魔界戦記譚-Demi's Saga-

九傷

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第一章 レイフの森

第25話 剛体について

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「ぜぇ……、ぜぇ……」


 俺とライは共に激しく息を切らしている。
 それに対し、イオとガウは息も切らさず余裕の体であった。


「どうしました? トーヤ。先日よりも手応えがありませんよ?」


「いや、イオ、そっちが先日より明らかに強くなっているんだよ……。もしかして、アントニオのせいなのか?」


「……確かに、それは少しあるかもしれません。あの古木のお陰で、今まで以上にアントニオが扱いやすくなりましたから。しかし、それはトーヤも同じでしょう? レンリ、でしたか? 同様に恩恵を受けていたようですが……」


「それはアレだよ。俺は既にレンリをちゃんと扱えていたってことじゃないか? 貰った時からしっくり来ていたしね」


「む……。それは聞き捨てなりませんね。それではまるで、私が今までアントニオの扱いが下手だったみたいではないですか」


 そんなこと言われてもなぁ……
 こっちはこっちで大敗して凹んでいるっていうのに……


「そういう意味じゃ無いけど……。それにしても、やっぱズルいよ剛体! ただでさえ体力差有るのに、攻撃まで通らなかったらどうにもならないよ!?」


 ここ数日で嫌という程体験してきたが、やはり日中のトロールの戦闘力は異常である。
 無尽の体力に鉄壁の防御、おまけに優れた体躯から繰り出される強烈な攻撃。正直お手上げ状態である。


「剛体なら、トーヤも使えば良いではないですか。理由はわかりませんが、あの時貴方は使いましたよね?」


「それは俺も気になっていた。あの時、ゴウの一撃を生身で受けたにも関わらず、お前は耐えきってみせた。あれはどういうカラクリだ? あの一撃は、生身で喰らえば我々トロールや、戦闘に特化した獣人でも致命傷は避けられん威力だったハズだ。ゴウが言っていたように、やはり剛体を使ったのか?」


 二人は真剣な表情でこちらに尋ねてくる。
 自分でもまだ扱いきれていない為、あまり口にはしたくなかったが、仕方ないか……


「……俺の認識通りなら、君らの使う剛体で、間違いないと思うよ」


「え……? どういう事? 剛体って確か、トロールや獣人、一部の魔獣しか使えないと思ったけど……。トーヤ、使えるの?」


 ライはあの時、ほとんど意識を失っていたので、ゴウの攻撃を受けた俺を見ていない。
 だから、俺が剛体を使ったと聞いても信じられないのだろう。
 しかし、ガウの言う通り、あんな一撃を俺が何もせずに受けていたら、半身を根こそぎ持っていかれたに違いない。
 あの時、とっさに剛体もどきを展開していなければ、俺は間違いなく死んでいたハズだ。


「まあ、トロールの使う剛体とは違って常時展開は不可能だけどね。意識して、局所的であれば、恐らく誰にでも可能な技術だよ」


「「「本当に(か)!?」」」


「ああ、何となくだがコツも掴めてきたし、そろそろライとも共有しようかと思っている」


「……本当に、僕も使えるようになるの?」


「もちろん。ライならすぐに使いこなせると思うよ」


「お、教えて!」


「私達も是非聞かせてもらいましょう。実に興味深い話ですからね」


「……まあいいけど、その前に剛体に対する俺の見解を聞いてくれ」


 そう言って俺は、自分の剛体に対する見解を説明した

 まず俺は、イオがゴウの放つ飛礫剛体で防いだ際、その見た目から非常に効率の悪そうな技術だと思った。
 というのも、本来正面にさえ展開すれば良い筈の魔力が、背面どころか全身から噴き出していたからである。
 あんなに大量に魔力を吹き出せば、そりゃあ消費魔力も大きくなるに決まっている。
 日中に無尽の魔力を誇るトロールや、魔力総量の多い獣人でなければ使用できないのも当然と言えるだろう

 ……しかし、それなら逆に、剛体が展開される箇所を限定することができれば、他の種族でも使えるのではないか?
 あの戦いの中で、ふとそんな仮定が頭を過ったのである。
 まさか、実戦で試すことになるとは思わなかったが……


「……成程な」


「ガウ達が使う剛体は、基本的に制御は精霊任せなんだろ?」


「そうだ。意識して発動することも出来るが、基本は精霊が勝手に反応して防御を行う。認識外の攻撃も防ぐ故に、戦場では常に展開されていると思っていい」


 全く、頭の痛くなる話である。
 意識外の攻撃まで防がれては、堪ったものでは無い……
 しかし、その万能っぷりが、恐らく彼らの認識を縛り付けたのだと思う。


「確かに便利だよな。常在戦場って感じで、不意打ちや奇襲にも強いし。……でも、実はその便利さ故に精霊任せで大雑把に展開しているから、剛体の消費魔力が多かったってわけだ」


「……つまり、あの時トーヤは、剛体の出力量を自ら制御した、と?」


「その通り。あの時俺は、自分の肩と脚だけ、それも一瞬の間だけ剛体を発動させた。それが、魔力の少ない俺が剛体を使えたカラクリさ」


「……剛体を制御する、か。俄かには信じられんな……」


 そんな大げさなことでもないんだけどなぁ……
 もしかしてトロールって、内精法苦手なのか?
 確かにここ数日の訓練を見てると、内精法がちょっと大雑把だなって思ってはいたが……


「まあトロールの場合は滅多に必要ないことだとは思うけど、できると間違いなく便利だぞ? 急に天候が変わったり、戦いが夜まで長引く可能性だって無いわけじゃないしね」


「ふむ…………」


 ガウが難しそうな顔で腕を組んでいる。
 イオは……、何を考えているかわからないな……


「……そんなに難しいことなのか?」


「いや……、そうでは無いんだが、前例が無いからな……」


 まあ、掟を重んじるトロールにとって、新しいことを取り入れるのには抵抗があるのかもなぁ……
 俺としては別に強制したいわけじゃないし、オススメ程度の気持ちだったから別にいいんだけどな。


「……はぁ、ガウ貴方はまだそんな細かいことを言っているのですか。そんなことだから、ゴウがああなる前に止めることができなかったのですよ?」


「イオ、しかしだな……」


「まあゴウの件は貴方だけの責任ではありませんが、今は仮にも私たちの代表となったのですよ? 少しはしっかりとなさい。そんな事では、いつまで経っても貴方はゴウのことを超えられませんよ?」


「むぅ……」


 イオに責められ、やや小さくなってしまったガウ。
 いつもは漢気ある偉丈夫が、妙齢の美女にやりこまれていると、なんだか美女と野獣を連想してしまう。
 折角なので、俺も少し追撃しておこう。


「……なあガウ、ゴウはあの戦いで、夜間にも関わらず剛体を使っていただろ? イオはあれを、食料の過剰摂取によるものだと言っていたけど、アレだって勝つための工夫の一つだ。……やり方は褒められたものじゃないがな」

 ゴウは、光合成のバックアップ無しで剛体を使用した。
 イオはそれを、食料の過剰摂取によるものと推察していたが、概ね間違いないと俺も思っている。
 恐らくだがゴウは、光合成の要領で糖やカロリーを魔力に変換していたのだと思う。
 その為にオーク達を食った事は許せないが、あれはあれでゴウなりの工夫だったのだろう。


「ゴウのようになれと言うつもりは毛頭ありませんが、貴方はもう少し柔軟な考え方を学ぶべきだと思いますよ」


 ……まあ、イオの場合は自由奔放過ぎる気がしないでもないけど……


「……そうだな。すまん、見苦しい姿を見せた。古い考え方に捉えられていては、ゴウを超えるなど出来ようはずもなかった」


 そう言ったガウの表情は、先程までとは違い晴れ晴れとしている気がする。
 ガウの中で何かの折り合いがついたのだろう。


「……ガウは、あのゴウを超えるつもりなの?」


 それまで黙って話を聞いていたライが、神妙そうな顔つきでガウに尋ねる。


「無論だ。ゴウを超えることは、幼少からの俺の目標だからな」


「……そう。凄いねガウは。正直、僕はアレを見て、アレを超えようなんて発想は全く起きなかったよ」


 ライにしては珍しく弱気な意見を吐く。
 しかし、アレを目の当たりにしたのだから無理もないか……
 それ程までに、あのゴウはすさまじい戦闘力を誇っていた。
 恐らく日中であれば、俺達全員がかりでも討つことは出来なかっただろう。


「そういえば、ゴウのとどめはトーヤが刺したんだよね? その時の状況は聞いてるけど、一体どうやって?」


「っ! それは私も聞きたかったことです。あの時、貴方は何故ゴウの急所を突くことができたのですか?」


 ああ、そういえばゴウの秘密については、まだトロール達にすら説明してなかったか。
 ……ゴウに同情の余地は無いんが、あれについては同じ一族の者として、知ってはおくべきだろうな……



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