12 / 46
12話 市場調査と思い出の短剣
しおりを挟む
「相場は、やはり上がっているな」
日の出とともに、俺は中央市場に足を運んでいた。パーティーの会計係として何度も通った道だ。
「高級素材の価格が、この一年で2割増か」
帳簿に数字を書き込む。パーティー時代から築いた取引先との関係は、今でも役に立ちそうだ。
「おや、レオンじゃないか」
声をかけてきたのは、古くからの知り合い、武具商のマーカスだ。パーティーの装備の手入れでは、いつもお世話になっていた。
「ちょうどいい。相談がある」
「ほう?」
「今日の午後、装備一式を売りに来たいんだが」
マーカスは興味深そうに顎をさする。
「冒険者を辞めるのか?」
「ああ」
「そうか...なら、市場価値の8割で買い取ろう。お前との付き合いは長いからな」
「助かる」
取引の約束を済ませ、次は得意先の素材商を回る。相場は把握していたが、今後の取引のために挨拶回りは欠かせない。
昼過ぎ、市場での用事を終えて自室に戻る。
「さて、装備の整理をするか」
剣、盾、鎧...どれも、それなりの品質のものだ。
「もう必要ないな」
帳簿を開き、装備の市場価値を書き出していく。
「ロングソード...3万5000ゴールド。盾が1万5000ゴールド。鎧が5万ゴールド...」
計算すると、装備一式で優に10万ゴールドは超える。一般市民の年収30万ゴールドの3分の1だ。
「全て売ればかなりの資金になるが...」
手に取った短剣に、目が留まる。最初の冒険で手に入れた戦利品だ。まだ冒険者になりたての頃、D級魔獣との戦いで勝ち取った思い出の品。
「感傷的になるのは効率が悪いんだが...一つくらいは、記念として取っておいてもいいか」
短剣を脇に置き、残りの装備を見渡す。
「他は全て換金だな」
その時、ノックの音が響いた。
「はい」
ドアを開けると、階段を上ってきた不動産屋のリタが立っていた。
「おはようございます、レオンさん」
「ああ、おはよう。何かあったのか?」
「はい。実は...」
リタは申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「大家さんが、実験場の件で少し...」
「なるほど」
昨日の契約で借りた裏庭のことか。
「バートさんに会いに行こう」
* * *
「申し訳ございません」
1階の大家の部屋で、バートが頭を下げた。
「隣家から苦情が来てしまいまして。実験場として使用されるなら、もう少し整備が必要かと」
「具体的には?」
「防音と、魔力漏れ対策でございます」
なるほど、確かにその通りだ。
「分かりました。それなら...」
懐から、昨日の実験で作った水晶を取り出す。
「これを使って、整備してみましょうか」
バートの目が輝いた。
「これは...高品質の水晶でございますね?」
「ああ。防音壁と魔力遮断の材料として使える」
「建材としてお使いになるなら、私の工具をお貸しいたしましょう。以前は建築家をしておりましてな」
これは予想外の収穫だった。
「そうか、助かる」
* * *
「ここまでくれば十分だな」
夕方になって、実験場の整備が完了した。
水晶を組み込んだ防音壁は、想像以上の効果を発揮している。魔力遮断も完璧だ。
「バートさんの技術は本物だな」
「いえいえ」バートは照れ臭そうに髪をかく。「良い材料があってこそですよ」
「それより」
バートは真剣な表情になった。
「他にも、こんな素材は作れますか?」
「ああ」
机に広げた装備を指差す。
「これから換金しようと思っていた装備の一部を素材にして、実験してみないか?」
バートの目が輝いた。
* * *
「予想以上の成果だったな」
夜更け、部屋に戻った俺は満足げに帳簿をめくる。
装備の換金と実験、そして大家との取引。全て、計画以上の結果が出た。
「装備の換金で8万ゴールド」
市場価値の8割で売れたのは上出来だ。
「そして実験用に残した分で...」
鎧の一部を素材に変換した建材は、バートが7万ゴールドで買い取ってくれた。
「合計15万ゴールドか」
窓の外を見る。月明かりが、実験場の新しい壁を照らしている。
「計画は、順調に進んでいるな」
机の引き出しから、最初の短剣を取り出す。
刃を磨きながら、昔を思い出す。
あの頃は、まだ何も分からない冒険者だった。それが今では...
「効率的じゃないんだけどな」
短剣を大切そうに収める。
「少しだけ、感傷に浸るのも悪くないか」
そう呟いて、俺は静かに微笑んだ。
効率だけを追い求める人生も、時には思い出に浸る余裕も必要だ。それが、本当の意味での効率なのかもしれない。
===============================================
連続投稿12話目です。
連続投稿はこれで最後になります。
1/2から毎日正午12時に投稿していきます。
よろしくお願いいたします。
===============================================
日の出とともに、俺は中央市場に足を運んでいた。パーティーの会計係として何度も通った道だ。
「高級素材の価格が、この一年で2割増か」
帳簿に数字を書き込む。パーティー時代から築いた取引先との関係は、今でも役に立ちそうだ。
「おや、レオンじゃないか」
声をかけてきたのは、古くからの知り合い、武具商のマーカスだ。パーティーの装備の手入れでは、いつもお世話になっていた。
「ちょうどいい。相談がある」
「ほう?」
「今日の午後、装備一式を売りに来たいんだが」
マーカスは興味深そうに顎をさする。
「冒険者を辞めるのか?」
「ああ」
「そうか...なら、市場価値の8割で買い取ろう。お前との付き合いは長いからな」
「助かる」
取引の約束を済ませ、次は得意先の素材商を回る。相場は把握していたが、今後の取引のために挨拶回りは欠かせない。
昼過ぎ、市場での用事を終えて自室に戻る。
「さて、装備の整理をするか」
剣、盾、鎧...どれも、それなりの品質のものだ。
「もう必要ないな」
帳簿を開き、装備の市場価値を書き出していく。
「ロングソード...3万5000ゴールド。盾が1万5000ゴールド。鎧が5万ゴールド...」
計算すると、装備一式で優に10万ゴールドは超える。一般市民の年収30万ゴールドの3分の1だ。
「全て売ればかなりの資金になるが...」
手に取った短剣に、目が留まる。最初の冒険で手に入れた戦利品だ。まだ冒険者になりたての頃、D級魔獣との戦いで勝ち取った思い出の品。
「感傷的になるのは効率が悪いんだが...一つくらいは、記念として取っておいてもいいか」
短剣を脇に置き、残りの装備を見渡す。
「他は全て換金だな」
その時、ノックの音が響いた。
「はい」
ドアを開けると、階段を上ってきた不動産屋のリタが立っていた。
「おはようございます、レオンさん」
「ああ、おはよう。何かあったのか?」
「はい。実は...」
リタは申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「大家さんが、実験場の件で少し...」
「なるほど」
昨日の契約で借りた裏庭のことか。
「バートさんに会いに行こう」
* * *
「申し訳ございません」
1階の大家の部屋で、バートが頭を下げた。
「隣家から苦情が来てしまいまして。実験場として使用されるなら、もう少し整備が必要かと」
「具体的には?」
「防音と、魔力漏れ対策でございます」
なるほど、確かにその通りだ。
「分かりました。それなら...」
懐から、昨日の実験で作った水晶を取り出す。
「これを使って、整備してみましょうか」
バートの目が輝いた。
「これは...高品質の水晶でございますね?」
「ああ。防音壁と魔力遮断の材料として使える」
「建材としてお使いになるなら、私の工具をお貸しいたしましょう。以前は建築家をしておりましてな」
これは予想外の収穫だった。
「そうか、助かる」
* * *
「ここまでくれば十分だな」
夕方になって、実験場の整備が完了した。
水晶を組み込んだ防音壁は、想像以上の効果を発揮している。魔力遮断も完璧だ。
「バートさんの技術は本物だな」
「いえいえ」バートは照れ臭そうに髪をかく。「良い材料があってこそですよ」
「それより」
バートは真剣な表情になった。
「他にも、こんな素材は作れますか?」
「ああ」
机に広げた装備を指差す。
「これから換金しようと思っていた装備の一部を素材にして、実験してみないか?」
バートの目が輝いた。
* * *
「予想以上の成果だったな」
夜更け、部屋に戻った俺は満足げに帳簿をめくる。
装備の換金と実験、そして大家との取引。全て、計画以上の結果が出た。
「装備の換金で8万ゴールド」
市場価値の8割で売れたのは上出来だ。
「そして実験用に残した分で...」
鎧の一部を素材に変換した建材は、バートが7万ゴールドで買い取ってくれた。
「合計15万ゴールドか」
窓の外を見る。月明かりが、実験場の新しい壁を照らしている。
「計画は、順調に進んでいるな」
机の引き出しから、最初の短剣を取り出す。
刃を磨きながら、昔を思い出す。
あの頃は、まだ何も分からない冒険者だった。それが今では...
「効率的じゃないんだけどな」
短剣を大切そうに収める。
「少しだけ、感傷に浸るのも悪くないか」
そう呟いて、俺は静かに微笑んだ。
効率だけを追い求める人生も、時には思い出に浸る余裕も必要だ。それが、本当の意味での効率なのかもしれない。
===============================================
連続投稿12話目です。
連続投稿はこれで最後になります。
1/2から毎日正午12時に投稿していきます。
よろしくお願いいたします。
===============================================
22
あなたにおすすめの小説
「お前の代わりはいる」と追放された俺の【万物鑑定】は、実は世界の真実を見抜く【真理の瞳】でした。最高の仲間と辺境で理想郷を創ります
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の代わりはいくらでもいる。もう用済みだ」――勇者パーティーで【万物鑑定】のスキルを持つリアムは、戦闘に役立たないという理由で装備も金もすべて奪われ追放された。
しかし仲間たちは知らなかった。彼のスキルが、物の価値から人の秘めたる才能、土地の未来までも見通す超絶チート能力【真理の瞳】であったことを。
絶望の淵で己の力の真価に気づいたリアムは、辺境の寂れた街で再起を決意する。気弱なヒーラー、臆病な獣人の射手……世間から「無能」の烙印を押された者たちに眠る才能の原石を次々と見出し、最高の仲間たちと共にギルド「方舟(アーク)」を設立。彼らが輝ける理想郷をその手で創り上げていく。
一方、有能な鑑定士を失った元パーティーは急速に凋落の一途を辿り……。
これは不遇職と蔑まれた一人の男が最高の仲間と出会い、世界で一番幸福な場所を創り上げる、爽快な逆転成り上がりファンタジー!
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
追放された荷物持ち、スキル【アイテムボックス・無限】で辺境スローライフを始めます
黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティーで「荷物持ち」として蔑まれ、全ての責任を押し付けられて追放された青年レオ。彼が持つスキル【アイテムボックス】は、誰もが「ゴミスキル」と笑うものだった。
しかし、そのスキルには「容量無限」「時間停止」「解析・分解」「合成・創造」というとんでもない力が秘められていたのだ。
全てを失い、流れ着いた辺境の村。そこで彼は、自分を犠牲にする生き方をやめ、自らの力で幸せなスローライフを掴み取ることを決意する。
超高品質なポーション、快適な家具、美味しい料理、果ては巨大な井戸や城壁まで!?
万能すぎる生産スキルで、心優しい仲間たちと共に寂れた村を豊かに発展させていく。
一方、彼を追放した勇者パーティーは、荷物持ちを失ったことで急速に崩壊していく。
「今からでもレオを連れ戻すべきだ!」
――もう遅い。彼はもう、君たちのための便利な道具じゃない。
これは、不遇だった青年が最高の仲間たちと出会い、世界一の生産職として成り上がり、幸せなスローライフを手に入れる物語。そして、傲慢な勇者たちが自業自得の末路を辿る、痛快な「ざまぁ」ストーリー!
スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる