都市伝説レポート

君山洋太朗

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第130回 スレンダーマン

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都市伝説レポート 第130回

「スレンダーマン」

取材・文: 野々宮圭介


雨の降りしきる水曜日の午後、編集部に一本の電話が入った。女性の声は震えていた。

「息子が『黒い人』を見たと言うんです。空に浮かぶ、顔のない長身の...」

三度目の呼び出し音が鳴る前に私は受話器を取った。都市伝説研究に身を捧げて10年、こうした「第一報」に鋭敏に反応する習慣が身についている。話を聞けば聞くほど、それは海外発の有名な都市伝説「スレンダーマン」の特徴と一致していた。

本来なら、インターネット上で生まれた創作キャラクターに過ぎないはずのこの存在が、なぜ日本の片隅の小学生の夢に現れるのか。そして、なぜあの悲劇的な事件を引き起こしたのか。一連の謎を解くため、私は取材を開始した。


スレンダーマンの発祥を探る旅は、ネットの深みへと私を導いた。

「Something Awful」というインターネットフォーラムの古いスレッドを発掘する作業は容易ではなかった。2009年6月、ユーザー「Victor Surge」が投稿した二枚の白黒写真。子供たちの群れの背後に立つ異様に背の高い、スーツ姿の人物。顔はぼかされ、不自然に長い手が伸びている。

「1983年、地元の公園から14人の子供たちが消えた。犯人は捕まらなかった」という架空のキャプションが添えられていた。

私は「Victor Surge」にコンタクトを試みたが、彼は長らく公の場から姿を消していた。代わりに、都市伝説のデジタル伝播を研究するニューヨーク大学メディア学部のジュエル・マシューズに話を聞いた。

「スレンダーマンの恐ろしさは、その『集合創作性』にあります」とジュエル氏は語る。

「一人の創作者から生まれたものの、インターネット上で無数の人々が物語を追加し、映像を作り、経験を『報告』した。その結果、誰も全体像を把握できない怪物が誕生したのです」

確かに私の調査でも、スレンダーマンの特徴は語り手によって微妙に異なっていた。背が異常に高い。黒いスーツを着ている。顔がない。触手や複数の腕を持つことがある。子供を狙う。近くにいると頭痛や咳を引き起こす。カメラの故障を引き起こす...。唯一の共通点は、彼の存在が「恐怖」と「支配」を象徴していることだった。


スレンダーマンが単なるインターネット上の怪談から現実世界に飛び出したのは、2014年5月31日のことだ。

アメリカ合衆国ウィスコンシン州ウォーキショーで、当時12歳の少女二人、モーガン・ガイザーとアニッサ・ワイアーが、同級生のペイトン・ルトナーを森に誘い出し、19箇所も刺したという痛ましい事件が発生した。幸いにも被害者は一命を取り留めたが、この事件の動機こそが衝撃的だった。

「スレンダーマンのために彼女を生贄として捧げようとした」

ウォーキショー警察署の記録資料によれば、二人の少女は「Creepypasta Wiki」というホラー創作サイトでスレンダーマンについて読み、その存在を信じるようになったという。彼の「使者」になるためには人を殺す必要があると考え、計画的に友人を襲ったのだ。

事件から7年経った2021年初頭、私はウォーキショーを訪れた。現地の記者として事件を追ったジーン・ブラッドフォード氏は、当時の状況をこう振り返る。

「あれは単なる少女たちの妄想ではなく、インターネット時代の新たな『民話』の力を示す出来事でした」とブラッドフォード氏は言う。

「彼女たちの両親は、子供たちがネット上で何を見ているのか全く知らなかった。そして子供たちは、現実と虚構の境界があいまいになっていった」

特に印象的だったのは、少女たちの供述調書の一部だ。

「彼は見ている。いつも見ている。逃げられない」と二人は口をそろえて言ったという。

この事件の司法的結末は、アニッサ・ワイアーが2017年に精神障害を理由に無罪を主張し、25年間の精神科施設収容判決を受けた。モーガン・ガイザーは2018年に40年間の精神科施設収容判決を受けたが、2020年に控訴裁判所によって再審理が命じられ、2021年に最終的に満25歳まで精神科施設に収容されることが決まった。


帰国後、冒頭の電話をくれた母親と息子に会うため、私は神奈川県の住宅街を訪れた。

小学4年生の健太(仮名)は、明るい少年だった。しかし、「黒い人」の話題になると、彼の表情は曇った。

「窓の外に立ってる。長い手があって、顔がない」と健太は言う。

「YouTubeで見た動画と同じ」

母親の話によれば、健太は友人からスマホで「スレンダーマンごっこ」というゲームを教えられたという。「森に行って、細長い人を見つけたら記念写真を撮る」というシンプルなものだったが、それ以来、健太は夜に悪夢を見るようになったそうだ。

神奈川県内の小学校三校に問い合わせたところ、同様の「遊び」が流行っているという情報を得た。さらに、国内の掲示板やSNSでは「スレンダーマン目撃情報」がここ数年で急増していることがわかった。

児童心理学者の村田博士によると、「子どもたちは大人が思う以上にインターネット上の情報に触れている。特に恐怖体験は強い印象を残し、それが集団的な『見える化』につながることがある」とのことだ。


取材を続けるうちに、一つの疑問が私の中で大きくなっていった。なぜスレンダーマンという存在は、これほどまでに人々の心を捉えるのか。

民俗学者の乙羽教授に尋ねてみた。

「昔から『森に住む長身の怪物』は世界中の民話に登場しています」と乙羽教授は言う。

「ドイツの『高い男(Der Großmann)』、北欧の『細長い男(Slender Mand)』など、類似した伝承は多い。スレンダーマンは現代のデジタル民話として、これらの古い恐怖を再構成したのでしょう」

さらに教授は興味深い視点を提供してくれた。

「現代社会の不安―監視社会、権威への恐怖、子どもの安全への懸念―これらが具現化したのがスレンダーマンなのかもしれません」


帰路の電車の中、窓に映る自分の顔を見つめながら考えた。スレンダーマンは実在するのか。答えは簡単ではない。

物理的実体として存在するかどうかは別として、彼が人々の心の中で「存在」していることは間違いない。ウィスコンシンの少女たちにとって、健太くんにとって、そして今このページを読んでいるあなたの想像の中で。

都市伝説は単なる作り話ではない。それは私たちの集合的な不安や恐怖が結晶化したものだ。スレンダーマンという「顔のない恐怖」は、デジタル時代の新たな民話として、今も密かに広がり続けている。

彼を信じるか否かは、あなた次第だ。だが一つだけ言えることがある―スレンダーマンの物語に触れた後、暗い森を一人で歩くとき、あるいは夜中に窓の外を見るとき、あなたは無意識に「背の高い影」を探してしまうだろう。

そして、もしも見つけてしまったら...。

(了)


*本誌では読者の皆様からの都市伝説情報を募集しています。身近な不思議体験がありましたら、編集部までお寄せください。
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