をだまくらかしてその型遅れ品を売りつけても、気に入らない相手だとアルファXは難癖つけて店に帰って来てしまう。

その度に違約金やら迷惑料なども発生しており、本当に居るだけで経費がかかる疫病神だった。

ついでに言えば、店内での接客は牧場長とチャコールを相手にしたやりとりを見ればわかる通り、無礼で乱暴だ。

そんな問題行動がデフォルトで、AIの変更すら受け付けない不具合仕様なので、アルファの行動や言動が原因になったトラブルで、店員が客からクレームを付けられるなんてケースも度々あった。

何年もソレが続いているので、店からしたらアルファXは本当に対応に困る厄介者だ。

今では当初の売りつけようなどという考えはなくなり、もうただでもいいから、押しつけられる相手に押し付けたい。

常々そう思い、スタッフ達はこういった機会を窺っていたのだ。

店内を徘徊させていたのも、アルファX自身が気に入る獲物を見つける為だったが、いつの間にやら倉庫から出てきて監視外で唐突に問題を起こされるよりかは、監視下に置いた方が被害が少ない為と言う理由もある。

「なんとかあの客を言いくるめて引き取ってもらおう。あの感じなら出戻りする事はないと思う。これは今年一番のミッションだよ!!」

店長格の男性がそうつぶやくと、傍らの女性店員も激しくうなづくのだった。

なにがどうしてあんな普通の、いや、ずいぶんとくたびれたお客をアルファXが気に入ったのかはわからないが、かつてない程の手応えを二人は感じとっていた。



~~~~再び売り場~~~~


「だー! もう! なんだって付いてくるんだよ! このポンコツ! 大して広くも無い店内なんだからガキの一人や二人直ぐ見つかるってーの!!」

アンドロイド売り場から移動して少し。ポンコツロボのアルファXはなぜかパントマイムをしながら俺の後にぴったりくっついて来ていた。

俺の背中に向かってパントマイムをしている形になるので、周囲の目が刺さりまくってものすごく恥ずかしい。

誰だよこのポンコツにパントマイム教えたの! ぶん殴ってやりてぇぜ!!

そして極めつけは腰にウエストポーチの如く装着されているタブレットPCだ。

先ほどまでは装着してなかったのに、売り場で展示品をガメたのかいつの間にか装備しており、そのタブレットでエロ動画を大音量で流していた。

画面内から聞こえるあはんやうふんの喘ぎ声は、傍から見たら後ろのロボ子が言ってる様にしか見えない。そしてそのロボは男の背中に向かって謎のパントマイム中。

「見てくださいマスター! 私はこんな風にエロ動画を再生しながらもパントマイムが出来る程に器用なのです!! 有能過ぎて自分が怖い! お買い得ですよ!!」

うん。この状況で自画自賛できるその根性は確かに怖い。
てかなに? これ有能アピールだったの? 完全にマイナスだろ!!

だめだコイツ! 早くなんとかしないと! ただでさえ近所から変人扱いされてるのに、これじゃ猥褻なんとかで逮捕されかねない!

くっそー! 真昼間からこんな羞恥プレイを強要しやがって! 俺が、俺がなにをしたって言うんだよ! ちょっと乳尻太腿を触っただけぢゃねーか!

こうなったら責任者を呼び出して、こっぴどくクレームしてやるぜ!!

手っ取り早くその辺のスタッフに責任者を呼ばせようかと思ったが、良く考えたら後ろのポンコツも店員みたいな物だ。コイツにやらせてみよう。

「おいポンコツ、ちょっと店長呼んでくれ」

「・・・・・」

「おい、おいポンコツ。おーい」

目の前の俺が話しかけていると言うのに、ポンコツロボ子は横をつん向いて完全シカト。

これはあれか? あの流れか?

正式な名前、もしくはさっき提案してきたふざけた呼び方で呼ばないと反応しません的な、古典的シカトか?

おーけいおーけい。 そうきたか。だったらこっちも意地だ。絶対に呼んでやらねぇぜ!

「目の前にいるゴキブリの触覚みたいなアンテナを頭に付けたロボ子さーん。あなたの事ですよー」

ズグシ!!

「おっふ!」

ロボ子がノーモーションで繰り出した拳が、俺の鳩尾にクリティカルヒットした。

「あるぇ、おかしいなぁ、ちっとも呼びかけに反応しないのに拳は飛んで来たぞぅ? ねぇ? 型番がオナニーとも読めるロボ子さん」

ズグッシ!! ズグシ!! ズグシ!! ズグッシ!! ズグッシ!! ズグッシ!! ズグッシ!!

「痛だだだだだだだ!!」

頭と身体で∞の文字を描き、左右から高速で殴るデンプシーロールを繰り出してくるロボ子!! どこでこんな技覚えたんだよ!!

「ストップ!! ストップ!!マジに痛ぇから!!」

こちらの訴えなぞまったく意に介する様子はなく、ひたすらに∞を描いて攻撃してくるロボ子。

「くそぁ、ざけんなこの野郎!!!」

流石に頭に来たのでボディに一発、俺の方も渾身の一撃をズグシ! と食らわしてやった。

その結果、ずがしゃーん!! ぼこーん!!! がらがっしゃーん!! と、派手な音をたててロボ子は店内の端まで吹っ飛び、大きめのガラスを突き破って外に転がり出た。

洒落にならない。立派な物損事件の発生である。

んん?? あるぇ?? 生物以外には俺のアビリティは効果を発揮しないので、ロボに対して拳を叩き込んでもこんな激しいコトにはならないハズなんだが??? てか発動したとしてもあそこまでぶっ飛ぶほどの感触はなかったんだが??

「ちょっとちょっと!! なんて事してくれてるんですか!! 警察呼びますよ!!」

間をおかずして、店員が鬼の形相でやってきた。

「あ、いや、ちょっとまて! 俺は悪くねーぞ!!」

なぜだかアビが発動して派手な結果になってしまったが、あれだけボコスカ殴られたんだ。正当防衛だろう。

「なに言ってるんですか!! 多目的ロボットをいきなりぶん殴って窓ガラスを全壊させておきながら、悪くないとか、どんな自己正当化ですか! 悪い要素のみでしょう!!」

「いや、だってあのロボ子、俺の事むちゃくちゃ攻撃してきたぞ? 正当防衛だぞ!!」

「そんなワケないでしょう? 現行品のアンドロイドには全部ロボット三原則が組み込まれてるんですから、人に危害を加える事はありえませんよ!」

え、え、ええええ!! 驚きのあまり驚愕の表情になる俺。

ロボット三原則とは、

1.ロボットは人間に危害を与えてはならない 

2.第1項に反しないかぎり、ロボットは人間の命令に従わねばならない 

3.第1項・第2項に反しないかぎり、ロボットは自分の身を守らねばならない 

と言うロボットにインプットする大原則だ。要約すると安全安心で使いやすく壊れにくい電化製品という事になる。

「いやいやいや、あいつ一番大事な1と2が組み込まれてねーよ!! こっちの言う事完全にシカトだし、ビッシバッシ殴ってくるし!!」

自由過ぎるので絶対組み込まれてねーと思ったんだが??

「・・・・・・」

必死に身の潔白を訴える俺だったが、目の前の店員はジト目であからさまな疑いの目を向けてくる。

「ホントだって!! 店内の監視カメラで確認してみろよ!!」

そう、映像で確認してもらえば一目両全なのだ。アチコチにカメラがあるのはなんとはなしに目に入っていたし、あの現場だって撮影されているはずだ。

全く信用してくれなかったが、延々と無罪を主張する俺の必死さが伝わったのか、とりあえず映像を確認しようという事になり、俺は店員と共に事務所へと向かう事になった。



~~~~~事務所~~~~~



「な、バカな、なんだ・・・と・・・」

事務所に入って店員と店長らしき男と共に録画を確認した所、映像には俺が唐突に立ってるだけのロボ子をぶん殴り、派手にぶっ飛ばす様子だけが写っていた。

言い訳御免な証拠を突きつけられた俺に、二人からの白い目が突き刺さる。

どういう事だよ、これ? 俺はあのロボに妙な幻覚でも見せられていたとでも言うのか??
いや、まて、身体のアチコチは普通に痛い。あのポンコツに殴られたのは紛れも無い事実だ。
なのに、これは、一体全体、どーゆー事だってばよ??

「あの、お客様・・・とりあえず警察を呼びますので、言い訳はそちらで・・・」

店長格の男は、かわいそうな奴を見る目でそう言った。

「いや、いや、あの・・・警察はご勘弁願いたい・・・です」

「そうは言いましても、これだけの事をされたら、ウチとしても法的な手続きを踏まないわけにはいきません」

うっ、そらそうだよな。結果だけ見れば、いきなり店内で暴れてロボ子に暴行した挙句、余波でアチコチ破壊したヤバイ奴だ。

通報しない方が変だ。

「ですがまぁ、人は誰しも間違う物です。反省もしているようですし、窓ガラスを弁償していただき、あの展示ロボットを引き取っていただけるのでしたら、今回は大目に見てもいいでしょう」

「ほ、ホントか!!」

「ええ」

警察沙汰にしないというのはありがたい!! だが・・・

「いや、でも、あんな高額品を購入できる程の余裕は・・・ない・・・です」

腹の底から搾り出す、号泣必死な情けない台詞だが、事実だ。

「そこはご安心ください。あのロボットはそろそろ型遅れ品ですし、展示からも下げて廃棄する予定でしたので。まぁ、そんなワケですからロボの御代は結構ですよ。こちらとしても廃棄費用が浮くので引き取っていただければ助かりますから」

な、なんだってぇ!! なんという奇跡!! わけもわからず罪人にされてテンパってしまったが、世の中まだまだ捨てたもんぢゃねーぜ!

窓ガラスの弁償はしかたがないとしても、ロボの弁償となったらホントにヤバイ金額が飛ぶ事になった。それが廃棄間近だから無料で良いなんて、ミラクルすぎる!!

「ただし、購入後に廃棄するとなった時には、その費用は当然お客様持ちとなります。その他にも多目的ロボットの所有に関する法的なアレコレや、機体の説明書等と合わせて後ほど各書類をお渡ししますので、とりあえず今は購入証明書のオーナー名義欄にサインをしてください」

「わかったぜ」

勢い良く返事を返して、出された書類のオーナー名義記入欄にサインする俺。

細かい字で色々契約に関する事とか注意事項みたいな事も書かれているが、この際そんな物を読んでる余裕はない。
相手の気が変わらない内に話を纏めてバックレるぜ!!

「それではこれにて契約完了です。アルファXに関しては今日このままお持ち帰りいただけますが、窓の修理代に関しては後ほどご自宅の方に請求書をお送りしますので、宜しくお願いします」

「OKOK。こっちもそれで無問題だ」

ふぅ、一時はどうなる事かと思ったが、窓の修理代とポンコツを引き取るだけで騒ぎが収まるなら僥倖だ。

帰ったら直ぐにでもあのロボ子の廃棄手続きをしよう。あんな危険な物体を家に置くわけにゃいかねーしな。

こうして、良く書類も読まずにサインした結果、俺はとんでもなくやっかいなロボットを背負い込む事になったのである。

家に帰ってから俺がハメられたと気付くのに、そう時間はかからなかった。

因みにロボ子のインパクトが強すぎて、チャコの事はすっかり忘れてしまい、暗くなってから帰って来たアイツはスマホが買えなかった事に腹を立て、大変な暴れはっちゃくスーパーチャコちゃん化状態になっており、散々ぱら文句を垂れられた悲劇も付け加えておこう。



~~~~~再び某電気店の事務所~~~~~



「いやぁ! こうも上手くいくとは思わなかったね!!」

「ですねー。私達は録画に細工しただけで後はなにもしてないのに、それ以外は本当の事を並べるだけでトントン拍子に話が纏まるから、こっちがびっくりですよ」

ミッションが難なく達成された事で、興奮冷めやらない盛り上がりを見せる店員二人。

それもそのはず。

どうやって言いくるめようか、作戦を練ってる間に標的は勝手に暴行&店内破壊と言う形で自爆してくれ、なんの労力もなく達成できてしまったのだ。

彼の発言通り、アルファXの奇行や台詞も当然全て録画されていたが、その編集作業は現場の問答で片方が彼を引き止めている間に店長が高速でやりきった。

編集。などと言えば凄そうだが、実際には彼を殴るアルファXの部分をカットして、アルファXが殴られる部分に繋げただけなので、大した時間もかからず、専門家が見たら即バレるいい加減な物だ。

んが、アノ場でそれが追求されないだろう事は明らかだ。そもそもそんな事をする必要性を相手が想像できないのだから。

自分の経験とチガウ映像を証拠として突きつけられれば、混乱して誰でも自信を失う。そこに救済処置としての甘い汁を垂らすのだ。食いつかずにはいられまい。

あそこで先に彼が周囲の人間に正当防衛を訴えたなら少々面倒な事になっていたが、それをせずに自分から映像を見ればわかると言い出してくれたのも幸いした。

しかもその暴行でさえ、アルファXが仕掛けた茶番なのだ。

アルファXは牧場長に殴られた直後、足のジェット噴射で後方に激しく吹っ飛んだに過ぎない。

こうすれば、自分を疎ましく思っている店員達が姦計を駆使し、自分の所有権を彼に押し付けマスターとして登録するだろうという確信をもって。

かくして、厄介者を処理した店員達は勝利の美酒に酔い、牧場長には悩みの種が増えるのであった。
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