魔界戦記譚-Demi's Saga-

九傷

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第一章 レイフの森

第15話 イオとの出会い

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「女子供は現在、長の家に集められている様です。二頭の奴もそこに…。奴のイビキはデカいので、すぐにわかりました」


 オーク達の代表者であるソクが、偵察を終えて待機地点まで戻ってきた。
 他の偵察部隊も続々と戻ってき、それぞれが報告を始める。


「周囲の家屋に他のトロールが待機しているのを確認しました。少なくとも四人は目視まで出来ています」


 ガウからの情報では、二頭のトロール、ゴウを除けば、トロールは十人で間違いないらしい。
 うち、三人はガウ達であるため、残りは七人…
 その内の四人が確認出来たと言う事は、あと三人か…


「私からも報告です。西の家屋にトロールが1人見張りをしている場所がありました。恐らくはそこがガウ達の言っていた場所です」


「…これで一人を除けば、所在がわかったワケだね。みんな、報告ありがとう」


 ガウには側近が三人いるらしい。
 その内、二人はデイとダオなのだが、もう一人はあの夜襲に参加していなかった。
 話によると、その者はゴウの命令で待機を命じられたのだとか…

 ガウ達が率先して行くと言ってるのに、あえて一人を分断するのは若干違和感がある。
 これは勘だが、もしかしたら、ガウ達の態度にゴウは何か感じとっていたのかもしれないな…
 裏切られるとまでは予測していないだろうが、自分の監視下に置く事で、逃亡の抑止くらいは考えていてもおかしくない。

 ともかく、これで少なくともガウ達の話に偽りがない事が証明されたワケだ。

 情報の信頼性は、士気にも関わる重要な要素である。
 これでガウ達の情報に懐疑的だった者たちも、安心して作戦に携われる筈。


「…では作戦通り、西には俺とゲツ達で向かいます。ライはソク達を連れて東へ。ゾノ達は…、可能であれば長の家周辺の監視を頼む。ただ、ケガもまだ治っていないんだし、くれぐれも無理せず、危ないと感じたらすぐ逃げるように」


「…気遣いに感謝する。だが、協力者であるライやお前が戦っているのに、俺達だけ逃げ出すような真似はできん」


 …ゾノを含め、ガウと戦った三人は相当に酷い有様だった。
 俺の見立てでは、数ヶ月は立てないくらいの状態だったのである。
 しかし、実際の所ゾノ達は、数時間の休息で歩ける程度までには回復していた。
 ライもそうだったが、土の精霊の影響が濃く出ているレッサーゴブリンは回復力が優れているのだとか。
 全く、精霊の異常っぷりにはつくづく驚かされるね…


「正直、ゾノ達もだけど、トーヤにだって休んでいて貰いたいけどね? 君だって、かなりの重傷だったんだしさ…。状況が状況なんで、止めることは出来ないけど…」


 ゾノの返答に俺が困った顔をしていると、ライから痛い所を突かれてしまう。


「…俺は十分休んだよ。ガウ達の襲撃時間が早かったのもあって三時間くらいは眠れたし、動くのに支障が無いくらいは回復しているよ」


「それだって本当は信じられないんだけどね…。でも、実際に治ってるからなぁ…」


 俺の足は、脛の辺りで直角に曲がっていた。
 骨の露出こそ無かったものの、間違いなく複雑骨折である。
 他にも全身打撲、裂傷など、まさに満身創痍と言える状態だった。
 にも関わらず、今の俺はそれがまるで幻だったかのようにピンピンとしている。
 そのせいで、超回復力を誇るライにすら変な目で見られてしまったが…

 でもまあ、実際俺の回復力は明らかに異常と言えるだろう。
 正直、完治している足を見たときは、自分でも引いてしまった程である。
 確かに、以前から傷の治りが早いなとは思っていたのだが、まさか骨折クラスの大怪我が完治するなどとは思ってもみなかった。
 この夜襲だって、正直サポート程度の役割しか受け負えないと思っていたのに…


「ま、まあ、いいじゃないか! 状況的には助かったワケだし…」


 トロールの相手は、現状俺とライにしか出来ない。
 つまり、俺が戦えなければ、対トロールの戦力はライだけという事になってしまうのである。
 ゾノが健在であれば或いはなんとかなったかもしれないが、今のゾノにそれを望む事は不可能だろう。

 それを踏まえると、現在トロールがいる事が確定している西側には、どうしてもライの力が必要になる。
 当然、東にはオークとレッサーゴブリンだけで向かう事になるのだが、それでは戦力的にはかなり厳しいことが予想された。
 と言うのも、所在不明のトロールが東の家屋に潜んでいる可能性が高いからである。

 もしトロールが居た場合、こちらの被害は甚大だ。
 しかも、長引けば他のトロール達に気づかれる可能性も高くなってくる。
 かといって、東を完全に後回しにした場合、潜んでいたトロールに気づかれて応援を呼ばれる危険性もある。
 つまり俺が戦えなかった場合、どちらにしろ一定のリスクを背負う必要があったのだ。
 それを回避できただけでも、俺の異常な回復力には助けられたと言っていいだろう。


「…さて、話はここまでだ。日が昇ってからでは手遅れになる可能性があるしね…。作戦開始だ。」


「「「「「「応!」」」」」」




 ◇




 ――集落の西


「…誰だ」


 トロールは小屋の入り口を塞ぐように座り込んでいた。
 俺はそれに気配も消さず堂々と近づいた為、トロールもすぐに気づいたようだ。


「俺の名はトーヤ。レッサーゴブリンの代表として、お前に一騎打ちを申し込む」


「ほう…、レッサーゴブリンには見えんが…。まあいい、俺の名はギイ。その申し出を受けよう」


「有り難い。では、行くぞ!」


 一気に間合いを詰め、渾身の突きを見舞う。
 夜闇の中では視認が困難な突きを、ギイはしっかり防いで見せる。


「良い気迫だ! が、見え見え過ぎるぞ! それでは防いでくれと言ってるようなものだ!」


 それはそうだ。
 俺が渾身のフリ・・をした一撃は、防がれる事を目的に放ったのだから…


「そら! 今度はこちらから行く……、なんだ貴様…、異様に臭うな?」


「レイフの森、名産クソテングダケだよ。これでも結構薄めたんだけど、トロールは鼻も利くみたいだし、大分臭うだろ?」


「それがどうし…グッ!?」


 臭いに気を取られ、後ろからの一撃をまともに食らうギイ。
 否、一撃では無かった。
 周囲に潜んでいたゲツ達が次々に襲い掛かり、文字通りギイを袋叩きにする。


「この暗闇で、しかも鼻も利かないとなると、奇襲には気づけなかったようだな」


「キサッ…マッ! 卑怯な…!」


「それは、すまないと思っているよ。なんなら、後で正式にやりあっても良いさ。でも…、今は寝ていてくれ」


 そう言って、俺は今度こそ渾身の一撃をギイの喉に突き入れる。


「っ!?」


 ギイはそれでも抵抗しようとしたようだが、振り下ろそうとした岩の大剣は手から滑り落ち、膝を付いてしまう。
 そこをゲツ達が容赦なく畳みかけ、程なくしてギイは動かなくなった。


「流石です! トーヤさん!」


「…いや、この状況で流石とか言われると凄く複雑なんですが…」


 一騎打ちと見せかけての不意打ち、からの袋叩き。
 まさに外道の所業である…
 しかし、今回ばかりは許してもらいたいところだ…

 若干興奮気味なゲツのセリフに複雑な気分を覚えながらも、俺はギイを縛るように命じて扉の前に歩み寄る。
 小屋の扉は木製であり、特に鍵などは付いていないようであった。
 俺はそのまま扉を開こうとし、


「っ!?」


 すぐさまそこから飛び退いた。
 それとほぼ同時に、扉の隙間から鉄製の剣と思われるモノが突き出される。


「ほぅ…、躱しましたか。中々良い反応をしますね」


 声の主が小屋から姿を現す。
 月明りに照らされ、美しく輝く碧色の長い髪。
 鍛え上げられ、引き締まったその肢体に一瞬見とれてしまったが、すぐに我に返る。


「…貴方が、イオさんですね?」


「…そうですが?」



 これが、この先長い付き合いとなる美しき女剣士イオとの、出会いであった。



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