魔界戦記譚-Demi's Saga-

九傷

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第一章 レイフの森

第14話 ガウ達の決意

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 ガウ達三人は、小屋の中で大人しく座っていた。
 一応、後ろ手に拘束してはあるが、彼らに対してどの程度効果があるかは不明である。

 …いや、恐らく効果は全く無いだろうな。
 彼らを本気で拘束するつもりなら、猛獣用の檻でも用意しないと厳しいだろう。
 まあ、こればかりは今更考えても仕方のない話だ。
 純粋に、彼らを信用するしかあるまい。


「…何の用だ?」


「少し聞きたいことがある。…それにしても、もう完治しているのか。凄いな」


 戦っている時は気づかなかったが、松明の光に照らされて、緑がかった肌が際立って見える。
 あれだけの激戦をしたのにも関わらず、その肌には一切傷が見当たらなかった。


「馬鹿を言え。治っているのは表面上だけだ。陽の元ならまだしも、この程度の光では大した回復は見込めん」


「そうだよ、トーヤ。あれだけやっておいて、本人がそれを言うのは流石に少し嫌味なんじゃないかな?」


 え? あれだけやっておいてって、どういう事だ…?
 俺が与えた傷なんて、カスリ傷ばかりだった筈だが…


「………トーヤ、まさかとは思うけど、さっきのやり取りを聞いても気づかなかったの?」


 俺が不思議そうな顔をしていると、ライはあきれ顔でそう言った。
 さらに、そのやり取りを見てガウが笑い出す。


「……クッ、ハッハッハッ! 外精法まで使って削りに徹し、なお無自覚とはな! さぞや性格の歪んだ者だと想像していたが、ただの鈍感だったとは! 笑わせてくれる!」


「な…? どういうことだ?」


「…やれやれ、いいかいトーヤ、僕があの場に着いた時、ガウは既にかなりの傷を負っていたんだよ」


「えっ!? いやいや、それは嘘だろ…。だって俺の攻撃、全然効いていなかったんだぞ?」


 確かに俺の攻撃は、一応当たってはいた。
 しかし、それなりの手応えを感じていたのにも関わらず、ガウはまるで意に介している様子が無かった。
 その時点で、俺の攻撃では歯が立たないなと思っていたのだが…、あれが効いていたって事か?


「トーヤ、勘違いしているみたいだから言っておくけど、僕でもトロールを一撃で倒すなんて無理だからね?」


「いや、でも実際に…、ってもしかして、俺の攻撃が効いていたから一撃で倒せたって言いたいのか? でも、そんな様子は…………、ああっ!?」


 …思い出した。
 ガウはさっきこう言っていたではないか。
『トロールは感覚を部分的に遮断できる』と。
 それを信じるのならば、もしかして痛覚とかも遮断できるって事だったりするのか…?


「ふん、気づいたようだな。お前の想像通り、俺はあの時、痛覚を遮断して戦っていた」


 やはり、そういう事か…
 それならば、ガウがあの時一切怯まなかった事も頷ける話だ。
「痛み」というのは中々に厄介なもので、我慢すれば良いという問題では無い事が多々ある。
 より強い「痛み」は、反射レベルで動きを鈍らせることもあるからな…
 それが消せるというのは、戦闘において凄まじい強みになり得る。


「…とはいえ、痛みは消せても、実際に攻撃を防いでいない以上傷はどうやっても増えていくのだがな」


 当然、そういう事なのだろうな…
 痛覚の遮断とは、言わば痛みのみに作用する麻酔のようなものだ。
 決して傷を塞ぐような効果は無い。


「さらに言うと、トロールが遮断できる感覚は一度に一つまででとされている」


 ライが、ガウの言葉に補足するように続けてくる。


「一つまで…? あ…、って事は…」


「そうだ、お前の最後の攻撃、あれで俺は痛覚の遮断を諦め、嗅覚を遮断せざるを得なかった」


「そういう事。つまりガウさんは、僕が来た時には既にかなり痛めつけられた状態だったんだよ。ゾノとトーヤの攻撃によってね」


 ああそうか、俺と戦う前は、ゾノ達とも戦っていたんだよな…
 となると俺は、既にある程度ダメージを追ったガウ相手に、散々牽制でチクチク削った挙句、真っ向勝負を避けて飛び道具でひたすら逃げに徹したワケだ。
 …別に、そういう戦い方を否定するつもりは無いんだが、一騎打ちを提案しておいてそれは随分な内容である。


「…そう難しい顔をするな。例えどんな条件であっても、俺が負けたという事実は変わりない。お前が気にする要素は一切無いぞ」


「いや…、そう言ってくれるのはありがたいけど…、その、すまなかった…」


「だから気にする必要は無いと言っているだろう…。全く、飽きれた男だなお前は。まるで昔のデイを見ているようだ…。お前のような奴を見ていると、一から鍛えなおしたくなってくるぞ」


「なっ! ガウ兄! そこで俺に振るんですか!?」


 それまで黙ってこちらのやり取りを見ていたトロールが、急に自分の名前を出されて焦った声を上げる。
 恐らくこれは、ガウなりの気づかいのようなものなのであろう。
 俺はそんなやり取りを見て、完全に毒気を抜かれてしまった。


「…それで、聞きたい事とはなんだ? 言っておくが、こちらの情報について語るつもりも無いぞ」


「ああ、別に情報を引き出しに来たとかじゃないんだ。…一つ確認をしたくてね」


「…言ってみろ」


「オークの集落を襲撃したのは、二頭のトロールだけだと聞いた。これは間違いないか?」


「…ああ。あのオーク達は、ゴウが俺達には何も言わず、勝手に引き連れてきた者達だ。兵隊を手に入れた、と言ってな」


 デイの隣に座る、もう一人のトロールが答える。
 俺はその答えに対し、目線でガウに確認を行う。


「俺もそのダオが言った以上の事は知らん。俺とデイはその時、食料の調達に行ってたからな…」


 ダオという男は、強面揃いのトロールの中でも、比較的大人しそうな顔だちをした男であった。
 ダオは顎に指を当て、思い出すように語りだす。


「まあ正直な所、俺にも状況が余り理解出来なかったんだがな…。ゴウがいきなりオークの集団を連れてきて、「こいつ等の長と決闘して、新しい長になった」と言い出したんだよ。だから、ゴウがどんな経緯でオークの長と決闘したかってのもさっぱりだよ」


 ……予想通り、か。
 この様子では、ガウ達はゴウのしたことについて、何も知らされていないのだろう。
 もし知っていたのであれば、彼らがこのような反応をするとは到底思えない。
 だからと言って、彼らが無実だと言うつもりも無いが…

 何も聞こうとせず、考えもせず、ただ従うというのは、愚直というよりも、単純に愚かである。
 ただの歯車であればそれでも構わないのだろうが、彼らは間違いなく回す側にいる立場だ。
 もし歯車に狂いが生じたのであれば、彼らは自らの手でそれを正さなければならない。
 掟を重んじるのは結構な事だが、ただそれを甘んじて受け入れているだけでは、待っているのは破滅である。


「…ガウ、デイ、ダオ、聞いてくれ。あんた達は知るべきだ…。オーク達が今、どのような状況下に立たされているかを…」




 …………………………


 ………………


 ………




 俺はゴウの襲撃と、その後彼らが従うようになった顛末を全て話した。
 ガウは暫しそれを黙って聞いていたが、話が終わる頃には激昂し、涙を流していた。


「ゴウよ…、そこまで…、堕ちたかっ…!」


 他の二人も、痛みをかみ殺すような表情をして俯いてしまっている。


「…ガウ、俺達はオーク達を救い、この集落も守りたい。…力を貸してくれないか」


 ガウは俯き、押し黙る。
 彼らにとって、掟がとても重要な事はわかっている。
 俺も言ってはみたが、そこまでの期待はしていなかった。
 ただ、ある程度の情報は引き出しておきたいところだが…


「…少し、俺達だけで話させてもらえないだろうか」


「ああ。構わないよ」




 俺とライは、一旦外に出て小屋から少し離れた位置で立ち止まる。


「彼らは、協力してくれるかな?」


「わからない。でも、少しでも協力してもらわないと、厳しい戦いになると思う」


 オーク達の話によると、ゴウはあのガウをさらに上回るような体格をしているそうだ。
 ガウですら二メートル数十センチはありそうな背丈をしているというのに、それ以上となると相当な大きさである。

 体が大きいという事は鈍い、ついついそう思いがちだが、事実は違う。
 実際にはその大きさを支える筋力や、それを運用するだけのエネルギーを保持している為、鈍いなんてことは決してないのだ。
 格闘技に体重別で階級が分けられているのは、何故か?
 それは当然、その差を覆すことが極めて困難だからである。

 普通のトロール相手ですら、ジュニア対ヘビー級のような状態だというのに、それ以上ともなる恐ろしい話である。
 少なくとも、子供 対 ヒグマくらいの差があると思っていいだろう…

 暫くそうやって考えを巡らせていると、小屋の方から俺達を呼ぶ声が聞こえる。
 戻ると、トロール達三人は神妙な面持ちで頭を下げてきた。


「今回の件、本当に申し訳なく思っている。お前達が望むのであれば、俺達は可能な限り協力もさせて貰おう。だから…、どうかゴウを、兄を…、殺してやって欲しい…」





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