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みかん星人

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【第1話】ポンコツコンビ プラムとアロー

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 赤信号。
 停車して、我慢していた欠伸あくびを思う存分に味わう。眠気は体にぶら下げたまま。ぽわぽわとした、シャボン玉のようなものが複数、頭の中を漂っている。
 まぶたはまるで、壊れた自動式シャッターのよう。勝手に降りてきては、降り注ぐ太陽光を遮断しようとする。押さえなければ。気をつけなければ今にも閉じてしまいそうだ。
 
 青信号になった。前の車のテールランプが消えた。クラッチペダルを踏み、素早くアクセルペダルを踏む。
 車内には、カッコいいという理由だけで選んだ洋楽が流れている。もちろん、何と言っているか分からない。ルームミラーには、アメリカ旅行で買ったディズニーキャラクターのキーホルダーが飾ってあって、アスファルトの道路の起伏で車体が揺れるたびにぐるぐる振り回されている。

 やがて三叉路に突き当たった。隣の車線で左折していく観光バスがどこから来たのか、気になりながら右折した。大通りに出たと思ったらすぐ左折。景色はあっという間に小さな道路に変わった。
 両脇にはマンションやら一軒家やら、学校やら。速度を落とし、徐行運転で閑静な住宅街を進む。
 舗装道路が緑に色分けされた歩行者専用通路には、手押し車にネギやらじゃがいもなんかの野菜をたくさん載せた老婆がとぼとぼと。将来の自分もあんな生活ができるかもと淡い期待を抱いてみる。
 しかし、少し先のアパートから出てきた黒いスーツを着た長髪の女を見つけて、希望はあっさり潰えた。
 ・・・時間ぴったし。合流完了だ。車を停車させると、黒いスーツの女性は躊躇なくドアを開け、隣の助手席に乗り込んできた。

「おひさー」 

「ウイーッス。なんだ、髪切るんじゃなかったのか?」

「なーんか長髪が気に入っちゃってね。そのまんまにしてんのよ」

 助手席に座った女性がシートベルトをしたのを確認して、アクセルを踏む。再び大通りに出て、しばらく道のりだ。

「相変わらずやかましい車ねぇ。パンツァーレボリューションだったっけ? 部屋からでもアンタが来たって分かったわよ」

「バーカ、この音が良いんだろうが。あと、ランサーエボリューションな。ちなみにこれはセブン。いつになったら覚えんだ」

「そうでしたそうでした。それよりさアンタ、なんか食べ物無い? 寝坊しちゃってさ。今朝から水しか飲んでないのよね」

「これはこれは、奇遇だねぇ。アタシも一緒」

「マジ?! ・・・ってことは?」

「グローブボックスにコンビニで買ったパンとかおにぎりとか入ってる」

「最高! 少ーし貰ってもいいですかねぇ?」

「目ぇ輝かせんな気持ち悪い」

「お願い、少しだけ! ンね、ホントよ?」

「ったく・・・。レーズンパンの袋開けてよ。4個入りのやつ。分けたげるから。1個ひと口サイズにちぎってアタシの口に運んでくれ」

「さっすがプラムちゃん。分かってるぅ!」

「うるせぇ。いいから早くしろっての。あと、その名前嫌いだから仕事以外で使うなって何回言ったら分かるんだ」

「ハイハイ分かりましたよ。ハイ、あーん」
 
 ふたりが乗るランサーエボリューションⅦは、やがて6階建ての建物に辿り着いた。地下駐車場に続く道に入ると、懐かしい顔が見えてきた。二人と同じく黒いスーツを着ており、短髪で細身のこの男。プラムはフロントドアガラスを開けながらブレーキを踏み、停車した。

「よぉバン」

「やっぱプラムの姉貴だ!」

「お久しぶりです! ご覧の通り、相変わらず警備員ですよ」

 にこやかに話すバンは、視野をプラムからランサーエボリューションⅦに移した。

「しっかし、相変わらずいい車ですね。一発で姉貴のだって分かりましたよ。・・・あれ? アローの姉貴も一緒なんですね。珍しい」

 助手席に座るアローは、ちょうどプラムからもらったレーズンパンを頬張っていたところだ。口の中に物が入っていては喋りづらいので、適当に手で「久しぶり、お元気?」とジェスチャーを送る。
 そんな彼女に呆れた様子のプラムは、親指でアローを指差した。

「こいつの車は今頃、東シナ海の魚と一緒に泳いでるからな」

 そう聞いて思い出したのか、唐突にバンが笑い始めた。

「アハハ、そういえばアローの姉貴、どこぞの工作員を自分の車ごと海に放り捨てたことありましたね」  

「そうそう。真夜中に港まで追い詰めてよ、向こうが馬鹿みたいに撃ってくるから、ボンネットとかフロントバンパーが穴だらけになってさ。防弾仕様のフロントガラスもヒビだらけになったもんな。それにブチギレて、そのままアクセル全開の突進攻撃ってな」

 ハンドルを手のひらでポンポンと叩きながら、ゲラゲラと笑うプラム。アローが頬を赤らめる。

「バカ、余計なこと言わないでよね。大体、あの男が私の車にしがみつくのが悪いんでしょ」

「お前が突進なんかするからだろうが。お陰で助手席にいたアタシまでカッタいアスファルトにダイブする羽目になったんだからな」

 結局、工作員がしがみついたままの車は、勢いそのままに海にダイブ。両者とも浮き上がってくることはなかった。寸前で車から飛び降りたプラムとアロー両名は、打撲と擦り傷だらけの体で歩いて本部まで帰る羽目になるという過去を持つのだ。
 それ以来、アローは車の運転を禁止されている。仕方なくプラムが送迎しているのだ。

「とにかく元気そうで何よりです。リーダーも待ってますよ」

 バンが言った『リーダー』という単語に、プラムとアローはぎくりとした。

「え、もう来てんの? リーダー」

「ええ。最近何かの啓発本を読んだらしくて、朝早く来るようになったんすよ」 

「相変わらずねぇ・・・あの人も」  
 
 さて、地下駐車場に車を停め、車から降りたプラムは、アローと共にすぐ近くにあるエレベーターに乗り込んだ。5のボタンを押し、素早く指を閉扉へいひボタンに滑り込ませる。やがて分厚いスライドドアが閉まり、蛍光灯に照らされた天井から軽い重みが頭と肩にかかってきた。

 アローは、おもむろにポケットから櫛を取り出した。エレベーター内の壁に貼り付けられた大きな鏡と対面し、中に映る自分と向き合う。長く絹のように艶のある髪を丁寧に整えるアローを横目に、プラムはスマートフォンを取り出し、ゲームアプリを開いた。その様子を鏡越しに見ていたアローは、櫛で髪を解く手を止めずに、呆れた様子でプラムに言った。

「アンタまだそのゲームやってたのね」

「まだって何だよ。面白いんだぞコレ」

「ただのブロック崩しじゃないの。しかももう5階に着くんだから、やってる場合じゃないでしょ」

「ログインボーナスで3列まとめて消せるアイテムが貰えンだよ」

 やがて、頭と肩にかかっていた軽い重みがスッと消え、一瞬だけフワッと体が浮くような、浮遊感がふたりに伝わった。家のチャイムのような音が鳴り、分厚いスライドドアが開く。目の前に広がる長い廊下の突き当たりにドアがある。リーダーの部屋だ。ふたりは長い廊下を歩き出した。右手には会議室、左手にはトイレや清掃用具の倉庫。

「なーんも変わってないな」

 プラムのつまらなそうな声が廊下中に反響する。

「1年ぽっちで何が変わんのよ」

 ずっとスマートフォンをいじり続けるプラムを横目に、アローは胸元のネクタイを正しながら、マイペースに歩く彼女と歩調を合わせた。
 ドアの目の前まで来て、やっとプラムもスマートフォンポケットにしまい、ネクタイの根元を締め直した。ドアを軽くノックし、数瞬待つ。

「どうぞ」

 部屋の中から聞こえてきたのは女性の声。滑らかでありながら凛とした美声だ。
 プラムがドアノブを捻り、ドアを開ける。ふたりは、リーダー室に入って行った。
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