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特別
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「二人とも来てくれてありがとう」
わたしはお昼休憩の時間に二人を音楽室に呼んだ。
授業中にちゃんと伝える決心はしたつもりだ。
二人とも音楽室に訪れてから一言も発さず、重く冷たい空気が流れている。そんな空気を和らげるかのように今日も日の光は温かくわたしを包み込む。わたしに勇気を与えてくれているみたいだ。
(よしっ)
わたしは一度大きく深呼吸をして口を開く。
「夢叶」
「うん、姫ちゃん」
「わたしね、ずっと夢叶のことが好きだった。わたしが中学生の頃からずっと傍にいてくれて嬉しかった」
「……! じゃあ!」
「でもごめん。わたし夢叶とは付き合えない」
「え……」
わたしの出した結論は夢叶とは付き合えないだった。
「どうして…… なんで!? 姫ちゃんはわたしのことが好きなんじゃないの!?」
「夢叶のことは好きだよ」
「だったらなんで……!?」
「好きだけどわたしが夢叶に向けてる感情は恋じゃないの」
「え…… じゃあ姫ちゃんはわたしのことが好きじゃなかったの?」
「ううん。好きだったよ。でもね、恋って一時的なものなんだよ」
昔のわたしは確かに夢叶に恋をしていた。一緒にいるとドキドキしたし、夢叶のころころ変わる表情を見るのが楽しかった。これからもわたしはずっと夢叶のことを好きでい続けるんだろう。あの時のわたしはそう考えていた。
でも、今の夢叶と一緒にいるとドキドキするというよりかは安心するという感情の方が大きい。時間が経つに連れてわたしは自分の夢叶に対する感情が変わって行っていたことにわたしはずっと気がついていなかったのだ。
今のわたしが確かに好きだと言えるのは沙耶だった。
「わかんない…… わたしわかんないよ、姫ちゃん」
「ごめんね、夢叶……」
「わたしの方が…… わたしの方がずっと姫ちゃんと一緒にいたのに…… 朝雛さんなんてまだ出会ってほとんど経ってないのに!」
そうだ。まだわたしと沙耶は出会って一か月すら経っていない。
でも……
「でもわたしね、沙耶といると幸せなの」
いつも同じ毎日を繰り返すだけだったわたしの日常。何も変化のなかったわたしの日常。それを変えてくれたのは沙耶だった。
今まで朝は机に伏せているだけの状態から沙耶と一緒に話すようになって楽しかったし、この子わたしのこと好きなんだって思うと自然と心臓がドキドキしたりもした。クラスの子に嫉妬したりもした。
お母さんとお父さんに沙耶と付き合っていることがバレたときには本当にハラハラして怖くなった。でもお父さんとお母さんの大切さを実感して心が締め付けられるほどの感動が押し寄せてきた。
沙耶と一緒にいると楽しいこと、ドキドキすること、嫉妬をすること。いろんな感情がわたしの中で一つになって幸せが生まれたのだと思う。
「きっとこれが本当に好きっていう感情なんだと思う」
わたし今胸を張って沙耶が好きだと言える。
「ごめん、夢叶」
「ううっ…… 姫ちゃん……」
夢叶は泣きそうになっていた。
そんな夢叶の様子を見てわたしは心が痛む。夢叶を傷つけたいわけじゃない。でもきっとわたしの言葉は夢叶を傷つけてしまった。
夢叶といて退屈だったわけではない。朝一緒にいろんな話をしながら登校するのも楽しかったし、帰りまで夢叶と一緒にいれることは嬉しかった。
夢叶の存在がわたしを支えてくれたのは確かだった。
でもわたしはそれでもずっとどこか満たされない気持ちを抱いていた。
自分でもわがままなことはわかっていた。夢叶がわたしと一緒にいてくれるのにそんなことを思ってはいけない。わたしは夢叶が傍にいてくれるだけでいい。
そう思い込むようにしていたわたしの心にスッと入り込んできたのが沙耶だったのだ。
わたしは夢叶を力強く抱きしめる。
「でもね、夢叶。夢叶はわたしの特別な人だよ。それは一生変わらない」
「……わたしは姫ちゃんの特別?」
「うん、特別だよ。わたしの親友は夢叶一人だけだもん」
わたしがそう言うと彼女は我慢していた涙のダムが決壊したかのように大粒の涙をぼろぼろと零しながら大声をあげて泣いた。
わたしはそれに呼応するかのように夢叶を強く抱きしめ、夢叶が泣き止むまでずっと背中をさすり続けた。
わたしはずっと夢叶の沼から抜けないといけないと考えていた。でもそれは間違いだった。抜ける必要なんてない。だってわたしにとって夢叶はずっと大好きで大切な存在なのだから。
「落ち着いた?」
「うん…… わたしね、ずっと姫ちゃんのことが好きだったの」
「うん」
「ずっと姫ちゃんのことばかり考えてた」
「うん」
「姫ちゃんは…… 姫ちゃんは朝雛さんのことが好き?」
「うん、大好き」
「っ…… そんな幸せそうな顔したらもうわたし何も言えないじゃん……」
「ごめんね」
「……はあ。わたしきっとまだ姫ちゃんのことを諦められない。でもわたし頑張るから。頑張って姫ちゃんのこと諦めるから…… それまではずっと姫ちゃんを好きでいてもいい……?」
「うん」
「ありがとう。ねえ朝雛さん、姫ちゃんを悲しませたらわたし朝雛さんのこと絶対許さないから。わかった?」
「うん、肝に銘じておくよ。姫華のことはわたしが絶対に幸せにするから」
「…………じゃあね」
夢叶はそう言うと走って音楽室を去って行った。追いかけることもできないわたしは夢叶の顔にはまた涙が戻っていたことに気が付かないふりをすることしかできなかった。
わたしはお昼休憩の時間に二人を音楽室に呼んだ。
授業中にちゃんと伝える決心はしたつもりだ。
二人とも音楽室に訪れてから一言も発さず、重く冷たい空気が流れている。そんな空気を和らげるかのように今日も日の光は温かくわたしを包み込む。わたしに勇気を与えてくれているみたいだ。
(よしっ)
わたしは一度大きく深呼吸をして口を開く。
「夢叶」
「うん、姫ちゃん」
「わたしね、ずっと夢叶のことが好きだった。わたしが中学生の頃からずっと傍にいてくれて嬉しかった」
「……! じゃあ!」
「でもごめん。わたし夢叶とは付き合えない」
「え……」
わたしの出した結論は夢叶とは付き合えないだった。
「どうして…… なんで!? 姫ちゃんはわたしのことが好きなんじゃないの!?」
「夢叶のことは好きだよ」
「だったらなんで……!?」
「好きだけどわたしが夢叶に向けてる感情は恋じゃないの」
「え…… じゃあ姫ちゃんはわたしのことが好きじゃなかったの?」
「ううん。好きだったよ。でもね、恋って一時的なものなんだよ」
昔のわたしは確かに夢叶に恋をしていた。一緒にいるとドキドキしたし、夢叶のころころ変わる表情を見るのが楽しかった。これからもわたしはずっと夢叶のことを好きでい続けるんだろう。あの時のわたしはそう考えていた。
でも、今の夢叶と一緒にいるとドキドキするというよりかは安心するという感情の方が大きい。時間が経つに連れてわたしは自分の夢叶に対する感情が変わって行っていたことにわたしはずっと気がついていなかったのだ。
今のわたしが確かに好きだと言えるのは沙耶だった。
「わかんない…… わたしわかんないよ、姫ちゃん」
「ごめんね、夢叶……」
「わたしの方が…… わたしの方がずっと姫ちゃんと一緒にいたのに…… 朝雛さんなんてまだ出会ってほとんど経ってないのに!」
そうだ。まだわたしと沙耶は出会って一か月すら経っていない。
でも……
「でもわたしね、沙耶といると幸せなの」
いつも同じ毎日を繰り返すだけだったわたしの日常。何も変化のなかったわたしの日常。それを変えてくれたのは沙耶だった。
今まで朝は机に伏せているだけの状態から沙耶と一緒に話すようになって楽しかったし、この子わたしのこと好きなんだって思うと自然と心臓がドキドキしたりもした。クラスの子に嫉妬したりもした。
お母さんとお父さんに沙耶と付き合っていることがバレたときには本当にハラハラして怖くなった。でもお父さんとお母さんの大切さを実感して心が締め付けられるほどの感動が押し寄せてきた。
沙耶と一緒にいると楽しいこと、ドキドキすること、嫉妬をすること。いろんな感情がわたしの中で一つになって幸せが生まれたのだと思う。
「きっとこれが本当に好きっていう感情なんだと思う」
わたし今胸を張って沙耶が好きだと言える。
「ごめん、夢叶」
「ううっ…… 姫ちゃん……」
夢叶は泣きそうになっていた。
そんな夢叶の様子を見てわたしは心が痛む。夢叶を傷つけたいわけじゃない。でもきっとわたしの言葉は夢叶を傷つけてしまった。
夢叶といて退屈だったわけではない。朝一緒にいろんな話をしながら登校するのも楽しかったし、帰りまで夢叶と一緒にいれることは嬉しかった。
夢叶の存在がわたしを支えてくれたのは確かだった。
でもわたしはそれでもずっとどこか満たされない気持ちを抱いていた。
自分でもわがままなことはわかっていた。夢叶がわたしと一緒にいてくれるのにそんなことを思ってはいけない。わたしは夢叶が傍にいてくれるだけでいい。
そう思い込むようにしていたわたしの心にスッと入り込んできたのが沙耶だったのだ。
わたしは夢叶を力強く抱きしめる。
「でもね、夢叶。夢叶はわたしの特別な人だよ。それは一生変わらない」
「……わたしは姫ちゃんの特別?」
「うん、特別だよ。わたしの親友は夢叶一人だけだもん」
わたしがそう言うと彼女は我慢していた涙のダムが決壊したかのように大粒の涙をぼろぼろと零しながら大声をあげて泣いた。
わたしはそれに呼応するかのように夢叶を強く抱きしめ、夢叶が泣き止むまでずっと背中をさすり続けた。
わたしはずっと夢叶の沼から抜けないといけないと考えていた。でもそれは間違いだった。抜ける必要なんてない。だってわたしにとって夢叶はずっと大好きで大切な存在なのだから。
「落ち着いた?」
「うん…… わたしね、ずっと姫ちゃんのことが好きだったの」
「うん」
「ずっと姫ちゃんのことばかり考えてた」
「うん」
「姫ちゃんは…… 姫ちゃんは朝雛さんのことが好き?」
「うん、大好き」
「っ…… そんな幸せそうな顔したらもうわたし何も言えないじゃん……」
「ごめんね」
「……はあ。わたしきっとまだ姫ちゃんのことを諦められない。でもわたし頑張るから。頑張って姫ちゃんのこと諦めるから…… それまではずっと姫ちゃんを好きでいてもいい……?」
「うん」
「ありがとう。ねえ朝雛さん、姫ちゃんを悲しませたらわたし朝雛さんのこと絶対許さないから。わかった?」
「うん、肝に銘じておくよ。姫華のことはわたしが絶対に幸せにするから」
「…………じゃあね」
夢叶はそう言うと走って音楽室を去って行った。追いかけることもできないわたしは夢叶の顔にはまた涙が戻っていたことに気が付かないふりをすることしかできなかった。
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