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第二章 森の平定
第76話 闘仙流 朝の稽古
しおりを挟む――レイフ城・外部演習場
早朝、レイフ城の外部演習場では奇妙な光景が繰り広げられていた。
「よし、いい感じだ。じゃあ、次は左手に意識を集中し、俺の動きに合わせるように動いて」
「「「はい!」」」
城主でトーヤに、その近衛兵であるスイセンとライ。
そしてコルト達ハーフエルフの子供達と、小人族の生き残りであるヘンリク、イーナ、それにシア達親子。
殺伐とした演習場の雰囲気にそぐわない面子が集まり、何やら怪しげな踊り? をしている。
俺は城から出ると、一足先に訓練を開始していたデイとダオを発見し、声をかける。
「デイ、ダオ、今日も早いな」
「あ、ガウ兄! おはようございます!」
デイが駆け寄ってきたので、軽く拳を重ねて挨拶を交える
「……所で、あれは何をしているんだ?」
俺は再び視線をトーヤ達に移して尋ねる。
「 ……さあ、なんですかね?」
「俺達が来た時には、もうあの奇妙な踊りの練習を始めていたぞ?」
俺よりも早く来ていた二人であれば、あの奇妙な動きが何か知っているかと思ったのだが、どうやら彼らはそれよりも早くから練習を始めていたらしい。
「……わけがわからんな」
どうやらトーヤが率先してあの動きを教え込んでいるようだが、俺の目からはどう見ても踊っているようにしか見えない。
あの男のことだから、あの動きにも何らかの意図があるのだろうが……
「よし、次は右足に集中! ゆっくりと膝を上げて、右斜め前にゆっくりと降ろす。この時もしっかりと流れを意識して!」
「「「はい!!」」」
……やはり気になる。
あの動きは一体なんなのだろうか?
このままでは集中できそうにないの為、俺は直接トーヤに尋ねてみることにする。
「トーヤ」
「あ、大きなおじちゃんだ!」
「こら! セシア! ガウさんに失礼でしょ! ……どうもすみません。ガウさん」
「ああ、いや、構わないんだが……。むしろ邪魔してこちらこそ済まない。……トーヤよ、これは一体、何をやっているんだ?」
「おはよう、ガウ。え~っと、これはまあ、武術の稽古になるかな? 型の練習なんで、体操みたいなものだけど」
「武術だと? この動きがか?」
この亜人領において、武術と呼べる流派は大きく分けて三つ存在する。
一つは獣人達の使用する獣神流。
二つ目はその亜種である皇牙流。
三つめはイオが少しかじっていた亜神流剣術。
他にも細々した亜流は存在するが、一般的に知られているのはこの三つだけだろう。
しかし、俺が見た限りでは、トーヤ達の動きはそのどれにも該当しない気がする。
「まあ、これを見ただけじゃわからないよな。……一応、この動きは俺とスイセンさんが考案した新流派の型なんだよ。まあ、基本技術的な動きしかできていないけどな……」
「っ!? 新しい流派、だと!?」
トーヤの答えに、俺は心底驚く。
「それは、亜流や分派の類でなく、完全に新たなる流派ということか?」
「ああ、そうなるな。まあ勿論、色んな流派の動きは参考にさせて貰うつもりだけど」
それはまあ、当然のことだろう。
武術の流派とは、他の流派の優れた部分を取り入れて成長していくものだと聞いている。
「しかし、その動きは一体? 正直、俺の目には踊っているようにしか見えないが……」
「あぁ……、まあ、そうだよな。確かに太極拳なんかも踊っているように見えなくもないし、普通はそう見えるか」
太極拳? よくわからないが、踊りと言ったのは少し失礼だったかもしれないな……
「悪く思わないでくれ。俺も剣舞や演武は見たことがあるし、そういった訓練方法があることも理解しているつもりだ。ただ、ここまで緩やかな演武は見たことが無くてな……」
「まあ、確かにこの新流派は少し特殊だからな。でも、今は基本技術の向上が目的だし、これでも十分練習になるんだよ」
俄かには信じがたい話である。
俺としては、訓練をするのであれば実戦を想定し、同じ速度で行うべきだと思うが……
「……ガウの懸念点はなんとなく理解できるよ。でも、これは物理的な速度よりも、思考速度や反応速度を鍛える為の訓練なんだ。それこそが、この流派の神髄でもあるからな」
……確かに、そういった部分も重要だとは思う。
しかし、トロールである俺としては、やはりどうしても力や速度といったものを重要視してしまう。
「…………いや、俺にはまだ理解できないが、きっとお前のことだから色々と考えがあるのだろうな」
この男は、今までも俺の中の常識をいくつも覆してきた。
今度もまた、俺に未知の技術を見せてくれるのかもしれない。
「いやいや、そんな期待に満ちた目で見られても困るんだが……。手合わせしろとか言われても、まだ完成していないんだから駄目だぞ?」
「……そうか。では、その完成に期待しておく。邪魔して済まなかった。俺もお前達に負けぬよう、修練を積んでおこう」
「あ、ああ……」
いずれにしても、トーヤ達は新たな一歩を踏み出そうとしているワケだ。
ならば、俺達も負けてはいられない。
この地を守る戦士として、守るべき者達に後れを取るワケにはいかないからな……
◇
何か決意めいた表情で去ってくガウに、俺はついつい見惚れてしまった。
あれが漢の背中というヤツなのだろうか……?
俺なんかじゃ、到底あの雰囲気は出せそうにない。
「……っと、見惚れている場合じゃないな。とりあえず再開しようか! じゃあ次は左足行ってみよう!」
俺の動きに、コルト達は疑いも持たず素直に合わせてくれている。
正直自分でもかなり怪しい動きだと思っているのに、誰一人文句を言ってこない。
その信頼が嬉しくもあり、同時に責任の重さを強く感じさせた。
(この信頼に応えるべく、俺も精進するとしよう……)
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