27 / 112
第一章 レイフの森
第26話 多頭のトロールに対する見解①
しおりを挟む「説明をする前に、俺も確認したいことがある。ガウ、感覚遮断について詳しく教えてくれないか?」
「ああ、別に隠してるわけでもないし構わんぞ。……以前も軽く説明したが、俺達トロールは意識的に一部の感覚を遮断することが可能だ。俺がやったような痛覚や嗅覚の遮断や、触覚、味覚などの遮断などが代表的な使用例だ。特によく使うのは味覚の遮断だな。俺達のような流れの生活を送っている者は、碌なものにありつけないことが多いし、中々に重宝している」
味覚の話をしながら、ガウは渋い顔をしている。
イオも凄く嫌そうな顔をしているし、何かとんでもないものを食べたのかもしれない……
それはともかくとして、俺は続きを促すことにする。
どうにも、それだけでは無い気がしたからだ。
「……それだけか?」
「……いや、個人差もあるが、感覚を遮断する際に他の感覚が若干だが鋭敏になる。これに関しては、ほとんど気のせいだと思う者もいれば、明確に効果が出る者もいる。俺の場合は後者だな。だから、あの異臭攻撃は本当に致命的だったぞ」
……やはり、そうか。
トロールは体躯こそ優れているが、獣人のように五感の類が発達しているわけではない。
しかし、あの夜俺と対峙したガウは異常な程優れた感覚を持っていたため、違和感があったのだ。
「成程ね……。しかし、そうなると本当にやばかったな……」
「どういうこと?」
「これはあくまでも仮説なんで、それを承知の上で聞いてくれよ?」
まあそう前置きしつつも、色々な調査結果から俺の中では確信に近いものになっているんだがな……
「これはザルアさんやソクに聞いた話なんだが、過去に現れた多頭のトロールにはいくつかの共通点を持っていることがわかった。非常に凶暴な性格に旺盛な食欲、それに圧倒的なまでの戦闘能力だ」
多頭のトロールは、その凶暴な性格からか、過去にも何度か事件を起こしているらしい。
それも結構な大事件だったらしく、ある程度の年配者であれば誰でも知っている有名な事件もあるようだ。
この情報伝達手段の限られた魔界で有名というくらいだから、余程酷い事件だったのだろう
まあ、多頭のトロール自体が希少であるらしく、件数自体は少ないようだが……
二人に聞いた中で最も新しい話は、数十年前に発生した都市部の大量虐殺事件についてだ。
犯人は三つ頭のトロールで、獣人達が鎮圧に来た時には既に、都市の1/5程の人口に被害が及んでいたらしい。
これだけでも大事件ではあるのだが、さらに驚くべき内容は、そのトロールが獣人の鎮圧部隊を返り討ちにしたという話だ
獣人達の鎮圧部隊は、百名以上人からなる精鋭部隊だったそうだが、それをたった一人で返り討ちにしたというのだから恐ろしい話である……
結局、そのトロールは獣人族の王に討ち取られたようだが、多くの住人を失ったその都市は廃都市と化してしまったそうだ。
この事件の内容は、都市から逃げ出し、各地に散らばった者達が広めたようである。
「なぁガウ、一つ確認するが、獣人の精鋭百人を相手にするなんてこと、普通できると思うか?」
「……無理だな。数人ならともかく、獣人相手で十人以上となると無事では済まん。しかも、精鋭相手となればなおさらだ」
ガウも武力に関しては自信があるだろうから、やってみせる位は言うかと思ったが、冷静な回答が返ってきた。
戦闘に対する誠実さが伺えるな……
「そうだよな。烏合の衆ならともかく、きちんと連携の取れた集に対して、個でそれを打ち破るのはほぼ不可能だと思う。しかし、その多頭のトロールはそれをやってのけた。それも獣人百名以上に対して……」
「それは……、圧倒的な実力差があったから、とかじゃないの?」
ライがやや難しい顔をしながら意見を投げてくる。
表情や『繋がり』からも伝わってくるように、本人もあまり自信は無いようだ。
「まあ、それもあり得る話なんだけど、獣人ってそんな生易しいのか? 聞いた話だとトロールに匹敵する戦闘力らしいけど」
「いや、そんな手緩い手合いでは無いぞ。奴らは獣神流という戦闘術を用いる上、攻撃方法も多彩だ。実際、俺達の仲間も何人か獣人相手に殺されている。それも日中にな」
日中のトロールを殺すって、とんでもないな……
獣人がそこまで強いとは正直思っていなかった。
とりあえず、喧嘩は売らないようにしよう……
「そいつは凄まじいね。でも、それなら話に出てくる三頭のトロールが如何に異常かはわかると思う。そして、先日の戦いで俺は、ゴウにも同じようなものを感じたんだ」
「……確かに、ゴウは俺達数人が同時に挑んでも勝てぬ程であったが……」
「うん。実際あの戦いで、ゴウはあの闇の中でイオとライの攻撃を余裕で防いでいたし、ガウ達が加わってからも反応自体は完璧だった。つまり、体力と魔力さえ残っていれば、あの状況でも倒しきることはできなかったと思うんだ」
「………………」
無言、それは否定できない故の反応であり、肯定のあらわれだ。
「さて、じゃあガウが無理だと言ったことをやってのける多頭のトロールは、通常のトロールとどう違うと思う?」
「それはやっぱり……、さっき言ってた性格、食欲、戦闘能力、かな?」
「そうだね。でも、それって本当に特別なことかな? 俺から見れば、その三つってトロール全員に言える事だと思うけど」
「……確かにな。俺達は獰猛とまは行かないが好戦的だし、食欲も旺盛で戦闘能力も高いと言っていいだろう」
「そう。実はその三つは、そう特別なことじゃない。食欲だけならイオだって大分ヤバイって言えるし」
「トーヤ、それはどういう意味でしょうか?」
おっと、顔は笑っているのに目が笑っていないぞっと。
美人がそんな顔をすると妙な迫力があるな……
でも、本当のことだろ……?
「よ、ようは通常のトロールとの最大の違いは、そういった個人差で片付けられるような部分では無いよってことね」
「ん~、でも他の違いなんて、頭の数くらいしか……」
ライが首をかしげながらつぶやく。
しかし、その呟きこそが俺の質問の答えに他ならなかった。
「そう。目に見えて異なる点というのは頭の数だよ。そして、それこそが差を生み出している秘密でもある」
「しかし、ゴウは二つ首があっても動きが同調するただの飾りだと言っていたぞ。急所が増えるし、うっとおしいだけだとも……」
確かに、ゴウの二つ存在する頭は、それぞれ別の行動をしているようには見えなかった。
同調しているというのも、嘘ではないと思う。
ただ、実際はそれを意識的に切り替えることができたのだと俺は予測している。
何故ならば、ゴウは、イオとライの攻撃を受けている際、間違いなくそれぞれの目で追って対処していた。
つまり、ゴウは……
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
盾の間違った使い方
KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。
まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。
マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。
しかし、当たった次の瞬間。
気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。
周囲は白骨死体だらけ。
慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。
仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。
ここは――
多分、ボス部屋。
しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。
与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる
【異世界ショッピング】。
一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる